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愚者の跳躍

ロックマンの絵とか文とかのログ倉庫。2ボス、ワイリー陣営で腐ってます。マイナーCP上等。NLもあります。サイトは戦国BASARAメインです。

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2024/11/22(Fri)18:34

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キリバン04:あの月を、斬る (Dr.W+旧M)

2009/01/10(Sat)18:25

いつも以上にお題に苦しんでますが……落ちがないのはいつものことですが;
4つめのお題の担当はワイリー博士です。最初のメタルが起動した時の話なので旧メタルと表記しました。

※超俺設定注意。キャラ設定のメタルの欄を先にご覧ください。





【あの月を、斬る】


 震える息を吸って、吐いた。もう何度も、気が遠くなるくらい同じ作業を繰り返したのに、今度は違う。スイッチに伸ばした指先が震える。興奮が老いを感じ始めた体中を駆け巡り、歓喜が胸を満たす。
 もう一度深呼吸を繰り返し、今度こそオールパワーアップのスイッチを押した。
 周囲の機械が唸りをあげ、作業台に横たわる赤い機体が、装甲と同じ赤い瞳を開いた。空中にステイタスがレーザー表示される――“ACTIVATED”。
 起動成功。
 『彼』はゆっくりと身を起こし、マスクの下で呼吸を開始する。機械仕掛けの肺がエアを取り込む音は人間の呼吸音とは少し違っていた。さらに『彼』は身じろぎするように関節をテストランした。目の前で両手の指をゆっくりと握ったり広げたり。
「…………」
 言葉も出ない自分の前で、『彼』がこちらを向いた。
「DWN.009 METALMAN、正常に起動しました――……アルバート?」
 わずかに首をかしげる『彼』――メタルマンを見つめ、喜びの余り声も出ない。
 そんな自分をじっと見つめるロボットの視線は暖かかった。マスクの下で、『彼』は微笑んでいる。感情表現プログラムに慣れさせてから機体にインストールしたせいか、起動したてであっても自然な表情を浮かべることが出来るらしい。
 こちらもようやく感情が表情に表れた。どうしようもなく笑み崩れる顔で、目覚めた友に語りかける。
「メタルマン……メタル、調子はどうじゃ?」
「問題ありません。動作テストのため、少し歩いてみようと思うのですが」
「そうじゃな」
 苦笑する。これでは立場が逆だ。自分から言い出さなければならないことなのに。
 滑らかな動作で床に降り立つロボットと並んで歩き出す。
 長年の夢がようやく叶った。誰しもが笑う稀有壮大な夢の最初の一歩だけれど、決して諦めなかった自分を褒めてやりたいと思う。
「やはり自分の目で見る世界は違うか?」
「この視点は見慣れているのでさほど違和感はありませんが、センサーの感度は大分違いますね。全ての機能を使いこなせるまで少しかかりそうです。広い所へ行っても良いですか?」
「外は夜じゃぞ?」
「かまいません。センサーの機能を試すにはその方が都合が良いでしょう」
 やはりメタルマンの身長を自分とほぼ同じにして良かった。メタルマンに搭載された意識は、たったいま目覚めたばかりの赤子ではない。長年自分の助手であり、友であったAIなのだ。何十年もの間、機能拡張した多機能サングラスが『彼』の目であり耳であり、その視点はもちろんワイリーと同じ高さにあったのだから。
 そういえば、こうして誰かと並んで歩くのも数十年ぶりだ。
 顔を見て話すというのは、良いものだ。


 太平洋に浮かぶワイリーのロボット工場。大きな月が見下ろすその広場で、メタルマンが動作テストを繰り返している。幾重にも重なった建築物の向こうから響く潮騒の他には、滑らかな駆動音と地を蹴る音だけが響く。
 歩く、走る、跳ぶ。宙で身体を捻って着地する。ラボには各地からさらってきたライトナンバーズが眠っているが、その中でも機動性の高いカットマンをベースにした機体はとにかく身軽だ。もちろん、天才Dr.ワイリーが戦闘用として組み上げたのだからベース以上の性能を発揮するに決まっている。
 『彼』は全身で感じる世界をどう思っているのだろう?
 心を持った自分をどう思っているのだろう?
 自身の力を試すように跳躍を繰り返していた赤い機体は、ついに周囲の機材や壁を蹴って高く高く跳んだ。
 月に向かって跳んだ。
 モノが心を持つ日が来ると、誰が思っていただろう。
 心を得た彼らを道具扱いせず、友と呼べる者がこの世界にどれほど居るだろう。
 ワイリーの視界の中、メタルマンが手の中に円形のノコギリを思わせる武器を生み出した。メタルブレード生成装置も問題なく稼動しているようだ。
 空中で身を捻った彼と数十メートルの距離を隔てて目が合う。
 示し合わせたかのように、二人は不敵な笑みを交し合った。
 思い切り身体をしなわせたロボットが、月に向かって刃を投げる。
 世界征服など馬鹿げた事だというのなら、こちらを愚か者と呼ぶのなら好きにすればいい。
 所詮、賢者には何も変えられない。変化を起こすのは愚者の跳躍だ。
 恐れず跳べば、きっとあの月にすら手が届く。
 月を切り裂け。
 世界を覆せ。


 足場を蹴って落下のスピードを殺したメタルマンが、軽々と目の前に降り立った。自身の運動性能に満足したのか、誇らしげな表情をしている。ワイリーが歩み寄ろうと足を踏み出したとき、二人の傍らに先ほど投擲されたメタルブレードがずがっ!っと落ちてきた。
「……」
「……」
 二人は声もなくその場所を見つめる。高所から回転しつつ落ちてきた刃は、舗装された地面に完全に埋まっていた。
「……申し訳ありません、アルバート」
「な、なかなかの威力じゃな……」
 ロボットごときが投げた刃が月に届くわけもない。真上に投げれば落ちてくるのは道理。
 つい、月を斬るなどという幻想を見てしまったが、どうやら年甲斐もなく興奮しきっていたらしい。
 笑い出した自分をメタルマンはびっくりしたように見つめていたが、やがてつられたようにくすくす笑い出した。
「さあ、これから忙しくなるぞ! 仕事は山積みなんじゃからな!」
「お手伝いします、アルバート」
 一人の人間と一体のロボットが肩を並べて歩いていく。
 身振り手振り付きで言葉を交わしながら。
 親しげに、楽しげに。




++++


メタルを初起動して嬉しすぎるワイリー博士の話でした。
旧メタルは結構感情豊かです。ようやく手に入れた感情を存分に味わってます。ワイリーのことはファーストネームでアルバートと呼びます。親子というより友人に近い関係。
記憶のリセット後に再起動したメタルは感情表現を抑制しているので無表情で淡々と喋り、ワイリー博士と呼びます。


ワイリー、内心結構寂しかったです。



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