昨日9割がたかけてたので、今日は細部の手直しと終わりのトコだけ。
ハイフン多くて申し訳ないですが、とても長くなってしまったので半分に分けました。
メタ兄オンステージな感じの9話目。クライマックスです。っていうか、8がクライマックスでいいじゃない自分。どうして詰め込もうとするの?
前半ロック視点入ります。
……だんだんこの子がわかってきたかもしれない。
あと、頭の説明の部分にリクエストについてのリンク貼りました。そういえば前回貼ってたな、と思って。
【追記】
いつもの注意文忘れてました。
メトレスしてます。ご注意ください。
【再構築_09_1 riot act】
扉一枚隔てたラボの中では、メタルマンを再起動させるための作業が行われているはずだった。隣町にあるこの研究所までワイリーを連れてきたのはライト博士で、ロックはその付き添いである。
改心したとはいえ、二度も世界制服を企てたワイリーをかばうライト博士は、それゆえに『ちゃんとして』いなくてはならなかった。ライト博士は友を監視するような行為を嫌っていたが、現段階ではまだワイリーの外出に随伴者が必要だ。
(反省して……それで何もかも許されるわけじゃ、ないんだよね……)
ロックは数ヶ月前の出来事を思い出した。
廃棄されたワイリー基地で、部下のロボットたちを分解していたDWNたち。大切な人を取り戻すまで、平和になれない彼ら。
倒して、それで何もかもが終わるわけではないのだ。
(メタルマンが再起動したら……今度こそ、仲良くなれるかな)
「ワイリー、何か手伝うことはないか?」
ライト博士がドアをノックして声をかけた。ややあって、ワイリーが中から顔を出した。
「クイックがメタルを呼びに行った。わしももう、待っていることしかできん」
「エネルギー供給を再開したのなら、自壊が始まるな……五分ほどか」
「ああ……そのくらいで結果がわかる」
ワイリーは頷くと、ドアを開けたまま部屋の中に戻って行った。ライト博士が横にずれてくれたので、ロックはその横からそっと中を覗き込む。
旧型のコンソールにはフラッシュマンとバブルマンが座っていた。二人とも電脳空間に意識を投影しているのか、目を閉じて微動だにしない。作業台にはクイックマンとメタルマンが横たえられ、何本ものケーブルで機材と繋がっていた。
残る兄弟はラボの奥に固まっていて、ワイリーはコンソールの脇に立ってモニターを睨みつけていた。
ロックは小さな声で尋ねた。
「博士、五分って……なんですか?」
「システムの自壊にかかる時間だよ……」
ライト博士は悲しそうに言ってロックの頭を撫でる。
(自壊……どうして、自分から死のうとするんだろう)
メタルマンの兄弟たちは、必死になって彼を修理してきた。それなのに、何故家族を悲しませるようなことをするのだろう。
わからない。だが、戻ってきてくれればいいと思う。DWNたちのために。何よりも、メタルマン自身のために。
(僕だって……もっと話してみたいと思ってるんだ)
恨まれているのはわかっている。ロックが来ると、DWNたちの纏う空気はギスギスしたものになるからだ。面と向かって言われることはなくても、嫌われているのは間違いないだろう。
(でも……きっと、わかりあえる)
立場と目指すものの違いのせいで、ライト博士とワイリーは仲違いしていた。和解した今も、ロボットの共同開発を行う二人はやはりよく喧嘩をする。だが、それは互いに真剣だからだ。二人とも、ロボットを心から愛している。そして、よりよいものを生み出そうとしている。
(二人とも、根っこのところではわかりあえてるはずなんだ……)
だって、喧嘩をしていない時の二人は、なんだかんだいって息が合っていて、楽しそうなのだ。あんなに生き生きとしているライト博士など見たことがない。
(二人が学生だった頃は、きっとあんな感じだったんだろうな……)
DWNと自分も、そんな風になれる日がきっと来る――そう信じなくてどうするのだ。
自分が守りたいのは『平和』だ。平和を乱すものを全て滅ぼすなんて、間違っている。
(だって、戦いが終わってもDWNたちは平和じゃなかった……僕は、彼らの平和を守ることは、出来なかったんだよね)
何もかも全部など不可能だ。それが絶対の判断だ。それでも、そうしたいと願う気持ちまでは否定したくない。
(だって僕には、心があるんだもの……)
間違ってない。そう思って顔を上げた時、スピーカーがバブルマンの声で言った。
《再起動承認、準備開始……――やった!》
「……う」
ほぼ同時に、微動だにしなかったクイックマンが動いた。うめきながら身体を起こし、自分の身体に繋がったケーブルを外そうとする。
その彼にワイリーが駆け寄り、思い切り抱きしめた。
「クイック、よくやった!!」
「あ、博士……上手くいったんですか?」
「……お前がやったんだろうが。何言ってんだよ」
フラッシュマンも動き出し、ケーブルを抜きながらぶつぶつ言う。そうやって、にやけそうになる口元を必死に誤魔化している。
