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愚者の跳躍

ロックマンの絵とか文とかのログ倉庫。2ボス、ワイリー陣営で腐ってます。マイナーCP上等。NLもあります。サイトは戦国BASARAメインです。

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一周年企画:Innocent soldiers(手毬花様)

2009/12/31(Thu)00:36

大変お待たせいたしました!「クラッシュとクイックで模擬戦闘」です。メインのC、Qだけでなく鬼教官M、さらにBとAまで……出番を求めて割り込んできました。プロット段階から自然にそこにいるんですもの!

閑話休題。クラッシュ6割クイック4割な感じの内容になってます。クラッシュ起動直後な時間軸になってますが、ロボットの設定とか相変わらずそれっぽい感じに適当なので生ぬるく流していただけると幸いです。






【Innocent soldiers】


《――DWN.012クイックマン、同じく013クラッシュマン。両機ともシステムとの接続状態は良好。模擬戦闘空間001に意識投影完了》
 オペレーターであるバブルマンの澄んだ声が、電脳空間内に事務的な報告を響かせた。
《では、状況を開始しろ》
 感情を見せないメタルマンの乾いた声が静かに命じる。
 デジタルで再現された闘技場――とは名ばかりの、真っ白な空とアスファルトっぽい材質の地面がひたすら続く空間に、鮮やかな赤い機体と橙色の機体がおよそ七メートルの距離をはさんで対峙。
 赤い装甲に金のV字が目立つ長身のロボット――クイックマンは、状況開始の合図を聞いて不満げに舌打ちした。
「ったくメタルの奴……起動したての弟に大した挨拶もしてないってのに。性能チェックだからっていきなり俺とぶつけなくたって……」
 彼の視線の先では、ドリル状の両腕を持つ橙色の少年型ロボット――クラッシュマンがぼんやり首をかしげていた。
「……クイック」
「何だよ」
 つい一時間ほど前に起動したばかりの弟機は、ライトグリーンの瞳で不思議そうに兄機を見つめた。
「俺、クイックやっつければいいの?」
「……へっ」
 子供のような言い方に、クイックは思わず笑みを溢した。
「簡単に言えばそういうことだけどよ……俺は公平な勝負が好きなんだ。俺の基本的なデータは知ってるだろうが、最速のロボットとか言われても実感はないだろ? だから、まずは俺の性能をお前の身体に教えといてやるよ」
「なんで?」
「知らずにぶつかったら、必ず不意打ちになっちまうだろ?」
「!?」
 クイックが笑みを浮かべた瞬間、その姿が掻き消えた。戦闘シミュレーションシステムはクイックのいた場所が真空になったと判断。空気が流れ込む凄まじい音を再現した時には、すでにクラッシュの意識は痛烈な打撃を受けたことによるエラーの嵐に揉まれていた。
「あ……」
 かろうじて生き残ったセンサーが、クイックの現在位置を自身の左後方2メートルであるとはじき出したが、意味はない。
 呆然とするクラッシュの姿がぶれ、0と1に分解していった。

[DWN.013] DAMEGED:100%//SMASHED.
AUTO RESTART………….DONE.

