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愚者の跳躍

ロックマンの絵とか文とかのログ倉庫。2ボス、ワイリー陣営で腐ってます。マイナーCP上等。NLもあります。サイトは戦国BASARAメインです。

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あなたの悼みによって終わる(F+Rl)

2009/08/29(Sat)00:40

ネット復活。例のごとく父上に直してもらいました。


ちょっと時間空いてしまいましたが、久々の更新です。
光巻発展系。キリバンのランダムお題企画の光巻から一応繋がってます。再構築シリーズの隊長のエピを決着させる話になります。
メタ兄がとても大人気ないです。







【あなたの悼みによって終わる】



 DWN.014フラッシュマンはジョーの修理をしていた。このジョー――正式個体名SJR-005を破壊したロックマンは途中でステージ攻略を諦めて退却していった。だからフラッシュも悠長に部下を修理する余裕がある。
 SJR-005も他の部下たちもコアまでは破壊されておらず、ワイリー博士やメタルマンほどの専門知識がないフラッシュにもなんとかカバーできる範囲だった。
 修理を終えたフラッシュは、SJR-005の電脳にケーブルをつないでアクセスし、起動信号を流し、じっと部下の顔を見た。なんとか修理できると言っても不安は残る。きちんと目を離すまで気は休まらない。
 やがて駆動音と共に単眼センサーに光が宿り、空中にステイタスがレーザー表示される――“ACTIVATED”。
《SJR-005、通常起動シマシタ》
 電波の声が告げ、モノアイがフラッシュを捉えた。
「よかった。ちゃんと起動したな。エラーもなさそうだし……よかった」
 安心したフラッシュがケーブルを抜くと、SJR-005は起き上がってじっと顔を見つめてくる。
「何だ?」
《ソレハ、笑顔トイウ表情デスネ?》
「ん? ああ、そうだな」
 フラッシュは軽く頬を撫でて頷いた。自分の顔に浮かんでいるのは安堵の笑みだ。まだ大した個性もない連中だが、フラッシュは自分に預けられた部下たちのことを大事に思っている。修理が済んで、無事目を覚ましてくれれば嬉しいものだ。
「それがどうした?」
《隊長ノ笑顔、好キデス》
「…………」
 呆気にとられて――その後自分は何と答えたものだったか。
 何故か身を切るような哀しみがこみ上げて来て、圧迫されるような苦しさを感じる。
 ロボットの身は溺れる苦痛など知らないが、こういう感覚かもしれない。
 不意に目の前に文字が乱舞し、フラッシュはスリープモードから通常起動モードに移行――ありていに言えば目を覚ました。
 フラッシュはベッドに横になったままコンクリ打ちっぱなしの天井を眺め、考える。
 SJR-005のあの言葉は、初めて聞いた時はとても嬉しかった筈なのに、何故自分は今こんなに哀しいのか。喜びの思い出は、もう哀しい記憶になってしまったのだろうか。
 それでも、スリープモードの時に蘇って来るのは楽しかった思い出ばかりだ。SJR-005だけではない。自分に預けられたロボット全員と何かしらの思い出がある。彼らが自分を好きだといってくれた時の事、笑顔で過ごした時のこと。幸せだった事ばかり――記憶なんて都合がいいものだ。
「何ヶ月も毎晩毎晩……まだ忘れられねぇのかよ俺は」
 自分の女々しさには嫌気がさす。視線を向けると、窓際の机の上、シガレットケースほどの小さなケースが月明かりを浴びていた。その中には、硬化プラスチックのカバーで保護された部下たちの記憶チップが納まっている。
 それは心から分離した、思い出の欠片だ。彼らの心は自分たちがバラバラに分解してしまった。フラッシュが言い出して、彼らを分解して、自分たちが生きるための材料にした。
 彼らのおぼろげな個性を司っていたコアは真っ先に壊して、使われていたレアメタルを剥がしてしまった。だから、もう二度と部下たちには会えない。それでも、彼らの証をどうしても残しておきたくて、フラッシュは記憶チップを抜き取って保存した。兄弟から文句は出なかった。
 もう二度と会えないのだと思う度、共に過ごした記憶を思い出す度、褪せる事のない哀しみがどっと襲ってくる。
 それでも、涙は出ない。
 自分に泣く権利などない。
 フラッシュは、涙は自分自身のために流すものだと理解している。
 哀しみの涙さえ、自分を哀れんで流れるものだ。全てはストレスを流し去るためのもの――あいつらを捨てた俺に、自分を哀れむ資格なんかありゃしない。
 まして、兄弟にこんなところ見せられるものか。

