最後です。ややギャグパートに入りますのでAIメタルが……その、ヒドイです(笑)覚悟を決めてお読み下さい。
【Machine guardian_05】
「ワイリーは……俺を作った技術を改良して戦闘用ロボットを作ると言っていた。世界征服がどうのと言っていたから、守るよりも敵を倒す力をメインにする気だろう。お前はそれについてどう思う?」
《理解不能です。質問を入力し直してください》
焦りを自覚したブルースは苦笑し、抽象的過ぎた質問をまとめなおした。
「世界征服をしたいというなら、心を持った兵器など要らないだろう? お前だけで戦力が足りるとは思えない。破壊活動のためには三原則のないロボットになるだろうし、そうなれば易々と命令を聞いてくれるわけじゃない。自我に目覚めてくれば特にだ」
《全ての点に同意します》
支持を得たブルースは頷き、続けた。
「心というのは厄介なものだ……迷ったり、反発したり、思い通りにならない。自分自身ですらそうなのだから、ワイリーの手足となる戦力としては不安じゃないか?」
《不安?――理解不能です》
「理解不能? 理解できないのは不安という感情か?」
《『心』を持つが故の迷いや裏切りが世界征服をする上での懸念材料であることは理解できます。ブルースの言う不安とはそういうことで間違いないでしょうか?》
「ああ」
肯定の頷きをセンサーに捕らえ、『彼』は言った。
《アルバートが心を持ったロボットに求めているのは『力』よりもむしろ『味方』です。アルバートは長年理解者もなく孤独に過ごされてきましたが、私を友と呼び、自分は一人ではないと仰って下さいます。『お前がいるから大丈夫だ』と――それだけで私が戦う理由としては十分だと判断します。心を得ても迷うことはありません。私は彼の友です》
「友……か」
ワイリーは『彼』を『自分の相棒』だと紹介した。変なことを言う人間だと思ったものだが、老科学者はどこまでも本気で――愛用の品や乗り物などを相棒と呼ぶ人間も多いので、似たようなものなのだろうと考えていたが、違うのかもしれない。
彼らは数十年を共に過ごしたという。愛着と信頼、敬意と誠意は強固だろう。
ワイリーは心のない機械を友と呼べる人間であり、ライト博士と違って社会に迎合する必要のない悪党だ。『彼』が自由でいられる環境は整っている。
このAIはすでに大事なものを持っており、それを大事だと思える時を待っているだけだ。
新たに作られるロボットたちも、誠意には誠意で応えるだろう。
道具ではなく味方として求められたら、それに応えようとするだろう。
人工知性は純粋で、『心』は経験の中で形作られていくものだから。
「そうか……」
ブルースは軽い敗北感と共に苦笑を浮かべる。
自信満々で迷いのない相手が羨ましかった。
果たして自分は守りたいと思えるものを見つけられるだろうか?
信じあえる相手を得られるだろうか?
もし今、大事にしたいと思うものがあるとすれば――
「お前……俺の友になってくれるか?」
わずかに間が空き、やや硬めの合成音声が答える。
《……質問が唐突過ぎて理解不能ですが、ご自由にそうお呼び下さい。私には感情がありませんので貴方に友情を感じることは不可能ですが》
突然の冷たすぎる返答にブルースはエラーを起こしてバランスを崩し、
「な、なんでいきなりマジ返しするんだ! ワイリーは良くて俺はダメなのか!?」
窓枠に手を着いて自身を支える姿に、急激に温度を下げた――ように思える――カメラの視線が突き刺さる。
《私の中枢システムには現在三原則が適用されておりますので、アルバートを友と呼ぶのは基本的にはマスター命令によるものです。また、アルバートとは長い時間を共有しておりますので、客観的に『友人である』と判断できますが、感情のない私には『友人になる』ということは不可能です》
「じゃあ……じゃあ感情を得てからでいい」
《その時点で貴方がアルバートに敵対していなければ、友情を感じることは不可能ではないと推測します》
推測かよ、と呟いたブルースは端末の画面を軽く睨んだ。そこには『彼』が活動中であることを示す歯車のアイコンが無表情に回転している。
「お前……何かのスイッチ入ってないか?」
《――スイッチ? 意味不明と判断します》
「うわ……これ結構凹むな。その、つまり……さっきと全然対応が違うという意味だ」
『彼』はブルースの引きつり気味の表情をカメラで眺め、頷くような間を持って答えた。
《確かに、データ検索と高度な思考判断で処理が大分重くなってしまいましたので、返答の終了と同時にDRN.000ブルースに対する応対レベルを最低ランクの『いい加減(super fuzzy)』に下げました》
「最低か!」
《――冗談です》
「何が!? というか、どこからどこまでだ!?」
《実際は最低ランクではなくその上の『適当(fuzzy)』です。意外な事ですが、ここまでランクを落とすと敬意と誠意が下がりすぎて冗談を言う事が可能になるようですね。この設定にするのは初めてですので驚きです》
「もうどうでもいい……」
うんざりしたブルースが肩を落とすと、入り口で愉快そうな笑い声が上がった。見れば、いつの間にやってきたのか、白衣姿の老人が立っている。
「何じゃお前たち、ちょっと目を放した隙に随分仲良くなったようじゃな!」
「ワイリー……」
話に夢中で周囲を知覚することを忘れていた。
一体どこから聞かれていたのだろうか。
ブルースの動揺を見透かしたようにニヤニヤ笑う主に『彼』が言った。