 数秒後――意識を再起動され、クラッシュのアバターが初期状態で再構築された。彼は自分の手を見下ろし、傷一つない身体をドリルの先でこつこつ叩くと、クイックに目をやった。
「……俺、殴られた?」
「ああ……殴った」
 何故か釈然としない表情で拳を開いたり閉じたりするクイックに、監督メタルマンのお叱りの言葉が届いた。
《クイック、今回はクラッシュの機能テストだと言っただろう。お前が一方的に破壊してどうする》
「……そりゃそうだけどよ。兄の威厳っつーか、そういうの必要だろ?」
 クイックの言い訳をメタルはバッサリ切り捨てた。
《不要だ。だが手は抜くな。攻撃を受けた瞬間の反応もチェックする必要がある》
「チッ」
 どこまでも冷徹な兄への反感を舌打ち一つで胸に収め、クイックはまだぼんやりこちらを眺めている弟をじっと見つめた。
 なすすべもなく一撃を食らったあの瞬間、確かにクラッシュはクイックに反応しようとしていた。あの時のクイックの攻撃は、彼の最大速度だったにも関わらずだ。
(見るからにトロそうな奴だと思ったが……さすが博士がお遊び抜きで造っただけのことはある)
 ワイリーナンバーズは皆が純戦闘用ではあるが、メタルマンは処女作でかつ自ら望んで戦闘以外の機能を多数搭載している。エアーマンと現在オペーレーター役をしてくれているバブルは局地戦用、クイック自身は『光速に近づく』というコンセプトがあり、やや実験的な造りであると言わざるを得ない。
 対して、今回完成したクラッシュは装甲が分厚く、攻撃方法も爆弾というある意味堅実な戦闘用ロボットである。
 クイックは、現在自分の最も破壊力のある攻撃は初撃であるという自覚があった。それによってクラッシュを一撃で破壊し再起動に追い込むことはできたものの、装甲でかなりのダメージが削がれた感触がある。
(舐めてかかると痛い目みるな、こりゃ……)
 ちょっとやそっとの攻撃ではクラッシュの装甲を貫けない。
 勝ちを目指すならば、短期決戦を目指すべきだった。


(ぜんぜん見えなかった……ううん、なんとなく“くる”のはわかった)
 電脳空間に再接続されてから、クラッシュはぼんやりとクイックの攻撃を分析していた。
 光速に近づくことがコンセプトだけあってさすがに速い。システムにアクセスして解析結果を参照すると、クイックは亜光速で移動していた。自分の機体性能ではどうあがいても回避は不可能――だが、来るとわかっていれば耐え抜けない攻撃ではない。
「おいクラッシュ!」
 再び七メートルの距離で相対していたクイックに名を呼ばれる。
「なに?」
「俺の攻撃力はわかっただろ? 今のはほとんど不意打ちだったし、さっきも言ったとおり俺はフェアな勝負が好みだ。お前の武器の威力も知りたい。一発タダでくれてやる」
《……クイック何言ってるの?》
 バブルの冷静な突っ込みをメタルが遮る。
《いや、クイックが回避や防御を考えず、味方の武器をもろに食らったときの被ダメージ率データは欲しい。やれ、クラッシュ》
《ちょ、ちょっとメタル……》
「いいの?」
 慌てるオペレーターを完全無視してクラッシュは問うた。リーダーはメタルだからだ。ワイリー博士も、「メタルの言うことを良くきくんじゃぞ」と言っていた。
《構わない。クイックも望んでいる。お前の力を見せてくれ》
「……ん」
 クイックは身構えてはいるが、避ける様子はない。クラッシュは落ち着いてクラッシュボムの発射手順を丁寧になぞった。これからずっと、自分と共にある武器だ。最初の一撃は大事にしたい。
 あらゆるデータを精密に整え、発射する。

[DWN.012] DAMEGED:100%//SMASHED.
AUTO RESTART……………………DONE.