   *

「こんにちは!」
「お邪魔しまーす」
 ワイリー研究所には、最近たまにロックマン――変身はしていないのでロック――が遊びに来る。そして何故か妹機のロールが着いて来ることが多い。さらに、ロールの身を心配してか、他のDRNがついてくることもあったりする。
 今日はロックとロールの二人だけだったが、それで長兄メタルマンの心が穏やかになるかといえば否だ。
 エントランスロビーで彼らを出迎えたメタルは、数秒間沈黙すると斜め後ろに立っていた次男を呼んだ。
「……エアー」
「わかっている。二人とも、こっちだ」
 深々とため息をついたエアーが二人を先導し、上階にあるリビングに連れて行く。DRNの主な接待役はエアーで、あとはヒートとウッドだ。二人はリビングにいるはずである。
 正直な話、DWNたちは何故ロックたちが遊びに来るのかさっぱり理解できない。
 戦い終わって手を差し伸べれば、互いの誤解も解けて仲良くなれる――おそらくそんな考えなのだろうが、敗者の側に立ってみれば腹立たしいことこの上ない。その意見の筆頭はメタルであり、その気持ちをなんとか押さえることが出来るのがエアーであり、「一緒に遊びたいっていうなら、遊んであげてもいいけどぉ」がヒートとウッドの意見だ。
 フラッシュはどちらかと言えばメタル寄りの考えだが、それ以上に彼らの来訪を迷惑に思う理由がある。
「フラッシュ」
 眼前のメタルがこちらに手を差し出している。赤い両目には、先ほどまでは必死に抑えていたのだろう殺気が漲っていた。他は恐ろしいまでの無表情なだけに、瞳に浮かんだ怒りがひしひしと伝わってくる。
 不機嫌絶頂なメタルに逆らう愚かな弟はいない。
 大人しくタバコのパッケージを取り出して差し出すと、無言で一本引き抜かれた。兄が唇に加えたタバコの先に、フラッシュはマッチで火を点ける。
「…………」
「…………」
 殺気だった目をしたメタルが、ふーっと煙を吐き出した。
 人間だったら冷や汗をびっしょりかいているはずの状況でも、ロボットのフラッシュは顔色ひとつ変えない。いや、微妙に頬が引きつっている。胃腸がないことを心から博士に感謝しつつ、フラッシュはこっそりため息をついた。
(メタルの、これさえ無けりゃ……)
 長兄はロックが来ると不機嫌になる。さすがに弟たちに直接当たることは無いが、この不機嫌オーラはもう凶器に近い。十分八つ当たりと言える。
 その上、普段はタバコの副流煙が博士の健康を害すると言っていい顔をしないくせに、機嫌が悪くなったメタルはフラッシュのタバコを凄い勢いで消費しはじめる。そして、メタルがタバコの匂いを漂わせていると、嫌煙家のクイックが傍に寄れず、その怒りは提供者であるフラッシュに向けられるのだ。
 迷惑極まりない。あいつらさえ来なければ、俺がこんな思いしなくても済むのに。
「兄貴……これやる」
 じろりと視線だけ送ってくるメタルの手にパッケージごとタバコとブックマッチの残りと携帯灰皿を押し付け、フラッシュは外に足を向けた。
「どこへ行く」
「タバコ買ってくる」
 一刻も早くこの場を離れたい。タバコのストックが無いのも本当だ。
「待て」
 切りつけるような声の鋭さに内心ビビリながら振り返ると、メタルが差し出した指に紙幣が挟まっている。
「な、何だよ……」
「釣りはやる。俺に一カートン買って来い」
「わ……わかった」
 いつも以上に言葉少なで高圧的だが、余分に金を寄越したのは多少は済まないと思っている証だろうか。
(というか、メタルが一カートンも消費したら、クイックの怒りの矛先はやっぱり俺に向けられるのか?)
 ……もういい。何でもいい。早くこの場を離れよう。
 フラッシュが一歩を踏み出したとき、パタパタと軽い足音が階段を下りてきた。金髪のポニーテールがリボンと共に宙を泳いでいる。DRN.002ロールだ。
「あ、メタルマン! 今日この街のスーパーで安売りしてるみたいなんだけど、一緒に買出し行かない?」
 メタルとロールが安い食材を多めに仕入れて折半する取引をしているのはフラッシュも知っていた。どうも家事を共通項にして何か認め合ったらしいのだが、買い物に誘うのは初めてのはず。
 まだ、DRNとDWNはお互いの腹を探り合っているような状況だ。気負いの無い表情からして無意識なのだろうが、彼女はそこを一歩踏み込もうとしているらしい。建前上DWNが危害を加えてくる可能性はないとはいえ、勇敢というべきだろうか。
「…………」
 ちょうどタバコを口にくわえていたメタルは長々と煙を吐き出した。
「残念だが、これから博士のお手伝いをすることになっている」
「でも、ちょっとくらい――……ん?」
「……! ……!!」
 抗弁しようとするロールに、フラッシュは目で訴えた。今のメタルに逆らっても何も良いことは無い。物理的な被害は無いが、これ以上不機嫌オーラの圧力が増すのは困る。
「えっと……」
 彼女はわかってくれたらしい。
「じゃあ良いわ。誰か一緒に行ってくれる人、いないかしら?」
「エアーたちはどうした?」
「なんか皆でゲーム始めちゃって……でも、私は今日最初から買出しに行くつもりだったのよ」
 ロールが手にしたチラシを見て、メタルが「ふむ」頷く。フラッシュには兄が次に言う台詞がわかった。
「フラッシュ、一緒に行ってやれ」
「了解……」
 フラッシュは懸命にも「近所の店で済ませるつもりだったのに」という愚痴を胸のうちに飲み込んだ。ロールとは以前ひと悶着あってずっと避けていたのだが、メタルの視線に逆らう勇気など無い。
 もうこの建物から出られるなら何でもいい。


