忍者ブログ

愚者の跳躍

ロックマンの絵とか文とかのログ倉庫。2ボス、ワイリー陣営で腐ってます。マイナーCP上等。NLもあります。サイトは戦国BASARAメインです。

[PR]

2024/11/22(Fri)11:57

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

No.|CommentTrackback

歪曲した誠実の対価:その3(M´×f)

2010/02/14(Sun)20:59

バレンタインネタ最後の一つ。
あいも変わらず俺向けなコピメタフォル。思いのほか長くなりました。
この話は前の二つより結構後です。




【歪曲した誠実の対価:その3】



 夜の十時を過ぎてなお、キッチンからは和気藹々とした声が上がっていた。暗い廊下から中を覗き込んだフォルテは、赤い装甲のロボットの背に鋭く質問した。
「おい、あいつはいないだろうな?」
「コピーなら研究室だ」
 包丁を手に何かを切っていたのはメタルマンだった。彼はちらりとフォルテを振り返り、淡々と答える。
「端末で位置を確認しなかったのか?」
「もちろん、してる」
 オリジナルとコピーの二人のメタルマンは、交代でワイリーの助手と家事という仕事をこなしている。ここへ来る前に確認した二人の位置は、オリジナルがキッチン、コピーが第二ラボ――赤いカメラアイと目の前のロボットから発せられている識別信号も、彼がオリジナルのメタルマンであることを証明していたが、警戒するに越したことはない。
「こんな時間に何をしているんだ?」
「クッキーを作っている」
「それもか?」
 フォルテが指差したのは、メタルマンが切っているココア色の細長い長方体だった。テーブルの上にはさまざまな形に抜かれたクッキーが広げられ、二期ナンバーズのガキ三人がはしゃぎながらなにやら作業中だ。彼らのしていることはどうでもいいが、クッキーといえば平べったいものではなかったか。
 メタルマンはスライスした生地を天板に並べながら答えた。
「アイスボックスクッキーだ。必要な分だけ切って焼き、記事の残りは冷凍して保存しておける。アーモンドスライスとココアの入ったものがアルバートのお気に入りでな」
「くそジジイの好みなんぞ聞いてない」
「そうか」
 さして気にした様子も無く答えると、メタルマンは一口大の生地が十枚ほど並んだ天板をオーブンに入れ、ボタンを押し、残った生地をラップに包みなおして仕舞った。なんとなく無視されたような気になったフォルテは、苛々しながら再度問いかける。
「こんなにたくさん作ってどうするんだ」
「全員に配る」
「あのねー、焼いたクッキーにチョコつけるのぉ。フォルテもやるー?」
「うるさいっ! お前には聞いてないっ!」
 無邪気に誘ってくるヒートマンに噛み付くような返事を返すと、フォルテは周囲を見回した。何十枚ものクッキーは8割がたチョコレートでトッピングされ、冷え固まったものをウッドマンとクラッシュマンが袋詰めしていた。
「……全員にか」
 そういえば去年も同じ時期に菓子を貰った気がする。
「明日はバレンタインだからな」
 メタルマンはフォルテの様子から何かを悟ったのか、ラップに包まれたクリーム色の生地を指差した。
「フォルテ、手伝ってくれるか? まだ少し生地が残っていてな」
 手伝うという言葉は、こちらに気を使ってのものだとすぐにわかった。粉をふった台や麺棒はそのままだが、何種類かの型はすべて洗い終わって水を切っている途中だ。おそらく、残りの生地は冷凍保存するつもりだったのだろう。
 いつもならば、最強のロボットが料理など――と断ったところだが、普段ならそもそもキッチンになど寄り付かない。フォルテはあまり食べることが好きではない。食べてもエネルギーにならないのだから時間の無駄だと思うのだ。
 だが、今日は最初から用があってキッチンに来た。人がいることがわかって目的を果たすべきか迷っていたのを、メタルマンは察してくれたのだろう。心の中をのぞかれたようで面白くないが、ありがたい。
「いいぞ……別に、ヒマだしな」
「では、まず手を洗え」
 メタルマンは今度は洗い物で一杯の流し台を指差した。