 数秒後、クイックはシステムに再接続された。


   +


 無機質な空間内に、メタルの声が響いていた。
《状況再開の前に再度説明しておく。被ダメージの累計が一定量を越えた時の他に、システムに動力炉がオーバーヒートしたと判断された場合も戦闘不能の扱いとなる。二人とも全力を出せ――だが無理はするな》
《メタル、いきなり難しいこと言いすぎじゃない?》
《大原則だ。覚えておいてもらわねば困る。だが、シミュレーション上でなら何度失敗してもいい。失敗しなければ覚えんからな……ではバブル、状況を再開しろ》
《はいはい――じゃあ二人とも、戦っていいよ》
 呆れたバブルが投げやりに合図を出す。クイックは再接続したときに呼び出されていた大型ブーメランをまじまじと見つめた後、役に立たないと判断したのか、分解して消した。
「クラッシュ」
「なに?」
「今回はお前の訓練だが、俺は負けるつもりはないからな。あと、グダグダ殴りあうのも趣味じゃない。お前も手は抜くなよ」
「ん、わかった」
 こくりと頷いた頭の中では、ぐるぐると思考が回転していた。
 クイックの性格――負けず嫌い。プライドが高い――何かを証明したがっている? 誰かに? 証明――自分の価値、つまり最強であるということ。伝わってくる、おそらく本人も自覚していない焦り――動力炉の出力はやや自分の方が高く、不安定。相手はまだエンジンがかかっていない――オーバーヒートと判断されるには程遠く、余裕はあるはず。何故焦るのか。
 グダグダ殴りあうのが趣味じゃない――つまり、長期戦を嫌っている? 何故?
 光の速度で解析結果をはじき出す戦闘プログラムの思考をよそに、クイックが動いた。
 消えたと思ったその瞬間に雷鳴のような音と衝撃と爆発が起こった。クラッシュが防御のために掲げた腕をわずかな差でかいくぐり、胴体に掌底が命中した。ぐらりと重たい身体が揺れる。
 実際の打撃よりも、クイックが身にまとう衝撃波こそが脅威だった。エネルギー保存の法則により、装甲を抜けて内部にダメージを与えるからだ。エラーにまみれながらも必死に体制を立て直す。
 余波で撒き散らされた爆風の中にクイックがいた。全身に破片を浴び、赤い装甲が引き裂かれている。
(クラッシュボム……直撃はなんとか避けたが……)
 増大した主観時間の中で見えたものは、真っ直ぐに突っ込む自分に対して即応し、足元でボムを炸裂させるクラッシュだった。クイックは爆風の速度よりも速く動けるが、正面からそれに突っ込んだのではスピードも無意味だ。そして、クラッシュ自身は分厚い装甲に守られ、自分の武器でダメージを受けることがない。
(この俺にカウンターを当てた……?)
 驚愕しながらも、どこか納得していた。クイックにははっきりと自覚している弱点がある。時間加速によって超高速移動中の自分は、速過ぎるがゆえに相手の行動に対応しきれないことがある。スピードがありすぎて繊細な起動を取れないのだ。コーナーを曲がりきれず、自滅するスポーツカーと同じ。
 クイックは自分で自分の速度を制御しきれていない――メタルにそう評価される度、コアが焼け付くような悔しさを感じた。せっかく博士が与えてくれた世界に誇るべき性能を、まさか、この自分が使いこなすことができないなど、なんという屈辱だろう。
(そんなのは俺じゃない――そんなロボットは、最強とは呼べない……!)
 何より、博士に恥をかかせるわけには行かなかった。だが、まだ動力炉の出力が足りない。時間はあまりない。主観時間の制御という超技術を駆使できる時間はさほど長くないのだ
(俺の全力を見せてやる……!)
 その決意を向けた先に誰がいるのか――自覚することなくクイックは行動に移った。


