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愚者の跳躍

ロックマンの絵とか文とかのログ倉庫。2ボス、ワイリー陣営で腐ってます。マイナーCP上等。NLもあります。サイトは戦国BASARAメインです。

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キリバン03:この海ですら限り有るというのに(C+ALL)

2009/01/04(Sun)19:25

そろそろ三時間睡眠が聞いてきました。作業スピード落ちるっていうか思考回路が処理落ちしすぎ。
三つ目のお題担当はクラッシュです。お相手は家族みんなで。ALLって書き方もアレですが、2DWN+ワイリーです。
この企画共通になってますが脈絡も落ちもない勢いですよ!






【この海ですら限り有るというのに】


 クイックの運転するトレーラーが海沿いのハイウェイをぶっとばしていた。
 蓋を全開にしたヒートが窓から頭を出して叫ぶ。
「わぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っはははは!」
 ドップラー効果で歪んでいく声を聴覚センサーで拾って、ぐにゃぐにゃになった自分の声に笑い転げる。その隣では末の弟のウッドが珍しく声を上げて笑っていた。
「こらヒート、危ないぞ」
「だって面白いんだもん」
 メタルに怒られても悪びれた様子はなく、ウッドと一緒に開いた窓からぎゅんぎゅん吹き込んでくる風に目を細め、海と空を隔てる輝きを飽くことなく見つめている。
 メタルは次に運転席に視線を向けた。
「クイック、スピード出しすぎだ。少し落とせ」
「だって誰もいねぇじゃん。真っ直ぐだし、つまんねーんだもん」
「誰も居なくても警察は監視してるんだ。スピード違反なんかで捕まったら目も当てられん。それに博士も乗っているんだぞ。万一のことがあったらどうする?」
「……わかったよ」
 いかにクイックがスピード狂でも博士を出されると弱い。渋々了承すると、道路標識が許す限りの速度に落とした。それでも窓から入ってくる風が中で渦を巻いて、博士は目を開けているのが大変そうだった。そのくせ顔は楽しげに緩みっぱなしだ。
 いつも基地に篭って世界征服のことばっかり考えていると気が詰まるから、皆でちょっと遠出をしようと言い出したのは博士だった。家族全員でお出かけなんて良く考えたら初めてで、顔に出さない兄弟たちも、内心どきどきしているのだと思う。
 目指す街はキラキラ光る水平線の近くに小さく見えていた。このハイウェイをまだずっとずっと行った先だ。もっとも、この速度ならさほど時間はかからないかもしれない。
 昨日の夜遅くまで電脳空間で仕事をしていたフラッシュとバブルは、ハーネスで壁に身体を固定したエアーに寄りかかるようにしてスリープモードになっている。ハンドルを握るといつもアクセルを全開にするクイックの運転にヒートは興奮しっぱなしで、ウッドもそれにつられてはしゃいでいた。メタルは博士を気遣いながら弟たちの行動に口を挟んでいたが、その鉄面皮は普段よりずっと柔らかい。
 小柄なくせに重いクラッシュはエアーと同じように壁に固定されている。正面は海側で、強烈なまぶしさに目を細めていた。
 今日は晴れで、空にはお城のように大きな雲が浮かんで、水面は宝石箱の中身をぶちまけたように輝いていた。
 外の光が強すぎて、トレーラーの中の家族たちは黒々としたシルエットだけが浮かんでいる。
 クラッシュの目には、それが一枚の絵のように見えた。
 窓の外に見える海は余りに大きくて、トレーラーで走ってきた道も余りに遠くて、トレーラーに乗り込む前に見上げた空は、どこまでも果てがなかった。
 それなのに、この世界は狭すぎるのだ。
 大地だけでなく、海にも宇宙にも、果てが存在するのだという。
 限りあるものを奪い合って、命は互いを食い潰しながら生きていく。
 ならばきっと、時にも果てはあるはずなのに。
 クラッシュはうつむいて何度か瞬きをした。強すぎるコントラストに視覚センサーが戸惑っている。輝度の調節がうまく行かない。
 エアーが大丈夫かと言って、それで気づいた博士とメタルがクラッシュの傍に来てセンサーの調子を見てくれた。
 メタルがクラッシュの目を覗き込んで、レーザー接続でシステムチェックをする。いつもの無表情の中に僅かに浮かんだ心配そうな色がくすぐったくて身じろぎすると、こら動くなとやんわり怒られた。
 博士がヒートに窓を閉めてブラインドを下ろすように言って、ヒートがえーっと口を尖らせ、その横でウッドが何も言わずに窓を閉めてしまったのに気づいてもぉーっ!と身体を揺らした。
 もうすぐ着くって。運転席からクイックが宥める。エアーが自分にもたれている二人を見て、起こすかと聞いた。もう少し寝かせておいてやろうとメタルが答えると、フラッシュがぱちりと目を開けて、もう起きてると言った。バブルが大きな欠伸をしてうーんと背を伸ばした。
 クラッシュは感情表現がとても苦手だ。
 それは彼に感情がないことを意味しない。
 影絵として切り取られた家族の絵を、クラッシュは忘れないでいようと思う。
 ぎゅーっと胸が締め付けられるような、そのくせとても幸せなこの気持ちを表現する術を探していたら、博士がにっこり笑ってクラッシュの頭を撫でた。
 博士はクラッシュが笑っていることをわかってくれたのだと思う。
 彼は人間で、自分たちはロボットで、それでもしっかりと繋がっていた。
 クラッシュは博士の表情を真似して、目を細めてみた。
 上手く笑顔にはならなかったが、博士が笑ってメタルが笑って、エアーとバブルとヒートとウッドが笑って、兄弟の誰かからデータを送ってもらったらしいクイックも笑った。シャッターの音にびっくりしてそちらを見ると、カメラを手にしたフラッシュがいい絵が取れたぜと言ってニヤリとした。
 クラッシュはもう一度、不器用な笑顔を浮かべた。
 たとえ大地が狭くても、海にも空にも限りがあっても、自分たちの絆は永遠だ。
 だって地球が丸いなら、いつまでだってきっと、皆で歩き続けられる。
 自分たちならきっと、ぐるぐる回って何度繰り返そうとも、同じ道を違うように辿ることができるはずだから。
 皆で歩き続けるこの道を、愛することができるから。



+++

不確かなものを信じる力が心だと言ってみる。
視覚センサーからはレーザーがでてます。リモコンみたいに扉を開閉したり、目と目を合わせて通信することも出来ます。その場合は電波と違って盗聴しにくくなるけど、ずっと目を合わせていないといけないので、長い話をするならケーブルで接続すると思われ。



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