 言われるままに生地を伸ばして型で抜き終わった頃には、先にオーブンに入れられていたココアのクッキーが焼き上がっていた。交代でフォルテの抜いた生地をオーブンに入れると、メタルマンは作業を終えていた三人の弟たちに焼きたてのココアクッキーとコーヒーを持たせてワイリーに届けさせ、終わったらそのまま部屋に戻るように言った。
 焼き上がったクッキーに残っていたチョコレートをかける。やや見栄えの悪いクッキーが完成した頃には、時計は十一時を過ぎ、メタルマンは後片付けをほぼ終えている。
 彼は残っていた紙袋を差し出し、言った。
「お前の作った分だ。持って帰れ」
 大量に購入したため凝ったデザインではなかったが、その袋は内側がツルツルしていて油が染みることはなさそうだった。
 それから二十四時間経ち、フォルテが持ち帰ったそのクッキーは、現在ゴスペルの収納スペースに納まっている。
 フォルテはキッチンのテーブルに着き、コピーメタルマンの作ったチョコレートスフレを黙々と食べていた。サクサクした外側とは裏腹に、中はどろっとしている。添えられた生クリームを絡めて、まだ熱いそれを口に入れると、濃厚な甘さと苦味が舌に絡む。一緒に出された紅茶には砂糖が入っておらず、味覚を変えてフォルテを飽きさせない。
 茶葉はコピーメタルマンの趣味らしい。酒と煙草のみを嗜むオリジナルとは正反対に、コピーはさまざまな嗜好品を好んでいる。菓子作りも彼の趣味で、フォルテもたまに呼び出されては菓子を振舞われた。
 彼は同じ紅茶を飲みながら、頬杖をついて幸せそうにこちらを見ている。
 目があう。
「美味しい?」
「……ああ」
「よかった。また作ってあげるね」
 薄く微笑む緑のアイカメラは、無機物とは思えないほど妖しい輝きを帯びている。彼自身に他意はないのかもしれないが、常にこちらを惑わし、絡みついてくるような気がするのだ。オリジナルと全く同じ顔なのに、欠片も似ていない。オリジナルの瞳を宝石の名で呼ぶナンバーズがいる中、コピーの瞳は悪魔の火と呼ばれていた。
「フォルテは、あんまり物を食べないからね」
「……必要ないだろ。E缶以外のものを口にする理由が無い」
「そうでもないよ?」
 コピーは紅茶を口にすると、言った。
「心というのは外的刺激に対する反応が成長させるんだ。外部と一切触れ合うことがなければ、心は何も感じず、発達しない。俺たちがこれほど人間に近い心を手に入れられたのは、一平方センチメートルあたり数百個という小型で精度が高いセンサーが開発されたおかげでもある。だから、お前もなるべくいろんな刺激を受けるべきだよ。味覚だって、せっかくあるのだから使わないと」
「お前が、」
 フォルテは言い返そうとして舌にチョコレートが絡まった。甘く、苦く、熱く、どろりとした感覚に別のものが想起され、心を乱されながら続きを言う。
「俺にする破廉恥な行為もそうだというのか」
「触覚は最も原始的な世界とのコミュニケーションだからね。触れ合うことで、他者の存在だけでなく、それを感じる自己の意識をも認識するんだ」
 笑みが深くなり、無作為に周囲を誘惑するような悪魔の火が輝きを増した。
 ますます、ゴスペルの収納スペースに入ったものを出しにくくなる。
 今日の家事担当はコピーメタルで、この時間になるまで家事や基地内のこまごまとした仕事で忙しそうだった。呼び出されて来て見れば、凝ったデザートを振舞われる。自分の作った簡素なチョコレートがけのクッキーなど、恥ずかしくて出せるわけも無かった。
 足元に座ったゴスペルが、心配そうにこちらを見ていたがフォルテは無視した。無理矢理コピーから視線を引き剥がしてうつむき、スフレを片付けることに集中する。
