最後です。
エピローグ的なもの。
危機は去ったとはいえぼうっとしている暇など無く、ただ撤退あるのみだった。
メタルたちは二人に先んじて脱出し、予定のポイントで待機組のバブル、ウッドと共に待っているはずだった。彼らが退路を確保してくれたおかげで敵の姿は無い。
左脚が大破したフラッシュは、走るクラッシュに背負われていた。確かに神様は願いを聞き届けてくれたらしい。非力な自分が重たい兄を担ぐ事態にはなっていない――願ったことと真逆の事が起きているだけだ。
神様は変だとフラッシュは思う。
「なあ兄貴……」
「なんだ?」
がっしょんがっしょんと走るクラッシュが顔をわずかに後ろに向けた。ヘルメットに隠れて見えない横顔に向かってフラッシュは言う。
「今度博士に頼んでハンドパーツつけてもらえよ。不便だろ?」
「……俺、不器用だもん」
うまく行かないに決まってる。
いじけたような兄の声はまだひび割れていた。
フラッシュは軽く声を上げて笑った。
「練習すりゃ人並みになるって」
「……フラッシュ、付き合ってくれる?」
「ああ、いいぜ」
いつもなら丁重にお断りしているところだが、今は何故か気分がいい。生き残れた事に安堵しているからだろうか。
「……データは?」
首尾を問う兄に、フラッシュは左腕を軽く振って見せた。
「中身も見ずにコピーしたから、帰ってみないとわからねぇな。解析はバブル兄貴が得意だから任せるけど……こんだけ騒いでスカだったらげんなりだぜまったく」
弟の愚痴にクラッシュは視線をうつむかせた。
「博士、怒るかな……メタルも」
「なんでだ?」
「俺、フラッシュのこと守るって約束したのに……怪我させた。脚一本だって、どうでもよくなんかない」
先ほどから妙にナーバスなのはフラッシュの損傷をいまだに気に病んでいるかららしい。
(そういえば、こいつが暴走しかけたのも俺の脚が壊れたせいだったっけな)
今までただ壊すだけだったクラッシュが『守れ』と命じられて、必死にそれを全うしようとしたのだ。確かに自分は傷を負ったが、逆に言えば足一本で済んだとも言える。
フラッシュは努めて明るい声で励ました。
「大丈夫だろ。お前のおかげで皆助かったんだからな。むしろ大手柄じゃねぇか。どっちかってーと、褒められるべきだぜ?」
「そうかな」
「そーだよ……万一のときは一緒に怒られてやっから、深く考えんなって」
「うん……」
角を曲がると、外の光が見えた。この建物を出て、近くの森の中――そこに兄弟たちが待っているはずだ。
「ハンドバーツの練習……約束だからな」
「わーってるって……」
ちょっとやる気のクラッシュとややげんなり気味のフラッシュは、気の抜けた言葉を交わしながら仲間と合流すべく道を急いだ。
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このコンビ、結構好きみたいで楽しく書けました。
内向的で子供っぽい兄と面倒見のいい大人っぽい弟って楽しいですね。クラッシュが「さっぱりした性格」にならずにうじうじしちゃいましたが。
長々と続きましたが、最後まで読んでくださった方、ありがとうございました!
[5回]
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守るべきもの読みました
2008/11/09(Sun)13:28
No.1|by NONAME|
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