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愚者の跳躍

ロックマンの絵とか文とかのログ倉庫。2ボス、ワイリー陣営で腐ってます。マイナーCP上等。NLもあります。サイトは戦国BASARAメインです。

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001:夜警_02(Q+M)

2008/11/03(Mon)17:13

続きです。長くなりすぎないように分けてみた。ここからMが出てきます。


【夜警_02】



 監視を始めてから小一時間が経ち、ついにクイックが我慢の限界に達したとき――頭の中に回線が開いた。DWN専用の通信回線だ。
≪どうした、クイック? 3425秒前から同じ場所にいるようだが?≫
 相手は長兄だった。彼は当番であるかないかに関わらず、夜中に何度か目を覚まして基地内の状況を確認したり、当番の弟たちの様子を見に行ったりする。通常この時間であれば当直のクイックはモニター室で寝ている。いつものように叩き起こしに来たところで不在に気づいたのだろう。
≪アンノウンが四つ――警戒ラインぎりぎりのところでうろちょろしてやがるんだよ≫
 クイックも電波で答える。その返答に、メタルは1秒ほど沈黙した。
≪……アンノウンの存在より、お前がまだそこにいる事に驚きだな≫
≪うるせえよ! 連中があと一ミリでも踏み込んで来たら即座に飛んでって叩き潰してやるのに!≫
 クイックは長時間溜め込んできたイライラを爆発させたが、返答は兄の苦笑だった。
≪いや、飛び出さなかったお前の判断は正しい。あからさまに罠くさいからな――さっさと俺を起こせば良かったのに≫
≪……う≫
 もっともな指摘にクイックは詰まった。
 確かに、自分で決められないのなら誰かの判断を仰ぐべきだった。メタルでもエアーでもいい。的確な指示をくれただろう。すべきことを教えてくれたはずだ。
 だが、嫌だったのだ。
 迷って、誰かに指示を仰ぐなど格好悪いではないか。自分の無能さをさらけ出すようなものだ。
 まあ、今この状況より格好悪いものはないのだが。
≪見覚えの無い連中だ。新顔だな――よりによって、俺たちの中で一番目の良いお前が当直の時にやってくるとは、運の無い奴らだな≫
 メタルは低い笑声を電波に乗せると、「指示」をくれた。
≪ライン際にいるバットンたちに足止めさせる――行って来い≫
≪良いのかよ。罠くさいって言ったの、お前だろ?≫
≪策敵範囲を一キロほど広げてみた。見えている四体の傍に敵性反応が六つあるだけだ。警戒ラインを知っている連中を黙って帰すわけにはいかないし、あの程度のロボット、お前にとっては四体も十体も同じだろう?≫
 感情の薄い平坦な声音がうっすらと帯びるのは、信頼か、自慢の弟を誇る思いか――メタルは普段は兄弟の仲で誰より機械らしいのに、こうしてふっと感情を見せる。
≪――了解≫
 すべきことを与えられてどこかほっとする自分は少し情けなく、メタルの信頼は面映かった。クイックは身を起こして屋上から飛び降りた。荒野の先では、四つの点が慌しく動き始めている。彼らよりも遥かに小さなバットンはさすがのクイックの目にも映らない。
 軽々と着地した姿勢のまま走り出せば、巨大な基地はあっという間に背後に消えた。誰も追随できない速度で、音さえ置き去りにして疾る。点でしかなかった目標が見る間に大きさを増してくる。当たり前な軍用ロボットが十体――バットンの群れに襲われて、伏せていた連中まで飛び出してきたらしい。向こうが接近に気づくよりも、こちらが到着する方が早い。
(ノロマめ――)
 戦闘モードの興奮が心地良い。口元に薄く笑みを浮かべ、クイックはそのうちの一体に狙いを定めた。突撃の勢いのまま弾丸となってぶち当たる。不運なロボットは衝撃吹き飛ばされ、空中分解した。その場の誰もが状況を理解するより早く、体を反転させ跳んだクイックが手近な一体の首に足刀を叩き込む。巨大なブーメランはまだ背中に構えたままだ。
(まず二つ――)
 首がもげるほどの衝撃に火花をあげてぶっ倒れたロボットには見向きもせず、着地と同時に地を這うような回し蹴りで別の一体が縦に回転した。間抜けにぎゅんぎゅん回っているそいつに肘をぶち込んで仲間に突っ込ませてやる。倒れたロボットたちにバットンが群がる。
 クイックはようやくバスターを構えた残りに向かってブーメランを投げた。たじろいだ一体に近づいて掌をぶち込んで仕留めたと同時に、一瞬前クイックがいた場所をバスターのエネルギー弾が焦がす。
(馬鹿、遅ぇっての――)
 片腕を上げると、弧を描いて戻ってきたブーメランがパシッと納まった。残りのロボットたちは、バスターを撃った姿勢のまま上半身と下半身を真っ二つにされて地面にごろごろ倒れる。丁寧なメンテナンスのおかげで、ブーメランは今日も切れ味抜群だ。
≪制圧完了(クリア)――弱すぎて歯ごたえが無いな≫
 メタルに報告を送ると、満足そうな声が返ってくる。
≪出撃から三十秒かかっていない。流石だ≫
≪あ? ああ……まぁな≫
 なぜだか今宵の兄は良く褒めてくる。メタルからは褒められるよりも叱られた記憶の方が多い。戸惑ったクイックは鼻の頭をかいた。
≪残骸を回収させる。少し待て≫
≪ああ。さっさとしてくれよ? そろそろ眠くなってきた≫
≪――マスターコードから覚醒コマンドを送りつけてやろうか? 今日の哨戒担当はお前なんだぞ。まだ夜明けまで数時間あるんだからな≫
 電波にわずかな圧力が込められる。こちらの方が馴染みが深く、ほっとする。
≪わかってるって≫
 手近な岩に腰掛けたクイックは、ロボットたちの物言わぬ残骸をつま先で突っつきながら言った。





>>【夜警_03】へ

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