 かつて、ある戦闘用ロボットが言った。
 ――俺たちの悪を偽りだというなら、お前たちの正義も偽物だ。
 ロボットに罪は無い。悪いのはワイリーだ。そう言った自分への反論だった。
 ロールは、そう言い放ったロボット――DWN.014フラッシュマンと、ずっと話をしたいと思っていた。だからロックにくっついて隣町のワイリー研究所まで足を運んでいたのだ。
 今まではどうも避けられている節があって話をする機会が無かったが、今日は幸運にも二人きりになることが出来た。メタルマンには感謝しなければなるまい。
(でも、結局あんまり話せなかったな……)
 大量に買い込んだ食材を両手に下げ、ロールはちょっとばかり凹んでいた。
 買い物をしている間何度かさりげなく話題を振ったのだが、無視されたり「ああ」とかで終わってしまったり。
(無理に来てもらったようなものだし、仕方ないけど……)
 そもそも、人前でおおっぴらに言えるような事を話したかったのではないと思う。
 正義だとか悪とか、大声でできる話ではない。
(でも……このままじゃ、チャンスを不意にしちゃう)
 フラッシュマンと話をする、またとない機会である。だが、どうにもきっかけがつかめない。
(ううん、きっと大丈夫。それに、今日が最後ってわけじゃないし……)
 DWNに歓迎されていないことを知りつつ、ロックは彼らと仲良くなることを諦めようとはしていない。なら、自分だって。
 気合を入れなおして袋をよいしょ、と持ち直すと、お土産代わりのE缶が詰まった紙袋を横から伸びた手が持っていった。
「あっ」
「……俺が持つから」
 彼は深いため息をつきつつ、重い袋を腕に抱える。彼も両腕に大きな袋を下げているのだが、一応戦闘用ロボットだけあって軽々持ち運んでいる。
「あ、ありがとう……」
「勘違いすんなよ。ガキが重い荷物持ってるって絵面が嫌なんだ」
 苦々しい顔で言った言葉は、ロール個人への親切ではないということなのだろうが。
(でも、それって結局あなたが子供に優しいってことなのよね……)
 ロックに付き合っているうちにわかってきた事だが、やはり彼らは単純な『悪』ではない。フラッシュマンもそうだ。
(でも……何て話しかけよう)
 あの時の言葉の意味について問えば、喧嘩腰になってしまいそうで怖い。激しい言葉を交わしたいわけではない。
(私、もうちょっと勇敢だと思ってたんだけどな……)
 考え事に耽っていたロールは、突然強く腕を引かれた。
「きゃっ!」
 鼻が硬いものにぶつかり、驚いて荷物を落としてしまう。
 ぶつかったのはフラッシュマンの身体で、腕を掴んでいたのも彼だった。
「な、なによ……!」
「あっぶねぇな……ちゃんと前見て歩けよ」
 言われてみれば、目の前は赤信号の交差点だ。通行量はさほど多くないが、ロールが道路に出ようとした時、ちょうど自動車が走ってきたらしい。
「ごめんなさい」
「ったく……ぼーっとしてんなよな」
 フラッシュマンはやれやれとため息をつくと、散らばった荷物を拾いはじめる。周囲に人通りは無かったが、ロールはなんとなく顔を赤らめてそれを手伝った。
 買った物を袋に詰めなおしていると、フラッシュが落としたE缶に混じって小さなチップがいくつも散らばっていた。傍に小さな銀色のケースも落ちている。地面にぶつかった拍子に蓋が開いて、中身がケースから出てしまったらしい。
「これ……ロボットの、記憶チップ?」
 ナンバーズよりランクの低い作業用ロボットたちの記憶情報を納めるチップのはずだ。だが、全て硬化プラスチックで保護され上書きできないようになっている。商品のはずが無い。
 もしかして。
「フラッシュマン、これ――」
「触るなっ!」
 差し出した指からチップが奪い取られた。
「…………ッ」
 青ざめた顔で激しくロールを睨み付けたフラッシュは、ゆっくりと深呼吸すると静かに言い直す。
「それに、触るな。俺が拾う」
「う……うん」
