続きです。どうしても入れたかったロボ戦闘……まだまだ力不足を感じまくりです。昔から戦闘描写苦手だったけど、戦闘ロボットがメインなんだから書きたくなるし。修行あるのみですね。
っていうか本を読んでも語彙力が増えてないのが泣けてくる。
【追記】
いつもの注意文忘れてました。
メトレスしてます。ご注意ください。
【再構築_09_2 riot act】
システムはエネルギー不足を訴えていたが、自分でも驚きの高出力でメタルは起動していた。燃え上がる怒りと意志とを動力炉に注ぎ込むと、どんどん力が湧いてくる。全ての機能を意図的に暴走させ、命を削り狂わせていく。
これが人間の言う、心が身体を動かすということかもしれない。
何もかも捨てて、仇敵に一矢報いるだけの力が欲しいのだ。逃げ回るばかりで一向にこちらと向き合おうとしない相手を殴りつけて、耳を貸させたい。
ロックマンの姿を捉えた瞬間感情が沸騰したが、今は冷静だ。理性を持って暴走を促し、戦う意味を組み上げていく。自分は動き出してしまった。それがワイリーに不利な材料となることもわかっている。ならば、せめて残すべき意志を残し、散るまでだ。
伝われ――父であり友である人と、愛する弟たちと、敵であるべき相手へ。
再起動直後に動き出したためか機体の設定は半ばメンテナンス状態のままで、メンテナンスサーバーにはリアルタイムで状況を監視されている。再三停止命令が送られているが、メタルは全て無視した。
目の前に『敵』がいる。叩きつけるべき意志がある。
ゆえに、戦闘続行だ。
《メタルマン!》
電波の圧縮通信で『敵』が叫ぶ。音声では戦いの速度についていけない。すでに二人は人間にはほぼ視認できないスピードで動いている。
《どうして戦わなくちゃいけないんだっ!?》
この『敵』は何度同じことを繰り返し問うのだろう。
もはやエネルギー残量に構うことなく、メタルは叫ぶ。
波に乗せ、叫ぶべき思いがあるからだ。
《どうして? どうしてだと――?》
――あらゆる意味で貴様が許せないからに決まっているだろうがっ!!
だが、答えを得るための対話ならば返す言葉はこれだ。
《貴様が我らの再会の場に居合わすなど――》
跳躍し、
《何処まで俺たちを軽んじる気だ!》
『敵』めがけて落ちる。避けられる。砕けたコンクリートの破片を散らすように『敵』を追う。
《違う! そんなつもりじゃ――》
《ならば戦え! 軽んじる気がないというなら、俺の敵意に応えてみせろ!》
《ダメだ! それ以上戦ったら君が死んでしまう!》
ロックマンはビルの屋上を飛び移って距離を取ろうとしている。いい判断だ。今の自分にはメタルブレードがマウントされておらず、接近戦しかない。
だから叫び、意志を叩きつけ、揺さぶりをかける。
《このまま貴様が逃げ続けても同じだロックマン! お前は俺の攻撃を避け続けるだけでいい。簡単に俺を見殺しに出来るぞ! そしてこう弁解するがいい! 『自分は何もしていない、向こうが勝手に自滅しただけだ』とな! 誰もがお前は正しかったと認めてくれるだろう!!》
ロックマンの顔に動揺が走る。卑怯だとは思わない。自分は相対を望む『悪』だ。悪と向き合おうとしない『正義』など、正義とは認めない。
《お前はこの世界そのものだ! 博士を独りにしてきた『人間の世界』の代弁者だ! 抗いの叫びを聞き流し、叩き伏せるだけの始末屋だ!》
叫びながらも追いつけない。身体が思うように動かない。それでも、疾走をやめれば、動きを止めてしまえば、そこで終わりだとわかっている。もう立ち上がれなくなる。それではだめだ。まだ伝えるべき事がある。だから――さらにスピードを上げる。
残る安全装置を次々に解除。不気味な振動を始める動力炉の熱を小気味良く思いながら、まだ迷いのあるらしい『敵』へと叫ぶ。
《お前はすでに二度、世界を救った。お前はもう逃げられん。危機が起これば何度でも、世界はお前を頼るだろう》
――届け、と思う。
《最高に優秀な――殺戮兵器としてな!!》
《僕は――》
届いた。
跳躍を終えた姿勢のまま、ロックマンが振り向き叫ぶ。
《僕は、そんなんじゃない……兵器なんかになりたくない! 僕はDWNとも……君とだって、話をしてみたいんだ! いつかわかりあえるって信じてる!!》
《ならば……》
メタルは先のビルで拾っていたあるものを握り締め、ロックマンに向かって腕をしなわせる。
《俺と戦え、ロックマン!》
「――ッ!?」
ロックマンは唐突に足首を引かれ、空中でがくんと姿勢を崩した。鞭のように巻きついたのは、放水用の頑丈なゴムホースだ。メタルも足場を蹴り、同時に敵を捕らえたホースを手繰り寄せる。ロボット二体分の重量に耐え切れずホースは千切れ、しかし二体はすでに衝突コースだった。
《兵器でないというならば、意志には意志で応えてみせろ!》
