キリバンお題2の担当はエアーです。お相手はバブル。妙にメランコリックで感傷的なエアーになりました。作られたばっかりくらいの時期になります。
※うちのエアーとバブルは同時期に開発されてます。
【隠せない痛みなら僕に縋ればいい】
俺とバブルはほぼ同時期に開発されたロボットだ。
博士が二つのアイデアを思いついてしまったせいで、平行して作業が進められたのだという。兄弟の順番は、起動スイッチが入った数時間の差だけだ。
空中戦用の俺と水中戦用のバブル。能力は正反対だが、双子のようなものだった。
人間には二卵性双生児という似ていない双子が生まれることがあるという。
俺たちはその二卵性双生児というやつだろうかと問いかけると、バブルは小さく笑った。
僕らはロボットだよ。兄弟だなんて馬鹿馬鹿しい。まして、同型機なら双子って表現もいいだろうけど、二卵性だなんて。
冷たい笑みだった。
ただ、そのセリフを博士やメタルの前で口にしなかったのは、その時点でバブルには心があったことの証明ではないかと思う。
目覚めてすぐの覚束ない心であっても、二人が心から俺たちの誕生を願い、祝福してくれたことは感じられたから。
そして、そのセリフを俺の前で口にしたのは、あるいはお前なりの甘えだったのだろうか?
簡単な性能テストが終わると、博士とメタルは四番目の開発に取り掛かった。
彼らは一日一回必ず顔を見せたが、俺とバブルはほとんどの時間を一緒に過ごしていた。
弟の部屋である巨大なプールの前で、俺は彼とガラス越しに話をした。
兄弟という感覚は正直よくわからなかったが、あの頃の俺たちは確かに孤独を嫌っていたのだと思う。
果たして自分たちに与えられた『心』は本物なのか。
『自分』とは何なのか。
俺はあまり考えるのが得意ではなく、バブルの思考はどこまでも深く落ち込んでいった。
考えるのが苦手だった俺は、早々に疑うことをやめた。
戦うために生まれたのなら、戦士として生きればいい。
疑ったところで、ここに居る俺がが消えてしまうわけでもない。
だが、バブルの疑いは尽きなかった。
弟は造られた存在――偽者である自分に自信を持つことが出来なかった。
語るべき言葉が尽きると、バブルはそれこそ泡のようにプールの中を漂い続けた。
俺は困り果てた。
俺を頼れと言いたかったが、俺自身だって『戦士』というハリボテを着てようやく立っているようなもので、その中身はこの名が示すとおり空っぽだった。
俺の支えは俺だけのもので、バブルには合わなかったのだ。
空虚さという胸の内をじわじわと溶かす酸のような苦しみは、皮肉なほどお前のもつ武器そっくりで、俺はただ一日中プールの前に立ち尽くし、苦しむお前を何とかしてやりたかったけれど、同じように答えを持たない俺には何も掛けてやれる言葉はなくて。
せっかく生まれたお前の存在が、その名のように泡と消えてしまう日が来るのではないかとずっと怯えていた。
痛いのなら縋って泣けばいいのだと、そう言えなかった自分の弱さを思う。
俺は怖かった。お前の涙で、俺自身の脆い支えが溶かされて崩れてしまうことを恐れていた。
お前を殺そうとしていた虚ろな泡を割ったのはメタルだ。
俺自身が耐えられなくなって兄に相談したその翌日、プールで顔を合わせた弟は俺を見て笑った。
その笑顔は儚くあったが、冷たくはなかった。
メタルが何を言ったのか、お前は教えてはくれなかったが、その刃はさぞかし鋭かったのだろう。お前を包んでいた泡はあれほど強固だったのだから。
内なる苦しみに今にも消えてしまいそうだったお前が「ありがとう」と言った時、俺は初めて心の底からあの兄を尊敬したのだ。
お前は何も出来なかった俺に礼を言ってくれた。
エアー、ずっと傍にいてくれてありがとう。
僕が本当に消えてしまわなかったのは、君が居てくれたからだよ。
朝プールに来た君が機能停止した僕を見つけたら、どんなに哀しむだろうって思ってさ。
困らせてごめんね。僕はもう大丈夫。
俺はやはり何も言えず、ただ首を振って安堵した。
お前は空気のように傍に居るだけだった、俺の存在を感じてくれた。
最後まで縋ればいいと言えなかった俺の弱さを、お前は許してくれるだろうか。
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我思うゆえ我あり。デカルトですね。逆お題のようになってしまいましたが、エアーが言いそうにないセリフだったのでこういう使い方をさせていただきました。
エアーの一人称は俺ですが、タイトルはあえて僕にしました。響きを崩したくなかったので。微妙にA×Bぽくありますが、そしてB→Mぽくもありますが、兄弟愛だと言っておきます。
クラッシュ(アナログ)とフラッシュ(デジタル)が双子というのは良く見かけるんですが、エアーとバブルの方が正反対で双子っぽいと思うんですよ。もともと双子キャラ好きなんですが、うちのCFはあまり双子っぽくなかったのでABが双子?になりました。多分使ってるメインシステムとかぜんぜんちがくて、親と心を作る基本プログラムが同じってくらいしか共通点はないだろうけど。
エアーが本当の戦士になるのは、弟たちが増えてからですね。
メタルがバブルに何を言ったのかは、また別の機会に書きたいと思います。
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