「……?」
 各センサーが報告する探査結果――クイックが動力炉の出力を上げた――に、クラッシュはいぶかしげに眉を寄せた。被ダメージ率は双方互角だが、このまま戦い続ければ自分の方が先にオーバーヒートによる戦闘不能を迎える可能性があった。それなのに、クイックはそれを拒んだ――明らかに焦っている。おそらく、オーバーヒートという時間切れ的な決着よりも、どちらかの撃破による戦闘不能という結末を望んでいる。繰り返しフェアな戦いを好むと宣言した彼の性格にも合致する。グダグダな殴り合いを嫌う――もしかしたら、全力で戦える時間に限りがあるのかもしれない。
 だとしたら、その時間を過ぎてもこちらを撃破できなかった場合、逆に自分がやられる可能性が高いと考えているのだろう。つまり――事実上最後の全力攻撃であろう、次の攻撃を以下に凌ぐか。
 勝手に加速していく冷徹な思考にクラッシュは戸惑いを感じつつも身構える。
 クイックはクラッシュの防御姿勢を見ても作戦を変える気はなかった。真っ直ぐ突撃あるのみ――たとえメタルに馬鹿にされても、それこそが自分であると信じて。
「――ッ!!」
「!」
 一瞬の交錯の後、クイックは自分の攻撃がクラッシュを仕留め切れなかったことを悟りながら宙を舞っていた。カウンターの爆風にあわせてギリギリのタイミングで地面を蹴り、少しでも衝撃を逃がそうとしたのだが焼け石に水だった。ダメージは大きい。
 主観時間制御に当てる余力はもう無かった。エネルギー配分や戦術を考えればもっと効率の良い戦い方があるのかもしれないが、今の自分には無理だ。今の一撃が、クラッシュが知覚できる以上のスピードで攻撃できる最後の機会だった。
 次の一手からは加速ができない。クイックの基本スペックでも十分高速起動の範疇に入るが、相手のセンサーには十分捕らえられてしまうだろう。
(それでも……負けるわけにはいかねぇんだよ)
 ――闘志という油(コマンド)を注がれ、動力炉が燃え上がる。
 バーニアをふかして空中で姿勢制御すると、そのまま鋭角的な落下攻撃に移った。クイックの脚がハンマーのように振り下ろされる――鳴り響いたのは、鋼鉄のぶつかり合う硬い音。
 クイックの蹴りを受け止めたドリルアームの向こうに、能面のようなクラッシュの顔があった。無感動な瞳と視線がぶつかり合う。
(まずい――ッ!)
 防御に使われなかった腕が腹部に向かって突き出される一瞬前、クラッシュを蹴って退避した。
 その直後に爆風――地面に叩きつけられ、転がりざまに起き上がり、地を這うような姿勢で突撃。
 何度でも起き上がってくる敵を見て、クラッシュの目に動揺が浮かぶ。
(馬鹿野郎。倒れたまま起き上がらなかったら、そこでもう負けなんだよ……!)
 潔く散るのも一つの美学――だが、それは怠惰というものだ。
 まだ先に行くことができるかもしれないのに、格好をつけて立ち止まるなど怠け者の言い訳に過ぎない。
 そう言って何度でもクイックの美学をバッサリと切り捨てる長男の顔が浮かんで消える。
(メタルの奴に馬鹿にされんのは耐えられねぇんだよ……!!)
 起き上がってから交錯までの時間は一瞬にも満たない。最後の一撃は加速状態にない自分にしては上出来といっていい威力で、内部への衝撃が存分にクラッシュのシステムを破壊したはずだった。だが、全ての制御を失って傾いていく機体の中、右腕だけが迅速にクイックに狙いを定める。
(まだ動くのかよ――)
 クラッシュボムが発射されるのを知覚した瞬間の即応――嘘のようにゆっくりと、じりじりするほどのスローモーションで流れていく視界の中で、クイックは自分が無理に時間加速を行ったことを知った。主観的には止まっているのではないかと思えるほどの――しかし、実際には秒速数千メートルの爆風よりも速く横に身を投げ出したのだ。
 爆風が去ったとき、クラッシュの脳裏に【状況終了】の表示が点滅した。
「……終わったの? なんで?」
 目の前からクイックが掻き消えたのは見えたのだが。
 左右を見渡すと、十メートルほど離れた場所にクイックが倒れていた。自体が飲み込めず、クラッシュは無言で首を傾げる。
 疑問を解消してくれたのはバブルの通信だった。
《クイックのオーバーヒートでクラッシュの勝ち……意外な結末になったね》
 唖然とした様子を隠さない弟の言葉に、メタルが深いため息をつく。
《勝負を焦りすぎだ……――クラッシュ、ログアウトしろ。クイックはこちらで操作する》
「はーい」
 これでよかったのかな――答えのわからないまま、クラッシュはログアウト処理に入る。

NOMAL LOGOUT :END OF SIMULATION---
[DWN.012/DWM.013] SHAM BATTLE MODE-STAGE001.
REC-No20470427.sec//DWN.013-VIC,DWN.012-ROS:OVERHEAT
RESTART………….DONE.

