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愚者の跳躍

ロックマンの絵とか文とかのログ倉庫。2ボス、ワイリー陣営で腐ってます。マイナーCP上等。NLもあります。サイトは戦国BASARAメインです。

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001:夜警_01 (Q+M)

2008/11/03(Mon)17:10

いろいろ妄想した挙句我慢できなくなって描いたロックマ小説。
うじうじと悩むQはQじゃない?……ような。


【夜警_01】


 明るい夜だった。巨大な満月が基地と周囲に広がる荒野を煌々と照らして、視界が暗視モードに切り替わることも無い。
 その屋上の一角で月光を背負った赤い男性型ロボットが身を伏せていた。ギリギリまで重量と装甲を絞った速さ至上のボディ、V字をした金色のセンサーがヘルメットの額から伸びている。巨大なブーメランを背に石の様に動かず、荒野の先を睨み付けている。人目を引くほど整った顔にははっきりとした苛立ちが浮かんでいた。
 赤いロボット――DWN.012クイックマンは本来、こうしてじっとしているのが苦手な性質だ。製作者や兄弟、果ては部下からさえも「落ち着きが無い」と称される彼がなぜ三十分以上も石になっているのかといえば、地平の彼方で動く小さな点のせいだ。
 間の悪いことに、今夜の哨戒担当はクイックだった。早寝早起きが癖になっている彼は、いつものように一通り基地内を見回った後は偵察ロボットたちに任せて寝てしまうつもりだったのだ。だが、屋上に出た彼は、彼方で動く影を見つけてしまった。
 超高速機動時でも視界を確保するためにクイックの視覚センサーは、視界の広さも動体視力も他の兄弟に比べて遥かに高スペックだ。その彼の目にもギリギリの範囲に、四体のロボットがいた。連中のセンサーがこちらを気にしているのを感じる――だが、クイックが気づいた事には気づいていないらしい。どこの誰かは知らないが、世界征服を公言して日夜活動にいそしむ自分たちを監視しているのだろう。そういう連中は珍しくない。珍しくは無いのだが――
(いつからだ? この前の俺の当番のときにはいなかった……他の奴らが見逃したのか? いや、そんなことはどうでもいい)
 自分の足ならば数秒もかからず連中のところへ辿り付ける。排除に向かうべきか――だが、これが誘いでないとどうして言える? ロボットたちは囮でしかなく、クイックの目からも逃れるような場所に敵が伏せているかも――いや、何体いようと自分の敵ではない。ワイリー博士が作った戦闘用ロボットの傑作、それが自分だ。
(畜生……こっちの警戒網ギリギリのところをチョロチョロしやがって)
 もう少し近づいてくれば侵入者撃退用のロボットたちが反応するし、警戒警報が兄弟たちを叩き起こすだろう。あのロボットたちはその境界線を知っているのだ。
(やっぱり排除すべきか……?)
 だが自分ひとりで飛び出していくのはいかにもまずい。クイックは任務中にも独断専行が目立つが、それは任務をさっさと終わらせるためであり、「クイックが飛び出した」ことを皆が知っていることが前提であり、兄弟のフォローがあることを知っているからだ。
 何の命令も無い状況で自分ひとりで何もかもを決断し、処理することには彼は慣れていない。警戒網に引っかかっていない以上、彼らは明確な排除対象ではないのだ。
(ああクソッ……こういうのはメタルとかエアーとかフラッシュの領分だろ。だから俺は夜警当番なんて面倒くさいものは嫌だったんだ。これも経験だなんて適当なこと言いやがってあいつら)
 思考回路が光の速度で吐き出す苛立ちは、兄弟全員を統括する長兄や、部隊指揮を得意とする次兄、二つ下の弟にも向けられる。
 自分は戦士だ、とクイックは思う。正々堂々と戦うことを好み、得意としている。戦闘に関する状況判断は兄弟随一だが、こういった局面には弱い。どうしたらいいのかわからない。
 戦闘用ロボットの闘争本能とせっかちな「クイック」は飛び出して敵を破壊しろと囁く。
 だが、0と1で構成された理性は理詰めで不安を告げてくる。
 ――もし罠だったら? 連中は囮で、自分がのこのこ現れるのを待っているとしたら?
 ――別行動を取っている部隊がいるかもしれない。こちらが気づいていることなど、当の昔にお見通しなのかも。
 そもそも普段のクイックならば、こんな回りくどいことなど考えもせずに突っ込んでいるはずだった。苦手な状況に追い込まれて、慎重になりすぎているのかもしれない。すべては杞憂に過ぎず、天才科学者たるワイリー博士が傑作と呼ぶ自分に突破不可能な状況など無いはずだ。
 それでもクイックは迷った。迷いながら、苛立ちにコアをじりじり焦がしながら監視を続けていた。





>>【夜警_02】へ

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