6つめの担当はメタルです。2後、3前でブルースとの関係もちょっと書いておきたいなぁと思って、相手はブルースにしました。
タイトルに期待した方はスイマセン。ぜんぜんなまめかしい話ではないです(笑)
※超俺設定注意。キャラ設定のメタルの欄を先にご覧ください。
【背徳を分けてあげよう】
ヒートにある助言を与えてを送り出したメタルは、かすかな口笛の音に振り返った。実際には数分前からセンサーに捕らえていたのだが、あえて無視していたのだ。
研究所に入ってすぐのホールにはぐるりと回廊がついている。二階の廊下から続いているそこから、一人のロボットが黄色いマフラーをなびかせて飛び降りてきた。
「また来たのか、ブルース」
侵入者を目にしても、メタルは顔色一つ変えなかった。ブルースはライトナンバーズだが、生まれて間もなく製作者の手を離れている。機能停止寸前のところをワイリーに助けられ、その後も何度かメンテナンスのために訪ねてきたこともある顔見知りだ。
最も、ブルースはあまりメタル以外のワイリーナンバーズと顔をあわせたことはない。孤独を愛し、べたべたした関係を嫌うブルースが前回現れたのはほんの一週間ほど前だ。
「珍しいな。まだこの辺りをうろついていたとは」
「ワイリーがまた何か企んでいるようだし、あまり目を離さないようにしておこうかと思ってな」
その言葉にメタルはスッと目を細める。
「二度も傍観しておきながら、いまさら正義に目覚めたとでもいうのか? アルバートの邪魔をするつもりなら、今ここで破壊するが」
「そのつもりはないさ。ワイリーは一応恩人だしな」
殺気を隠そうともしないメタルをするりといなし、ブルースはヒートマンが去った方角を眺めた。
「しかし……唆したもんだな。お前も蛇の真似をするようになったか」
「何のことだ」
「弟に、ワイリーをお父さんと呼んでみろなどと言っていただろうが」
「別に唆してはいない。そう呼んだら怒られるだろうかと相談されたから、それはないと言っただけだ。喜ぶに決まっている」
メタルに太鼓判を押されたヒートは随分嬉しそうにしていた。これから博士と二人で買い物に行くのだと言っていたから、他の兄弟の目がないところでこっそり呼んでみるつもりだろう。
通常、ロボットが創造主を父と呼ぶことはない。そうプログラムされるか、命令されなければ呼ぶことは出来ない。自分たちにはそういった規制はないが、戦闘集団であるし、他の兄弟に遠慮して呼ぶことを控えてきたのだろう。もちろん博士に怒られたくないというのが本音だろうが、ワイリーの助手として弟たちの製作に携わったメタルにはそれが杞憂だとわかっている。
自分たちはロックマンに負けた。
負けた自分たちを、ワイリーは丁寧に修理し、家族として迎えてくれた。
ならば、少しくらいは我侭になってもいいはずだ。
蛇というのはエデンの園でイヴを唆した悪魔のことだろう。
まったく、人聞きの悪い例えだ。
メタルは横目でブルースを睨む。
「大体、創造主に大して全く敬意を払わないお前に言われたくはないな。俺たちは彼を父と思って慕いこそすれ、軽んじることはないぞ」
「そこを突かれるとな」
ブルースは苦笑する。創造主の元を逃げ出した彼には、この世に敬称を付けて呼ぶ相手はいないのだ。
「ロボットと人間で家族ごっこをしているのが気に食わんか?」
ブルースには、メタルがライト博士とロックマンたちのことを当てこすっているのだとすぐにわかった。どうやら少し怒らせたらしい。
「そこまでは言っていないさ。俺も弟妹を持つ身ではあるし、お前たちもある意味俺の弟と言えるのだからな」
「今更兄貴面をされてもな」
「違いない」
ブルースとメタルは兄弟ではない。互いに軽口を叩き合う友人のような間柄だ。
二人が出会ったのは、ブルースがワイリーの元で修理を受けたときだ。
当時、メタルは心こそ持たないが意志を持ったAIで、ブルースは自我に目覚めたばかりだった。彼に機械の意思の何たるかを教えたのは、まだ名前のなかったメタルだ。
ブルースの技術を使ってメタルは心を得たが、それゆえブルースを兄と思うことはない。
メタルはブルースを手招きしてラボに向かう道を歩き始めた。
「来い。メンテナンスしてやる」
「先週してもらったぞ?」
「立ち話は時間の無駄だ。先週交換しそこなったパーツが届いている」
修理をしている間なら世間話をしてもいい、ということだろう。遠慮なく後を付いていくブルースに、メタルが独り言のように言った。
「ヒートだけじゃない」
「?」
「皆少なからず、心の中ではそう呼んでいる筈だ」
「ああ……」
お父さん、と。
本来なら許されないはずの呼びかけ。
ブルースも、全く思ったことがないわけではない。ロックをはじめとする弟たちは、思いこそすれ口には出来まい。彼らは人間のために役目を負ったロボットであり、自分やワイリーナンバーズほど自由に出来てはいないのだ。
「お前はどうなんだ、メタル?」
「決まっている」
俺は彼の友だ。
何か文句があるかという鋭い視線に、ブルースは「いや」と笑みを返す。
蛇に唆され、楽園を追放されたとしても、荒野を歩む二人はきっと幸せだっただろう。
従属物が主を父と呼ぶことが背徳なら、蛇の優しさを持ってそれを分け与えればいい。
心を持った我らはもはや、楽園に住めるほど無垢ではない。
荒れ地に生きるなら、愛という名の背徳が必要なのだ。
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2後のメタルは兄弟のいないところならワイリーを名前で呼びます。
ちなみに、メタルとブルースの会話は一見すると喧嘩しているようなので、弟たちに見られると面倒です。
互いに銃を付き合わせても平気でいられる、ちょっと殺伐とした友人関係って結構好きです。3後だとワイリーを見捨てたブルースはちょっと(かなり?)メタルに恨まれる事になりますが。
お題9のヒートの話に微妙に繋がります。
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