 最後のひと欠片を口に入れて紅茶で流し込むと、フォルテはがたっと音を立てて立ち上がった。
「ごちそうさま」
「待って、フォルテ」
 コピーの指が伸びてきて、口元についたチョコレートを拭う。
「うん、美味い。さすが俺」
 彼は自分の指を舐めて満足そうに頷くと、フォルテの頭をぽんぽんと叩いた。
「おやすみ」
 これで終わり、ということらしい。部屋で待っていろ等のセリフを言う気配は無く、今夜はフォルテをベッドに引っ張り込むつもりは無いらしかった。
 良いことだ。眠りを邪魔されることが無い、すばらしい夜ではないか。
 フォルテは俯いたままキッチンを出て、数十メートル歩いた。
 いつものように礼も言わなかったが、コピーはそんなものを求めているのではないだろう。コピーはただフォルテを『刺激』し、返ってくるわずかな反応から勝手に色々汲み取って満足しているのだ。
 彼は散々フォルテに好きだ愛しているというが、フォルテから同じ言葉を無理に引き出そうとはしない。
 そのくせ、ベッドの中でフォルテにしがみつかれると、ひどく嬉しそうなのだ。
 常々彼に対して感じる『ずるい』という非難とバレンタインが結びついてフォルテの中で突然変異を起こした結果は、今もゴスペルの収納スペースに入っている。
「…………」
 フォルテはぴたりと足を止め、シグナルを送ってカバーのロックを解除し、袋を引っつかんでキッチンに駆け戻った。背後からカバーを開けっ放しにしたゴスペルが慌てて追いかけてくる。
「おい!」
 テーブルを拭いていたコピーに声をかけ、ずかずか歩み寄って手に紙袋を押し付けた。
「やる」
 それ以上の言葉は思いつかず、必要も無かった。
 くるりと背を向けると、コピーががさがさと袋を開ける音がする。
「これ、フォルテが型抜きしてくれたって奴?」
「な……っ!?」
 何故知っている。
 慌てて振り向くと、悪魔の火が可笑しそうに笑っていた。
「あいつとはシフトを代わるときにデータ交換してるからな」
 そうだった。
 個人的な事柄は伏せるらしいが、大抵の情報は二人のメタルマンの間では筒抜けなのだ。フォルテは、無意識にオリジナルが黙っていてくれると思い込んでいた。
「正直、ちょっとだけ期待していたんだ……何も言わずに行っちゃったから諦めていたんだけど」
 では、自分はこいつの思い通りに行動してしまったということか。
 ショックを受けたフォルテが呆然となっていると、コピーが膝を落として抱きしめてきた。
「ありがとう。嬉しいよ、フォルテ」
 間近で輝く緑は純粋な喜びに溢れ、この時ばかりは悪魔には見えなかった。囁かれた感謝の言葉は、チョコレートの濃厚さではなく、ふわりとした生クリームの優しい甘さを喚起させる。
(この程度のことでそんなに喜ぶな、馬鹿)
 胸が苦しかった。
 もうどうにでもなれ――今日はバレンタインだから、と言い訳にもなっていない言い訳を頭の中で繰り返しながら、フォルテはコピーメタルを思い切り抱きしめ返した。




+++++++




あえての中途半端ですがこの続きは脳内補完してください。

クッキー……昔はよく作ったんですが、食べる人間が少なくていつも処理に困ってたなぁ。
焼きたてチョコレートスフレ、また食べたいです。

拍手[4回]

PR

No.352|ロックマン腐向けComment(0)Trackback()

Comment

Comment Thanks★

Name

Title

Mail

URL



Pass Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字 

Trackback

URL :