3万&4万ヒットリクエスト「 メタル視点でメタクイ」です。
重ね重ねお待たせいたしました!想像以上にお兄ちゃんが頭おかしくなりました。年齢指定は入らないレベルですが、ちょっと思考が大人方面に自重してないのでご注意ください。
激しくご期待とそれている気がするのですがお受け取りいただけると嬉しいです(汗)
ああ、足りない。これでは足りない。
硬い殻を切り裂いて、中身を曝け出させたい。
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DWN.009メタルマンは悩んでいた。もちろん、私的な思考で仕事(ワイリー博士の助手)に支障をきたすわけにはいかないので休憩時間を使って悩んでいる。現在は本日業務は終了しており、誰もいないリビングで黙考中だ。
案件は、最近ようやく互いの気持ちを確かめあって交際することになった弟機――DWN.012クイックマンのことだ。
キスは何度もした。
一週間ほど前、ついにコア同士を結線して擬似的な情交などもしてみたが、
(あれでは足りなかった……)
ロボットにとっては魂の在り処ともいえるコアを同調させる行為は、自分たちとしてはもっとも深い交わりになるはずだが、自分は満足を得ていない。
ケーブルで繋がりあい、指を絡めて寄り添っていたあの時間――間近にあった想い人の顔は、負荷と緩い快楽信号で上気して歪み、うっすらと洗浄液の涙を滲ませていた。
軽くこちらの胸に頭を預けた彼の姿を愛しく思いながらも、内心もっとぐしゃぐしゃに泣いた顔が見たいと思っていた。
何度も心理系のログを遡って確認したので間違いない。
それが悩みの元だった。
(俺は一体あいつをどうしたいんだ……?)
自分はクイックを戦士として育ててきたつもりだ。
人間にはかつて鷹匠という職業があったらしい――自由に大空を飛翔する鷹が雄々しくも優雅に羽ばたき、獲物を狩り、そして最後には自分の腕に舞い降りて来る。
その誇らしさは、自分がクイックに感じていたものと同じだろうと推測できる。ならば、その翼を傷つけることなどあってはならない。それでは本末転倒もいいところだ。
快楽が足りないのだろうか。コアでの交わりは心と心を重ねるもので、どちらかというと精神的な充足がメインになる。
純粋に快楽だけを追求するなら人工知能向けの電脳麻薬が一番だが、それは求めるものとは違う確信がある。
(やはり人間のような交わりを望んでいるのか……? 俺たちにとっては何の意味もない行為だというのに)
人間の労働を肩代わりするのがロボットの役目であれば、当然のようにセクサロイドの研究は進められている。そちらではより人間に近いつくりのロボットが開発されているのだ。
どちらにせよロボット工学であることには変わりないのでデータや論文などの情報収集は行っている。現在ワイリー、ライト両博士が共同開発中のロボットに関しては現存するナンバーズよりも人間から離れた外見になる方向で設計が進んでいるため有益な情報ではないが、目下自分が捕らわれている案件には密接にかかわっているとも言える。
(何せ、俺とクイックを改造すれば出来るとわかったからな……)
セクサロイドの設計データを見ても人間たちが具体的に何をしているのか細かいところまでは解らなかったので、ここ数日は休憩時間を利用してネットでAV鑑賞+官能小説乱読などしていたのだが、
(バブルに見つかって「真顔で何やってんのさ!?」とか言われたな。あいつが大声出して驚くところなど初めて見たが、あれ以来ちょっと避けられていると思うのは気のせいだろうか?)