《もうすぐ起動するよ》
嬉しさを隠せないバブルの言葉に、他のナンバーズがわっと作業代の周りに駆け寄った。
「うまく行ったようだな……良かった」
「はい」
ほっとしたようなライト博士に、ロックも笑顔を向けた。DWNたちの身体の隙間から赤いロボットが動き出したのが見える。歓声が上がて抱きついてくる兄弟に戸惑っているらしい。
よかった。
「……ロック、私たちは下で待とう」
「でも……」
自分もメタルマンに声を掛ける事が出来ないだろうか。
そう思う自分は、やはり甘かったのかもしれない。
「……ロックマン?」
メタルマンが発した一言で空気が凍りついた。
兄弟たちが動いたせいで視界が空き、赤いロボットは障害物なく真っ直ぐにロックの姿を見つけていた。
穏やかだった表情が、見る間に険しく引き締められる。
「ロックマン――何故貴様がここにいる?」
「あ……」
憎悪に輝く赤い瞳に恐れを抱き、息を呑む。
一瞬の静寂を引き裂くように、メタルマンが飛び掛ってきた。
引きちぎられたケーブルが空中で尾を引く。
「――……ッ!」
引き伸ばされた時間の中でそれらを見つめながら、戦闘ロボットとしての本能がロックをロックマンへと変身させる。一瞬の変化が終了すると同時に首を掴まれ、背後の窓に叩きつけられた。
研究所の廊下側の窓が弾けるように砕け、きらめくガラスの破片を纏いながら赤と青のロボットが宙へ飛び出していく。
「止めるんだ、メタルマン!」
静止の声は届かない。メタルマンは装甲と同じ色の髪をなびかせ、視覚センサーに不吉な光を灯らせながら、掴んだロックの首を下へ――
「――……くっ」
地面に向かって投げつけた。
ロックは手足を伸ばし、ビルの壁に指を引っ掛けた。五指と足裏でコンクリートを削りながらスピードを殺し、見上げる。
膝。
壁を蹴って下向きに跳躍してきたメタルマンの膝を避け、続く回し蹴りを避けられず、ロックは反対側のビルの壁面に叩きつけられる。
「くそ……っ」
ずるりと落ちる身体を壁面のでっぱりを掴んで支え、センサーをフル稼働した。メタルマンは壁を足場に跳躍の姿勢に入っている――跳ぶ。
ロックも壁を蹴った。落下することで攻撃をかわし、再度反対側の壁を蹴る。
殺意の漲る赤い瞳を見つめながら、「どうして?」と問うた。
答えはさらにスピードを上げた赤い疾風だった。
「大丈夫か、ライト?」
呆然と窓の外を眺めていたライトは、ワイリーに声を掛けられて我に返った。
言われて自分の身体を調べる。ロックとメタルマンが飛び出したときガラスが割れたが、外側に向かっての破裂だったので怪我はない。
「ああ。大丈夫だ、ワイリー」
「そうか」
頷いたワイリーは室内に顔を戻し、システムと接続したままだった三男を呼んだ。
「バブル! メタルは一体どうしたんじゃ!?」
《――暴走してます! ロックマンの破壊を最優先事項に設定。こっちの停止命令は全部下位のランクをつけられて、無視されてます!》
「博士……」
エアーがこちらを見た。彼が何か言いかけたとき、いち早く意識を切り替えたらしい四男が兄を遮った。
「メタルを止めますか? それとも、加勢しますか?」
「なっ……」
背後でライトが絶句している。ワイリーも言葉を失った。
視線を移せば、クイックの言葉で他の息子たちも戦闘モードに意識が切り替わったらしい。鋭くも真摯な表情でこちらを見つめている。
何も言わなくてもわかる。本心としては全員メタルに加勢したい。卑怯であろうとも、今が自分たちの手でロックマンを倒す最後のチャンスかもしれない。それを止められるのは、ワイリーの意志だけだ。
息子たちの問いに即答できず、ワイリーは判断材料を欲した。
「……バブル。メタルのステータスを」
《すごい……なんだこれ。機能拡張デバイスなしでこんなに出力が出せるなんて――》
「バブル」
《あ、はい。全ての機能を暴走させて、戦闘時出力以上の性能を引き出してます。でも、このままじゃあと数分で動力炉がオーバーヒートしてしまう……回線も焼けてるみたいで、使えなくなった回路はさっさと捨てて、無理に身体を動かしています》
「そうか……」
つまり、このまま放って置けばメタルは死ぬということだ。
逆に言えば、メタルは己の命と引き換えに戦うことを選んだ。
クイックがどう説得してメタルを連れ戻したのかは知らない。だが、再び生きようとした決意よりも、メタルはロックマンを倒すことを優先させた。
ワイリーは言った。
「すまんな、皆」
「いえ」
クイックが笑った。
「それでいいです」
「恨まれるなら、俺たち全員で恨まれましょう。俺たちは、家族ですから」
エアーの言葉に、全員が頷いた。
話を理解できなかったライトが、不安げにワイリーを見る。
「君たちは何を……」
「何を、じゃと? 決まっていよう、ライト。わしらの答えなど、一つしかないわい」
一つの答えに向かって、DWNたちが慌しく動き出す。
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