 ロールが頷くと、彼は丁寧にチップを拾い集めてケースに入れた。ぱちんと音を立てて蓋を閉めると、装甲の収納スペースに収める。ケースはもともとそこに入っていたのだが、先ほどロールを助けたときに落ちてしまったのだろう。
「怒鳴って悪かった……行こう」
 硬い表情で歩き出すフラッシュマンの横顔を見ながら、ロールは確信していた。
 あのチップは、DWNの部下ロボットたちのものだ。全体にしては数が少ないから、おそらくフラッシュマンの部隊だろう。
 数ヶ月前になるが、DWNの様子を見に行ったロックがしょげて帰ってきたことがあった。パーツ不足を補うためにかつての仲間を分解するDWNを見たらしい。
 ならば保護された記憶チップは、解体されたロボットたちのものだ。
 自ら切り捨てた仲間の一部を大切に持ち続ける――フラッシュマンはそういうロボットなのだ。
 ロールは、少し先を行くフラッシュの背に声をかけた。
「それ……あなたの、ロボットの……?」
 ああ、言い方が悪い。これじゃ何を言いたいのかわからないじゃない。
 それでも、フラッシュマンはわかってくれたらしい。
「ああ」
 彼は軽く振り返った。
「ロックマンに何か聞いたのか? まあ、そりゃショックだっただろうしな……」
 そのまま足取りを緩め、右手の公園に視線を向ける。
「なあ、ちょっと一服してって良いか?」
「えっ? う、うん」
 ロールとしては願ってもない申し出だ。フラッシュはロールの返事を聞くと慣れた足取りで公園に入り、目立たない木陰のベンチに座った。買ったばかりのタバコの包みを開け、一本銜えて火をつける。
 ロールは疲れたように煙を吐き出すフラッシュマンの横に腰掛け、彼とは反対側に荷物を置いた。
「ねぇ」
 声をかけると、視線だけがちらりとこちらを向く。
 ロールは勇気を振り絞って青い装甲の収納スペースを見た。
「その子たちのこと……修理、しないの?」
 フラッシュマンは「は」と短く笑い、
「その子たち、ね……」
 ――そんなガラじゃなかったよな。
 呟いた後こちらを向いた顔には、苦い笑みが浮かんでいた。
「しねーよ。こいつらは死んだんだ。コアもばらしちまったしな……」
 わずかなレアメタルを手に入れるためだ。
 ――大丈夫だ。あの時のことを他人に言われても、俺は冷静でいられてる。
 だが、少女は恐る恐るといった表情でさらに踏み込んできた。
「でも、チップが残ってるんでしょ? 直せるんじゃないの?」
 ライト博士と一緒に暮らしてるのに何も知らないのか。
「ここに入ってるのはあいつらの記憶だけだ。ロボットは、コアが違けりゃ違う存在なんだよ。記憶が同じでも、あいつらが帰ってくるわけじゃない。新しく生まれる奴らに、他人の記憶を植え付けんのは酷ってもんだろ?」
 そうだ。あいつらは俺が殺した。だから、俺が生まれ変わりを求めちゃいけないんだ。罪を帳消しにするような真似はできない。
「じゃあ、どうして……」
 この娘は残酷なことを聞いてくる。
 それでいて、顔には「私なんかがほじくってはいけないのに」と書いてある。
 以前悶着があったときにはおよそ鈍感な『セイギノミカタ』様だったというのに、少しは変わったのだろうか。
 何故か腹も立たず、消えた台詞の後半を「何故チップを持ち歩いているのか」と推測したフラッシュは答えた。
「まぁな。中身を覗き見する気もねぇし、こんなものいつまでも持ってたって意味がない。再利用しなきゃ、ただのゴミさ。そんな事はわかってるんだ。だけどな……こいつらは俺の部下で、俺は家族のためにこいつらを捨てた」
 だから、
「忘れないようにだ……」
 ああ、何で俺はDRNなんかに自分の心情を語ってんだ?
 俺は自分の選択であるがゆえに泣けない。
 そんな葛藤も、兄弟の前では絶対見せられない。
 俺が今も傷ついたままだと知られたら、あいつらに負担をかける。それだけは絶対したくない。だから、パーツが足りないってわかったときも俺から言い出した。今も、あいつらを傷つけたくないから、皆の前では何ともないように振舞っている。自分に部下がいたなんて完全に忘れたように、話題にすることもない。