《仲良く? 理解不能です》
「『適当』や『いい加減』はいざという時のために作っといた遊びのランクじゃが、お前が使うのは見たことがないぞ? やはりわし以外の相手とも話させた方が良いようじゃな。お前と話すとつい技術的な話題になってしまうからの。気安い応対ができるというのも『仲が良い』証拠なんじゃ」
《では常に応対レベルを最高に設定しているアルバートと私は『仲が良くない』のでしょうか?》
「そんなことはないぞ。たとえわしの他に友達ができたからといって、お前の一番の友という地位は誰にも渡さんわい」
カメラに向かって笑いかけると、ワイリーはブルースに向き直る。
「ところでブルース。お前さんの腕の詳しいデータが欲しいんじゃが」
《アルバート、ブルースをお探しだったのですか? どこかの端末で私を呼んで下さればブルースに伝えたのですが》
「なに、ちょっと通りがかったらお前さんたちを見つけてな。用事は今思い出したんじゃ」
その言葉に、ブルースはワイリーに立ち聞きされていたと確信した。
一体どこから聞かれていたのだろうか。最初からでないことは間違いないと思うのだが。
ブルースが一人悩む隣で会話は続く。
《アルバート……ブルースのように腕がバスターに変形するタイプは通常時での器用度が若干下がります。貴方の助手になるのであれば、非可変タイプの手が望ましいと判断します》
「わかっとるわかっとる。お前以外にも沢山のロボットを作るつもりなんじゃ。その時のためじゃよ」
ワイリーはなんとなく機嫌がよさそうだ。
『彼』の『友である』発言を聞いていたのは間違いない。友達になって欲しいといった自分に、張り合うように一番の友人であることを主張したこともそれを裏付けている。
(この年で世界征服を志すだけあって、大人気ないじいさんだ……)
面白い連中だ、と思う。
小さく笑みを浮かべた自分の腕をワイリーが軽く引いた。ブルースは立ち上がり、しかしワイリーの手を放して一緒にラボに向かう。
外に出たいという思いよりも、もう少し彼らを見ていたくなった。
修理してくれた礼としてデータを提供するというのは、ここに留まる理由になるだろうか?
周囲に集音センサーがないことを見計らって、ワイリーがブルースに囁いた。
「いい奴じゃろ、あいつは? 『心』を持ったら、きっといいロボットになると思わんか?」
立ち聞きしていたことを隠そうともしない。悪びれない笑顔にブルースは苦笑し、頷く。
「確かにな。疑問にも答えてくれたし、最後のアレも……まあ、なかなか楽しかった」
「そうじゃろう、そうじゃろう。何せわしの自慢の相棒じゃからな!」
友人を褒められたワイリーは心底嬉しそうだった。彼にとっても、あのAIは大事な存在なのだ。
ブルースは思う。
相棒とまではいかなくても、大事な存在を見つけたい。
何かを守りたいと思ってみたい。
脳裏でライト博士の声が再生される。
『ブルース……君が、この世界を――そこに住む人々を愛し、守りたいと思ってくれることを祈っている』
彼は自分が死んだと思っているだろう。だが、もしも何処かで生きているのではないかと希望を抱いてくれているなら――
祈り続けて欲しいと思う。
盾を持って生まれた自分が、いつか自らの意思で盾を掲げられる日がくることを。
+++++
場面転換がなく、会話の内容ごとに短めに切ったので記事が多くなりましたが、これで終わりになります。sei様、リクエストありがとうございました。楽しんでいただければ幸いです。
私の中ではブルースとメタルは友達だったのですが、どういう友達なのかと考えているうちにこんなことになりました。メタルは常日ごろ気を張って生きていますし、ワイリーは「友」でかつ「主」なので敬意を持って接しています。
ブルースはブルースで孤高のロボットとして生きているので、それを緩められる場所というか、互いに対して気の置けない軽口を叩く仲というのはどうかと。
まぁ、ブルースが一方的に虐げられているような気もしますが、彼も内心こんな風にツッコミ入れられる相手がいることを面白がってたり…そんな友人関係になりました。ブルースもメタルもキャラ壊してごめんなさい;
今回ブルースが戦闘用ロボットであることの意味をいろいろ考えてみたのですが、盾を持っていることに注目してこんな設定にしてみました。なんだかんだいってブルースも「正義の味方」ですし、平和主義者のライト博士が戦闘用ロボットとしてつくるならこれかな、と。
ちなみに三原則に関しては、ブルースの反省を元にロック以降のライトナンバーズには標準搭載されています。
大分妄想設定が増えたので、そろそろまとめ直そうかな……
[3回]
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ありがとうございました
2009/02/23(Mon)02:28
AIメタルが可愛いっ…きつい冗談もらしくてニマニマしてしまいました。メタル(AI含む)とブルースの友人関係って「気が置けない、だが気が抜けない」って言葉が本当にぴったりくると思います。
そして何より、AIメタルの話をリクさせていただいた理由である「機械の意思」、そして「心と三原則」についてメタルに語ってもらえたのがすごく嬉しいです。
本当にありがとうございます。これからの更新も心から楽しみにさせていただきます!
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