処理能力が上がり、ゆっくりと流れる視界の中――ロックマンがこちらに向かってバスターを構えた。互いの距離はすでに三メートルもない。覚悟を決めたのだろうか、それとも戦闘ロボットとしての条件反射か。
連射が来る。
盾となって全弾を受け止めた左腕が、装甲の隙間から煙を吹く。今ので左腕の回路全てが死んだ。メタルは薄く笑い、重荷と化した左腕を振りかぶり、着弾の衝撃で姿勢を崩されたまま――
振った。
間接の連結を外されていた腕が、猛スピードの金属の塊となって虚を突かれたロックマンにぶつかる。腕で弾いたのが相手の腕であることを悟って驚愕した表情に右手で掴みかかる。手が泳ぐ――小さな肩を掴む。
《教えてやろう――》
二体のロボットはもつれ、落ちていく。
青い目を、赤い目が覗き込む。
《お前に教えてやろう。『殺す』ということを……『失わせる』実感を。そして、問いかけよう。何故なら、お前は語り合いたいといったのだから――》
赤い目を、青い目が見返す。
《問おう。自分の手を汚してでも、この世界を守りたいかと。暴力で担う正義と平和を、お前は享受できるかと》
わずかな距離の先で、少年の顔が引き締められた。
相手が問いを受け止める決意をしたと見て、メタルは小さく笑った。
認めていない者との戦いは作業でしかない。
思いがすれ違う戦いは苦痛でしかない。
主が諦めぬのならば、自分にはこの先たくさんの弟が生まれるだろう。
せめて彼らには、そんな戦いを与えたくない。
世界中のすべてが否定しようとも、自分たちは兵器などではないのだから。
――ロックマン……お前は、俺たちの『敵』になってくれるか?
そうでなければ、彼にとって自分たちはモノでしかない。モノとして扱われるのは苦痛だ。以前戦った時、メタルがロックマンを排除すべき障害として扱ったのと同じように、互いにとって不満な相対となってしまう。あれは良くなかった。自分もまた問いかけ、答えるべきだったのだ。
これは、あの時のやり直しだ。
何しろ、自分たちを理解し、認めた上で否定してくれるはずだったもう一人のロボットは、いまだ表舞台に現れていないのだから。
――あのぐうたら兄貴のように俺をがっかりさせてくれるな。
願いと共に、問いを放つ。
《……――お前の『正義』とは何だ、ロックマン!?》
ビルとビルの狭間――DWNたちが駆けつけたとき、二体のロボットはまだ揉み合っていた。ロボットとしては無様な戦いだ。互いに受身を取らず地面に叩きつけられたせいで、地面と共に装甲に凹みや歪みが出来ている。
メタルの動きにはずいぶんとキレがなくなっていた。クイックは主観的には歩くよりも緩やかな――端から見れば残像すら残らない速度で近づき、ちょうどマウントポジションを取ったメタルの首筋のジャックに、狙いたがわず己のケーブルを差し込んだ。
《ナイス、クイック》
バブルの声が脳裏で響いた。クイックのシステムを中継地点として、緊急停止コードを直接メタルに流し込む。
メタルの動きががくりと止まった。クイックがバランスを崩して倒れ掛かる兄を抱き止めると、さっと横から伸びたクラッシュの腕が二人を支え、ゆっくりと地面に下ろす。
エアーがメタルの下から素早くロックマンを引きずり出した。
《止めるな貴様ら!》
全身から煙を上げながら、口を動かせないメタルが電波で叫ぶ。
《――まだロックマンの答えを聞いていない!》
「落ち着け、メタル」
エアーがロックマンを立たせた。
「行け、ロックマン。お前がいるとメタルは暴走を止めないだろう」
「でも――」
通りに向かって背を押され、しかし振り返る相手に向かってエアーは言った。
「お前が、今すぐ答えを出せるのか? そして、そんな付け焼刃の答えを考える時間で、俺たちの兄を死なせる気か?」
「…………」
少年の姿をしたロボットはすまなそうに、しかしハッキリと首を横に振った。
「ライト博士が車を回している。ここらの住人は物見高い方ではないが、早く行ったほうがいい」
《兵器になりたくないというのなら、考えるのを止めるなロックマン。そして見せてみろ、お前の『正義』を! それが下らないものならば、俺が切り刻みに行くぞ!!》
メタルの言葉に頷き返し、ロックマンは小走りに通りへ向かう。路地の入り口に車が止まり、青いロボットの姿はその中に消えた。
車が走り去るのを感知すると、メタルは意図的に暴走させていたプロセスを正常に戻していった。クイック経由でアクセスしているバブルも、それを手伝っていく。
沈黙してしまった兄を心配し、クイックが言った。
「バブル……メタルは大丈夫なのか?」
《心配ないよ、クイック。僕らはメタルをコアから復活させたんだからね。この程度の損傷なら、問題ないさ――はい、これでソフト的な応急処置は終わりね。人工声帯は排気熱でやられちゃってるから、声は出せないけど》