 それでも、忘れてなんかいないんだ。
「こんなこと、誰にも言うなよ。俺は…………あいつらに心配掛けたくねぇんだ」
 ロールはこちらにその青い眼差しを向けている。大きな瞳は夏空のような輝きを見せながら、どこかもの哀しい色をしていた。
 青年と少女の姿をしたロボットたちは、木の枝が作る陰の中でじっと視線を交わす。
「じゃあ、やっぱり……哀しいのね」
「まぁな」
「哀しいなら……泣いていいはずじゃないの?」
「泣けねぇよ……俺がこいつら殺したのに、どの面下げて泣くんだよ」
 彼の性格ならば、小さく笑みのひとつでも浮かべてみせる――そんな口調だった。だが、フラッシュマンは笑わなかった。辛そうな表情でもない。無表情でいることはできても、それ以上は誤魔化しきれていない。
(哀しくないのではなく、泣けないと思うなら――泣くことを身勝手だと思っているなら、その分だけあなたは優しくて、大事にしてたんだね)
 部下のロボットたちも家族も、どちらも大事で、守りたかった。だが、彼は選択した。
「後悔はしてないんでしょ? 自分の選択も、出会えたことも」
「ああ」
「私にはあなたの辛さはわからないけど」
 生意気なことを言おうとしてるな――そう思いながらも言葉は止まらなかった。
「あなたの大切な人たちは、あなたが辛くなることを願ってはいないと思う。大好きな人が自分を思い出すとき、哀しい顔はしてほしくないって……少なくとも、私はそう」
 辛い別れだったとしても、楽しかった思い出として残りたい。
「それが、互いを大事にするってことだと思うから……」
 怒られるかな。ロールは俯いて身体を硬くした。フラッシュマンは何も言わない。じっと少女のつむじの辺りを見詰めている。
 ――隊長ノ笑顔、好キデス。
 不意に、脳内で記憶が再生される。
「あー……これだからガキは苦手なんだよ……」
 驚いたロールが顔を上げると、フラッシュマンが顔を覆った手の下から、透明な雫が流れ落ちていた。
「フラッシュマン?」
「……うるせぇ」
 感情表現プログラムを制御しているのか、声も身体も平時のものと変わらない。ただ、洗浄液の涙だけが静かに彼の掌を伝い落ちていく。
「わ、私……いないほうがいい?」
「…………いいよ。そこに居ろよ」
「う……うん」
「ありがとな……」
「え?」
「……ようやく泣けた」
「…………」
「言うなよ」
「……え?」
「絶対言うなよ?」
「うん……約束するわ。誰にも言わない」
 絶対に言わないからと約束すると、フラッシュマンは顔を覆ったまま小さく頷いた。
 初めて素直に哀しみに浸るフラッシュマンから目を放し、ロールは周囲を見回した。
(あんまり人のこない場所でよかった……)
 木々の奥、日差しの下に目をやれば、きゃっきゃと遊んでる子供、微笑ましそうに見守る親。目を戻せば、光の中の世界から切り離されたように、陰の中で泣いているロボットがいる。
 自分は、あの日差しの下からこっち側へ入ってきた。
 あそこに居た時は陰の中に誰がいて、どんな顔をしてるかなんて考えたこともなかった。
 隣で黙ったまま涙を流しているフラッシュの姿は、静かであるがゆえに雄弁だ。
 私はこの人の涙が本物だと思う。
 だとしたら、この人の悪意も、優しさも本物なんだろう。
 ずっと苦しんできたんだろう。
 それが今日で終わればいい。
 辛くなくなるわけじゃない。傷が消えるわけじゃない。でも、一番痛い時は過ぎて、あとは大事に思っていた気持ちと、幸せな思い出だけ残ればいい。
 ――救われてほしい。
 この人が。この人の部下だったロボットたちが。DWNが、ロックが、皆が。
 ロールはフラッシュが膝に置いていた手に自分の手を重ねる。金属と無機物でできた冷たい手でも、重ねた場所は温かいような気がした。
 木々の隙間から覗く空は、あまりに鮮やかに輝いていた。