 クラッシュが戦闘シミュレーションエンジンに接続するのは今回が初めてで、当然ログアウトも初めてだった。
 全ての感覚がいったんバラバラに分解され、ゲートを通って接続され直したという認識――現実に存在する自分自身の回路の中に意識を流し込んでいく。
 やがて、鋼鉄の重みを自覚したクラッシュはぱちりと目を開けた。透明なカバー越しにチューブやパイプが複雑に這いずり回った天井が見える。
《カバーを開けるから、そのままでいて》
 バブルの声と共に、カプセルのカバーが開いていくのをじっと待った。聴覚センサーに通信ではない生の声が届く。
「お疲れ様。初めての模擬戦闘だけど……どうだった?」
「…………」
 クラッシュはもぞもぞと身を起こし、コンソールに座ったままこちらを見ているバブルの顔をぼんやり眺め、うつむき、首を傾げた。
「……えっと」
 何だかぼうっとした奴だな――初対面のクイックに言われたように、自分はこんなにぼんやりしてるのに、戦っている間は思考が異常なほど加速していた。それが少し怖かった。最後にクイックの攻撃を受けたときも、自分はかなりギリギリだったのだ。
(怖かった……?)
 戦う自分を外から――いや、内側でただ眺めているような気がした。自分の身体が、自分の意志を離れて勝手に戦っているような恐ろしさ。それをどう表現したら良いのだろうか。
 優しい微笑を浮かべて待ってくれていたバブルに、たどたどしく伝えた。
「ちょっと……怖かった」
「そう……でも、大丈夫。最初は誰でもそうだよ。目が覚めたばっかりで、いきなり戦わせたりしてごめんね。詳しい解析結果はこれからだけど、やっぱり君の性能バランスは良いみたい。クイックの攻撃も完全に防いだことがあったし……博士が遊びなしで造っただけのことはあるね……動力炉の出力が上がりやすいのは仕様じゃない筈なんだけど、これは解析結果を見ないとなんともいえないな」
 モニターに視線を落として呟くバブル。クラッシュはそれには構わず、相手のセリフの中で気になった言葉を繰り返した。
「遊び?」
「うん? そうだよ。ただ、『遊び』といってもふざけてるって意味じゃなくて、実験的な試みを――」
「お前たち、模擬戦は終わったのか?」
「自分の弱点くらい自分でわかってる!!」
 バブルの言葉の途中で扉が開き、青い機体が入ってくるのと、クイックがメタルに向かって怒鳴り声を上げたのはほぼ同時だった。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………?」
 シーンと静まり返る部屋の中、疑問符をいっぱいに浮かべた青いロボット――エアーマンがバブルに視線を向ける。バブルはこわばった顔で頷き、「多分いつものアレ」と伝えた。
 それでわかったのはエアーだけで、クラッシュは驚きに大きな目を見開き、険悪と表現することすら生易しい様子で睨み合う赤と紅の機体を見つめていた。
 カプセルに座ったクイックが、傍に立つメタルに再度噛み付いた。
「最後の攻撃を避けなくても、どうせ俺は限界だったんだ! だったら無理にでも避けて、反撃のチャンスを狙う方が良いに決まってるだろうが! 最後まで足掻き倒せって、いつもお前が言ってることだろ!」
 びりびり震えが来るほどの大声を出すクイックに対し、メタルはあくまで冷静に指摘する。
「それ以前の問題だ。途中で無理やり出力を上げただろう。あれがなければオーバーヒートしていたのはクラッシュの方だったはずだ」
「そういう決着は嫌だったんだよ!……最後は、無様な負け方したけどよ……実践なら、オーバーヒートしても戦い続けることはできるはずだろ? 全システムが焼きついて完全に機能停止に陥るまでは数十秒の余裕が――……」
 メタルがじろりと睨むと、クイックの動きがぴたっと止まった。クラッシュが視線を動かすと、エアーとバブルも同じように硬直している。
 その原因らしいメタルの顔を見た瞬間、クラッシュは『後悔』という感情を知った。
 ――怖い。
 模擬戦の最中に感じた怖さとはまた違う、途方もない圧力で抑え付けられるような怖さだ。この人には絶対に逆らってはいけない――問答無用でそんな気分にさせられる。