正直なところ、受け手をクイックに置き換えて脳内再生してみたら結構興奮した。ワイリー博士と自分が丹精込めて設計したあの若々しく美しい顔が、羞恥と屈辱と甘い苦悶に歪む――プライドの高いクイックが「自分だけにそんな顔を見せてくれたら」と思ったのだ。
自分の心を分析してもロクなものは見つからないといったのは誰だったか。まったくその通りの結果だった。
クイックは何やらこちらを尊敬しているようだが、そんな価値は自分にはない。
DWNのリーダーだとて、本心では柄ではないと思っているのだ。
ワイリー博士の夢はあくまで彼の夢だ。
彼の世界で暮らせたらいいと思う。だが、自分は父にして友たるワイリー博士と、愛しい弟たちと過ごしたあの時期が、この上なく幸せだった。おそらく、弟たちも内心では戦いなど望んではいなかったのではないだろうか。
それでもメタルは弟たちを戦いに駆り立ててきた。そうしなければ、違法なロボットである自分たちに生きる道はなかった。ひっそりと営まれる平和な生活は、いずれ乱されるのが必然。ならば、博士を世界の王にし、ロボットの独立を勝ち取り、その上で堂々と平和に暮らせばいい――そう自分に言い聞かせながら、弟たちを死地に向かわせた。
ロックマンとの戦いを経て生き残り、しかしこれはつかの間の平和に過ぎない。
博士があきらめない限り、自分は従う。
恐れを抱きながら、何度でも、弟たちを戦地に向かわせるだろう。
愛する人に向ける自分の欲望がストレスから生じた歪みだとは思わないが、やはりクイックは自分を誤解していると思う。
弱く、求めるばかりで、背徳的な、醜い感情だ。
誇り高く駆ける彼を掴んで転ばせ、泥沼に引きずり込んで溺れさせてみたい。
自分だけにそれを許して欲しい。
それでいて、輝きを失わないでいて欲しい。
身勝手な思いだ。
官能小説の中でいくつか同じようなテーマがあった。穢れない至高の存在を貶め陵辱する歓びという奴だ。思いきり共感できてしまったあたり、自分の嗜好はやはりそういうものなのだろう。
(あいつに知られたら嫌われるかもしれんな……)
クイックはプライドが高いためか、羞恥心が強い。その殻を砕いて、なにもかも曝け出させてやりたいとこちらが思っていることを知ったら、いい気はしないだろう。
だが――嫌われたならそれでもいいと思う。
そのときは、消してしまえばいい。主であるワイリー博士には厳禁されたが、メタルはこんな思いを抱いたまま生き続けるくらいならば消してしまったほうがいいと思っている。
自分の汚れた愛も、クイックの純粋な恋心も、皆自分たちの中から削ぎ落として無かった事にしてしまえばいい。
クイックの疾走を惑わせるものなど、あってはならない。
心が刃物のように鋭く磨がれていく感覚に薄い笑みを浮かべたとき、
「メータール!」
「!?」
座っていたソファの背側から抱きつかれた。金属の重みが肩にかかる。
「……クイック」
振り向くと、すぐ傍に恋人の顔があった。
「あ……ひょっとして寝てたのか? だったら、起こして悪かったけど」
「いや……」
センサー類のログには、確かにクイックの接近を示すデータが残っている。メタルは相手の気遣いに首を振って否定を示した。
「少し、考え事をな。気づかなくて悪かった」
「そっか……――なぁ、仕事終わったんなら、一緒にいていいだろ?」
「ああ」
メタルは頷き、嬉しそうに笑う頬を軽く引き寄せた。
「……っ」
意図を察したクイックの顔がぱっと赤らむ。だが彼はぎゅっと目を閉じつつも逆らわず、大人しく数センチの距離を詰めて来た。
「ん……」
緊張に固く引き締められた唇をわずかに湿らせただけでメタルは顔を離した。
「……クイック、こっち側に来い」
言われた相手はさっと左右を見回して家族の姿がないことを確認する。
「大丈夫だ。皆自分の部屋にいる」
「わかってるけどさ……」
行儀悪く背もたれを乗り越えた弟は、一瞬の躊躇いの後、おずおずと身を寄せてくる。メタルは腕を伸ばして迎え、抱き寄せ、今度は深く唇を重ねた。
心を分析してもロクなものは見つからない。
自分の一番奥底の部分では、建前のない昏い感情が踊っている。
――クイックが俺を愛さないのなら、俺が与えた全てを奪ってやる。
共に過ごしたキオクも、抱いたキモチも、そこから変わって行ったココロも全部、全部リセットして――自分に一切かかわりのない存在として生まれ変わればいい。自分もまた、クイックのことを忘れよう。
クイックと口付けを交わしながら、メタルは刃のように鋭くドス黒い感情を静かに心の奥底に沈めていった。
自分のココロの底には、そういった目を覆いたくなるようなものがヘドロのように沈殿している。
こんなもので愛しい人を汚したくない。
離れようと思う心とは裏腹に、細身の機体を抱く腕には力がこもった。すがりつくような、金属の身体が軋みを上げるほどの抱擁にクイックはわずかに身を固くし、しかし応えるように深く腕を回してきた。
捧げるようにこちらに差し出されていた舌を強く吸うと、小さく声を漏らして涙を滲ませる。
「……メ、タルっ」
身を捩って離れたクイックが口元を拭いながら言った。
「何か……あったのか?」
潤みを残しながらも真っ直ぐ覗き込んでくる翠の瞳にメタルは言葉を失った。
無表情さゆえ硬直には気づかなかったのか、クイックは目を泳がせ、躊躇いがちに口にする。
「その……――キ……ッ、キスだけじゃ、足りない、なら……この間の、アレ……し、しても……いいぞ」
言いながら赤面していく弟をメタルは本気で心配した。クイックはキス以上のことを自分から口にしたことがないのだ。コアを結線させたことについて次の日から一切口にしようとしなかったので、気に入らなかったのだろうと勝手に納得していた。
「まさか、お前から言い出すなど……一体どうした? 何か変なウイルスでも拾ったか?」
「ひっ、人が心配してやってんのに失礼な奴だなお前はっ!」
叫んだクイックはしかし、すぐに眉尻を下げた。
「だってお前……なんか物足りなさそうな顔してっから……その……」
「……俺はそんな顔をしていたか?」
「してる」
即答したクイックは指先で顔に触れてくる。
「今も、してる……」
「…………?」
メタルは感情表現プログラムをチェックして首を傾げる。今、自分は『無表情』であるはずだ。足りない足りないと繰り返す内心が表に出ているはずなどないというのに。バグだろうか。
溜息と共に首を横に振り、頬に伸ばされたままのクイックの手を握る。
引き離そうと思ったはずなのに、気づけば指先を口元に寄せ、唇で触れていた。
(何をやっているんだ俺は――ダメだ。末期だ。もう人格をリセットするしかない)
嫌がる感情をねじ伏せ、告げた。
「別れよう」
「絶対別れないからな」
同時に発せられたセリフにエラーが溢れた。
センサーに納めた視界内では、クイックが怒ったような表情でじっと睨んでいる。エラーを処理し、クイックのセリフを再生して確認し、
「……――何だと?」
「それは俺のセリフだっての……」
クイックはがっくりと肩を落とし、こちらの胸に顔を押し付けてきた。
「あんな言葉……ハッキリ言いやがって。本心じゃなくても傷つくだろうが」
(……何故ばれている?)