   +

 帰り道。食料の入った袋を両手に提げたロックは、妹機に尋ねた。
「ねぇ……ロールちゃん、フラッシュマンと何かあったの?」
 ロールは視線をそらし、夕暮れ空を飛ぶカラスの数を数えるふりをした。
 だがロックは諦めない。
「買い物にしてはやけに時間がかかってたし、フラッシュマンがたくさん荷物持ってくれてたし機嫌悪そうじゃなかったし」
「…………む~」
 ロールはこれ以上のだんまりは無意味と判断したが、いくら兄の頼みであろうと誰にも言わない約束を破るわけにもいかない。
「……ナイショ」
 ロックの目は、彼女の顔がうっすら赤らんだことを見逃さなかった。
「えー、ずるい。ロールちゃんばっかりワイリーナンバーズと仲良くなってさぁ……」
「ずるいとか、そういう問題じゃないわよ」
 強い口調でこの話題を打ち切ると、ロールはやや歩くペースを上げた。
 あの後、泣き止んだフラッシュマンはタバコを吸いながら部下たちとの思い出を話してくれた。ロールも人間に近い心を生み出すシステムを搭載されていない作業用ロボットでも、長く活動すれば個体差が現れることは知っていたが、実感があったわけではない。
 活動期間もさほど長くなく、わずかな差異が現れたのみだったらしいが、フラッシュマンは嬉しそうに、しかし少し寂しそうな顔で彼らのことを話した。
(本当に、大事に思ってたんだなぁ……)
 そんな優しい人が、どうして悪を選んだんだろう。
 そればかり考えていた自分に対し、最後にフラッシュマンは「ありがとな、嬢ちゃん。ずいぶん、楽になった」と小さく微笑んだ。
 その表情が、脳裏に鮮明に浮かび上がってくる。
 彼のこと考えると、胸が熱くなるような気がした。実際に内部温度が上がっているわけではないのに、熱さと苦しさを感じる。だが、決して不愉快ではない。
 こんなことは初めてだ。
 走って追いついてきたロックが、こちらの顔を覗き込んで驚く。
「ど、どうしたのロールちゃん! 顔赤いよ? 帰ったらライト博士に見てもらおう」
「だ、大丈夫よ! なんでもないってば!」
 ロールはロックを振り切るためにさらに足を速める。
「待ってよロールちゃん!」
「なんでもないったら!」
 競争するように足を速めて、微笑む面影から逃れようとする。


 努力はするが、逃げ切れるとは思えない。


+++


少女漫画w


「SJR=スナイパー(S)ジョー(J)リターンズ(R)」でした。しょーもな。
最近は電子タバコなんてハイテクなものがあるんですね。未来の世界ならそういうモノがもっと出回ってそうですが、とりあえず隊長のは普通のタバコに近いものみたいです。

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