「その……む、無理は……進んでするつもりは、ない、から…………えっと、ごめん、なさい……」
 クラッシュの感想はDWN全体に共通するものなのか、あれほど抗弁していたクイックがガチガチにこわばった顔で謝った。その瞬間、メタルから放射されていた圧力がふっと消える。
「わかっているなら良い。バブル、解析結果をディスクにコピーしておいてくれ。後で検証する」
「……うん。わ、わかった」
「メ、メタル……博士がお呼びなんだが」
「報告のために簡単なレポートをまとめる。先にクラッシュを博士のところへ――初めてにしてはいい動きをしていたと伝えてくれ」
「ああ、わかった――来い、クラッシュ」
「うん……」
 エアーに招かれるまま出口に向かったクラッシュは、扉をくぐる寸前で中を振り向いた。目に付く赤――カプセルのベッドに腰掛けて苛々してるクイックの姿に、唐突に確信めいた直感を得る。
 クイックが常に――目の前にいる敵以上に意識しているものは、端末の前にいてレポートをまとめるメタルなのではないか。創造主であるワイリー博士以上に、メタルに自分を認めさせたいのではないか。
「――クラッシュ、どうした?」
 エアーに名を呼ばれて我に帰ったクラッシュは、ぶんぶんと首を振った。
「何でもない」
 クイックと戦ったことで、『戦い』がどんなものであるかはわかった。
 だが、『戦う』ということはまだ良くわからない。
 DWNはワイリー博士のために戦う。
 さっきの戦いは起動したばかりの自分の性能をチェックするためというのはわかる。だが、『戦う』実感はなかった。これは早めに誰かに言っておかねばならないことのような気がするのだが。
 二メートルほど前を歩く兄機の拾い背中に向かってクラッシュは口を開いた。
「……エアー」
「何だ、クラッシュ?」
 エアーがわずかに振り返り、足を止める。
「『戦う』ってどういうこと?」
「むぅ……難しいことを聞くな、お前は」
「難しいの?」
「ああ、一言で説明するのは難しい……そうだな」
 エアーはクラッシュが近づくのを待って右手を差し出し、弟の腕――ドリルの付け根辺りを掴んだ。
「?」
 ひょっとして『手を繋いだ』のだろうか。
 判断しかねてじっとその部分を見つめるクラッシュに、エアーは重々しく答えた。
「俺も、お前に説明してやれるほどハッキリわかってるわけではない。だから、一緒に考えていこう……『戦う』というのは、戦闘用ロボットの存在意義だからな。軽々しく答えを出していい問題ではないはずだ」
「ん」
 クラッシュが頷くと、エアーは『手を繋いだ』まま歩き出した。
(博士は何でも知ってるんじゃないのかな……)
 それとも、答えは一つではないのかもしれない。クイックの戦う理由は、何となくわかった気がするし、メタルはハッキリと自分の道を決めているのだろうと思う。
(俺は、自分の『戦う』を見つけられるかな……)
 クラッシュは自分の腕を握るエアーの手を見つめながら、案外答えはすぐ傍にあるのかもしれないと思っていた。






+++++++++++


ぼにゃーっとしてるけど、クラッシュは2期ナンバーズではもっともガチなつくりの戦闘用ロボだと思ってるのです。まだ暴走しやすいという欠点は明らかになってませんが。ちなみに時点はヒート。その次はメタルですが、お兄ちゃんは戦闘以外の機能を優先して伸ばしてる気がする。
試験的な試みもかねて、ダブルクロス3rdのシステムでクイックとクラッシュのデータを作成し、実際にダイスをふって模擬戦した結果を元に書いてみました(クイックが短期決戦が他なのはその影響です)。クイックのオーバーヒート負けは私も以外でしたが、いろいろ脚色して妄想を重ねると、ありうる結末かもなーと思い……メタルがキレました(笑)
手毬花さま、リクエスト作品で勝手に実験して申し訳ありません;少しでも楽しんでいただければ幸いです。

拍手[7回]

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