動揺しつつも想い人の身体を離すことができず、逆に腕を回して支えた。この体勢では全く説得力がないなと思いつつ主張してみる。
「クイック、俺は本気だ」
「……じゃあ俺が嫌いになったのかよ」
「それは違う――…………あ」
「『あ』ってなんだよ、『あ』って……」
即答してしまったことに我ながら驚いたのだが、それで腹が決まった。
情けないことだが、欲望をこのまま隠しておく自信がない。嫌われても良いから、それを説得の材料として言ってしまおう。
「俺の中でいろいろなものがエスカレートしてきている。ここままではいつか、お前を傷つけるか、失望させるだろう。だから、その前に――」
クイックがぱっと顔を上げてさえぎった。
「その前に、『消す』ってのかよ。お前っていつもそうだよな。博士にダメって言われたことでも、自分がこうだと思ったらやっちまうんだから」
「……知っているのか?」
今日はクイックに驚かされてばかりだ。
「博士が教えてくれた。俺と付き合いたいって博士に許可もらったんだろ? そんとき、もしダメだって言われたらメタルと俺と、両方の愛情を『消す』って……――絶対ダメだからな。そんなことしたらお前のこと一生許さないからな。俺のこと幸せにするって博士に約束したんだから、きちんと幸せにしてもらうからな」
博士はそこまでバラしたのか。
「だが、俺はきっと――」
不利を悟りながらも繰り返そうとしたメタルは、クイックの手で口を塞がれて再び言葉を途切れさせた。
「俺は平気だ」
そう言った想い人の顔は、戦いに臨む様に凛と引き締まり、意思と矜持に輝いていた。
「俺は平気だ――傷つこうがぶっ倒れようが、必ず起き上がってまた走り出してみせる。なぜなら、俺はクイックマンだからだ。それはお前がどうしようが変えられるモンじゃない。だから……」
クイックはゆっくりと息を吐いて表情を緩める。
「俺に抱いてる想いがあるなら、遠慮しねぇで、俺にくれよ……お前がくれるものなら、キレイなものでも、汚くても……何でも、全部……――欲しい、んだ」
言いながら真っ赤になってうつむいていく。自分の言葉の恥ずかしさに小さく震えているクイックを見ながら、メタルは心の内圧が急上昇していくのを感じた。
ダメだ。可愛い。愛している。死にそうだ。
同じ単語を脳内で無限ループさせながら顔には出さず内心で悶える。
落ち着こうと深く吐いた息は、内部温度の上昇で随分と熱されていた。
「メタル?」
よし落ち着いた。
「正直、お前にそこまで愛される理由が見当たらない。俺にそんな価値はない」
「馬鹿野郎。価値とか自分で勝手に決めてんじゃねぇ。お前はこの俺が選んだ奴なんだから自信持て」
声は力強いが、クイックの顔はまだ赤い。
「……俺の考えていることを知ったらお前は逃げ出すと思うが」
「逃げねーし……大体、今までも逃げてないだろ」
「?」
「コア結線したとき……なんとなく伝わってきたんだよ、お前がなんかいろいろ考えてんの。足りないとか、俺のこと泣かしたいとか……」
傷つけるくらいなら離れたほうが良いんじゃないかとか。
力なく呟かれた言葉に、メタルは納得した。考えが顔に出ていたわけではなく、とうに知られていただけだったのだ。
「一応聞くが……泣かせていいのか? 手段の詳細はこれから考えるが」
「うるせー! 泣いてなんかやらねー!」
「ああ、その方が泣かせ甲斐があっていい。必死に耐えるお前をじわじわ突き崩していくほうがきっと楽しい」
「お前マジで言ってるだろ!」
「俺はいつだって本気だ」
研ぎ澄まされた刃のように本気だ。おまけに毒まで塗りつけられている。
刃とは、うかつに触れれば切れるものだ。
それを承知で触れてくるのなら……ありったけの愛情を込めて切り裂いて、甘く苦い毒で脳髄まで狂わせてやる。
こんな汚らわしい愛情でいいのなら――
メタルはむすっとした顔で黙り込んでいるクイックの手を取り、注意を引いた。
目元にまだ赤みの残る頬にキスをする。
「愛してくれ、クイック」
言葉の内容に、翠の目がわずかに見開かれる。それに頷き、