《通信回線は使用可能だ……問題ない》
返事にはすでに、ロックマンへ向けていたような熱がない。弟たちはそのギャップに戸惑った。
さきほどの叫び――あれが、理性という冷たさで覆っていたメタルの核なのだろうか。
「あんなお前をみたのは、久しぶりじゃな……メタル」
残りのDWNに付き添われ、ワイリーがやってきた。クイックとクラッシュに抱きかかえられたメタルは、軋む首を動かして生みの親と視線を合わせた。彼が耳に嵌めたイヤーレシーバーに向かって電波を飛ばす。
《アルバート、申し訳ありません……勝てなかった……》
それはつまり、
《――負けて……あなたを貶めてしまいました》
メタルにはそれが一番耐え難いことだ。謝ることすら怖かった。死へ逃げようとするほどに。逃げた自分すら罪だと思った。
命を注ぎ込んだ戦いは逃げではなかったと思うが、死を得られぬまま『敵』への問いかけは終わった。
それが許されるのならば――今は、懺悔の時だ。
「メタルぅ……?」
ヒートが首を傾げる。他の弟たちは言葉もない。
満身創痍の赤いロボットは、涙を流していた。
涙腺の制御が利かないかのように、洗浄液が溢れ、頬を伝い落ちていく。
誰より感情を押し込めてきた長男が、悔しそうに顔を歪め、泣いていた。
「…………のう、メタル」
ワイリーは彼に近づき、膝を折って、頭にぽんと手を載せた。
数回撫で、さらに大粒の涙が零れるのを見届けて、鋼鉄と無機物で出来た息子の頭を抱き寄せる。
「自分を恥じるのはいい。悔しがるのは当たり前じゃ。だからといって――……酷いじゃないか。わしらの前から去ってしまうなど」
兄弟が集まってくるのを視界の端に収めながら、暗赤色の髪を撫で続ける。
「無茶をしたな」
メタルに無茶をさせたのは自分だと、ワイリーはわかっていた。
《申し訳、ありません……》
ワイリーがわかっている事をわかった上でそう言うメタルに、ワイリーは小さな笑いで返す。
「わしこそ、お前の思いをわかっていながらお前を止めた。あのまま戦っていればロックマンを倒せたかもしれん。お前の命と引き換えに――倒せずとも、お前の問いは完成されていたじゃろう。お前の命の重みと共にな」
ワイリーは笑う。声は出さず、口元だけに笑みを刻む。
「じゃが、わしはお前に生きていて欲しかった。それは、宿敵を倒すことよりも重要じゃった。だからお前を止めさせた。わしのわがままでな。許してくれるか?」
《そんな、許すなど……とんでもないことです》
メタルが答えると、家族から不服の声が上がった。
「ちょっと博士、そりゃズルイですよ?」
フラッシュが口を歪める。
《メタルを止めたのは、博士だけのわがままじゃないでしょ?》
「恨まれるなら俺たち全員で――そう約束したではありませんか」
バブルとエアーの言葉に、ウッドが頷く。
「うん。『博士の』じゃないよ」
彼は傍に立つヒートと、メタルの傍にいるクラッシュに微笑みかけた。
「『僕ら』の――わがままだよね?」
「うん」
「そうだよぉ。博士ズルイ」
クイックは苦笑し、兄の耳元にそっと問いかける。
「恨むか……?」
《いや…………――感謝しよう。俺の家族が、わがままだったことを》
ほっと皆の顔が綻んだ。メタルは少しだけ身体を離したワイリーに問いかける。
《アルバート……俺はまだ、あなたのお役に立てるでしょうか?》
「当たり前じゃ。どうやらわしはお前を助手にするという、この上なく贅沢な作業環境に慣れてしまったようでな。お前なしではどうにも勝手が違っていかん」
彼の顔には穏やかな笑みがあった。
「それにな……わしをアルバートと呼ぶのなら、全て思い出したのだろう?」
《はい……》
「ならば、再び……わしの友になってくれ。お前がいない間、とても寂しかった」
《申し訳ありません》
「謝罪はいらん。YESかNOか?」
《……YESと答えて良いのなら》
ワイリーはうんうんと頷き、視界が滲むのを感じながら満面の笑みを浮かべた。
「また修理し直しじゃ。この馬鹿息子め」
皆が笑い、涙を流していた。
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くどい。
最初のプロットが納得行かなくてどんどん増えました。この話を書いたことで、以前手風呂に載せたM+Bl漫画に(私の中で)不具合が生じてしまいましたが、これでよかったと思ってます。
もちろん、「ぐうたら兄貴」は青兄のことです。憤りの理由は上記の漫画の中でメタルが言ってますが。
いろいろ書きたいことはあれど、10話目を上げたあとに総合あとがきみたいな感じでがっつり書けたらいいなと思います。
最終回はプロット全破棄だよ!いつものことだけど!!
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