「俺はずっと博士の傍にいると誓った。だが、お前には……俺の傍にいて欲しいんだ」
握ったままの手にもくちづけると、クイックが抱きついてきた。
「……ようやく」
「クイック?」
「ようやく、それを言いやがって……」
彼は噛み付くようにキスをすると、再びこちらの肩に顔を埋めた。
「愛してるって、何度も言ってるだろ馬鹿!」
「泣いてるのか……?」
「泣いてねぇよ馬鹿!」
否定の声は明らかに涙混じりだ。こちらから顔を隠したのは泣き顔を見られたくないからだろう。「泣いてなんかやらない」と言った傍から泣いてしまったのが悔しいに違いない。
メタルは愛しさに表情を緩ませ、背中を撫でる。
「そういえば、愛しているとは何度も言ったが、愛してくれとは言った覚えはなかったな」
自分にとって愛は与えるもので、それを請うのは迷惑なのではないかと思っていた。だから、クイックを過剰に求める自分を嫌ったのだが。
「言って欲しかったのか?」
「だって……」
言い淀んだクイックは、消え入りそうな声で続けた。
「ずっと……お前のこと追いかけてて……――俺ばっかり、好きになって欲しいなんて、悔しいだろ……」
可愛い。愛している。死にそうだ。
「かわいいなお前……すごく可愛い」
思わず口から漏れた呟きにクイックが引いた。
「おまっ……恥ずかしいからやめろそれ……!! しかも何で真顔なんだよ!」
いたたまれなさそうに悶える恋人を見つめ、メタルは言った。
「何でと言われても……本気だからだな」
「余計に恥ずかしいわ!」
他の連中近くに来てないだろうな、と辺りを警戒しようとするクイックを強引に抱き寄せる。
「幸せだ……」
「だーかーらーっ!」
「お前も……幸せだと、思ってくれているのだろう?」
恥ずかしがって逃れようとしたクイックは、観念したように力を抜いた。どんな顔をしているか見てやろうかと思ったが考え直し、代わりに「愛している」とだけ囁く。
クイックが悶えるようにしがみついてくるのを楽しみながら、もう少しこのままでいようと思った。
++++++
後半クイックが出てきたせいでちょっと病んでたお兄ちゃんがデレモード入ってしまっていろいろうやむやになってしまいましたすいませんorz お兄ちゃん頭大丈夫!? クイックはもうツンデレではないですね。もうただのデレデレ。この二人お互いに好きすぎる。メタ兄はこれから改造プランを練るみたいです。
mdoさま、リクエストありがとうございました。おかげでメタ兄の本性がわかりました(^^;)
[1回]
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無題
2009/06/17(Wed)11:17
昨日の朝にお話拝見したのですが、出かける前だった事もあってお礼を申し上げるのが今になってしまいました。ごめんなさいっ;
帰ってきて何度も読み返させて頂きました。
なんて、かわいいんですか、、、こいつら。
お兄ちゃんが普段何を考えて「かわいいな」と口走るのかがとても良くわかる、ひとつぶで二度おいしいお話でございました。クイックまでデレてくれるとは…っ!お互いを想ってるのがよく判るお話で、読ませて頂いた私もほっこりしました。
極端な選択をするのが朱月さんちのお兄ちゃんらしくて、でもクイックに全部鷲掴みにされる方向で落ち着いて良かった…。そらぁ幸せだろうとも!w
手ぶろでは乙女ンですが、小説のほうでは男前なクイックさんだと思います。
明るい家族…じゃない、改造計画はさすがにワイリーさん泣きそうだけど、お兄ちゃん説得ガンバレ…w
で、あの、こわいもの(?)を見てしまったバブルには、あとで私が謝っておきますね…!;
リクエスト受けていただいて本当にありがとうございましたw
今後もいろんなお話を拝見できたら嬉しいです。お身体に気を付けて、無理をせずに続けていってくださいー。
No.1|by mdo|
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