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愚者の跳躍

ロックマンの絵とか文とかのログ倉庫。2ボス、ワイリー陣営で腐ってます。マイナーCP上等。NLもあります。サイトは戦国BASARAメインです。

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2024/11/22(Fri)12:33

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004:速度狂の停滞_03 (M+Q+α)

2008/11/24(Mon)17:24

書きあがりましたので残りをアップ。結局エピローグ的な5話目ができました。
それにしても三連休って短いです。もっと時間が欲しい!!



メトレスしてるのでご注意ください。




【速度狂の停滞_03】



『シミュレーションもいいけど、ちょっと身体を動かしてきたら?』
 メタルが出て行った後、バブルがそう言った。メタルの激怒に対するショックが抜け切れていなかったクイックはその言葉に甘えて今日の訓練を切り上げる。動揺が激しく、もう一度シミュレーションエンジンに接続しても満足に動けないと判断したのだ。
 エアーを探し出して模擬戦の相手をしてもらおうかと思ったが途中で気を変え、基地の外に出た。荒野の果てにはばかばかしいほど巨大な太陽が燃えながら沈んでいくところだった。強烈な輝きに視覚センサーの輝度が落ちるのを、少し残念に思う。
 特に理由もなく、クイックは夕日の方向へ向かう。辺りが暗くなるまで走ったら帰ろうと決めて、プロテクトを一つだけ外した。それでも突風のようなスピードは楽に出せる。
 障害物のない荒野を走っていると、いくつもの思考が湧き上がり、背後に流れていく。
 先ほどのシミュレーション上で二つ目のプロテクトを外した時のことを思い出す。二段階目の最大速度で動いていたのはほんの一呼吸にも満たない時間だ。その一瞬の間に回路は焼き尽くされ、クイックは行動不能になった――それとも、動けなくなったのは、止まったからだろうか。一段階目でも無理をすれば回路がいくつか飛ぶことはあったが、あそこまで深いダメージを受けたことはないし、あの時も走り続けている間はショートの感触はあっても動作に影響はなかった。
 思うに、致命傷を受けたのは無限に引き伸ばされた一秒が周囲の流れに同化するときなのだと思う。速度との摩擦に焼かれ続けていた回路はその瞬間、いっせいに砕けた。
 第二段階であれなのだから、三つ目のプロテクトを外したら自分は死ぬかもしれない。
「まあ、そこまでの速度が必要な敵が現れるとは思えないけどな……」
 光の速度へと限りなく近づくために自分は生まれた。その代償が自壊では洒落にもならない。
 戦いの中で死ぬことが自分の宿命だとは思っているが、そんな死に方はしたくないし、そもそも死にたいと思ったことさえないのだ。
 遥か視線の先で、夕日が血のような最後の輝きを滴らせて地平線に消えた。
 もともと追いつこうと思って走っていたわけではないが、なぜか置き去りにされたような気になる。暗い血色の輝きに、自分に背を向けて去っていく姿がちらついた。
「帰るか……」
 ゆっくりと速度を落とし、藍色の闇に包まれた見慣れない荒野を見回した。基地の近くにはあまり見られない潅木があちこちに生えている。日が落ちるまでのわずかな間でも、出していた速度が違う。クイックとて、普段ここまで基地から離れることはない。
 急に心細さを感じる。それと同時に、メタルの目と声を思い出す。
 目覚めてから半月――クイックは何度となくメタルの説教を受けていたが、それで少しも傷つかないわけではない。スタンドプレーをするなと言われるが、クイックはそれが最善だと思っているだけだ。自分の思うようにやって叱られ、傷ついてしまったことが認められなくてさらに反発する――悪循環なのはわかっていた。
 シミュレーションエンジンの各ミッションシナリオは大抵メタルが用意している。各国の軍のデータベースにハッキングして実戦の記録をコピーし、それに手を加えているらしいのだが、ここ最近は特にチームプレイを重視した作戦が多かった。今日のものなどその最たるものだ。
 クイックは毎度毎度メタルの思惑を無視した単独行動で怒らせてきたが、その度に相手がこう言っているような気がしてしまうのだ。
 ――お前は仲間として信頼し、命を預けるに値しない。
 メタルが直接そう言った訳ではないが、手を焼かされる弟に苛立っているのは間違いないだろう。先ほどのがメタルの『マジギレ』という奴なのだろうが、積もりに積もった怒りがとうとう臨界点に達したのだ。
 彼は自分を見離すだろうか。何度命令違反しても淡々と理を説き、弟を諭してきたメタルを心底怒らせたのだ。使い物にならないと判断されても仕方がない。
(別にいいじゃないか……俺だってあいつが嫌いなんだから)
 足を止めていたクイックは心を奮い立たせ、もと来た道をまっすぐ戻り始めた。
 今軋みを上げているのはどこの回路だろう。
 メンテナンスを受けた方がいいのかもしれない。


 まだ演習室にいたバブルに簡易なシステムチェックをしてもらったが、エラーも損傷箇所も見つからなかった。
 いつもよりさらに早く寝ることにして自室に戻ったクイックだが、スリープモードに入ろうとしても電脳が処理をやめようとしない。視覚センサーの電力が落ちた暗闇の中でぐるぐる回るのは『家族』の顔と今日の訓練の内容と、自分を置いて消えてしまった血色の夕焼けだった。
 爽快な目覚めとは無縁の嫌な感覚とともにクイックは目を開け、身体を起こした。体内時計で確認すると、それでも三時間は寝ていたらしい。中途半端に充電された体の調子は悪くないが、気分は最悪だ。
 最低限の身だしなみは気にしろと言いたげに壁に貼られた四角い鏡には、若々しく整った顔立ちに不機嫌そうな表情を浮かべた自分の顔が映っている。
 もう一度あのぐちゃぐちゃした闇の中に戻る気にはなれず、クイックは立ち上がって部屋の端末にアクセスする。さっきは一人になりたかったが、今は無性に誰かと話がしたい。
 ワイリー博士は研究室。メタルは通路を移動中。エアーはリビングで、バブルはまだ演習室にいた。博士は弟の開発で忙しいし、自分のことを戦闘用ロボットの傑作と呼んでくれた父には弱いところは見せたくなかった。エアーはあまり相談ごとには向かないタイプだし、メタルは顔も見たくない。
 クイックは端末から離れると、演習室に向かった。
 最低限の明かりのみがつけられた通路を走りぬけ、一分もかからずに目的地の前に来る。
≪俺だ。入るぞ≫
 入り口のインターホンで声をかけると、返答も無く勝手に扉が開いた。
 バブルは数時間前に別れたときのまま端末の前に座っていたが、ケーブルによる接続はしていない。
「クイック、まだ起きてるなんて珍しいね」
「ああ……バブルこそ、まだ仕事か?」
「さっき終わったところ。メタルが誰かさんの訓練データ全部くれなんていうからさ。いい機会だし、全員分のデータを解析してたんだ」
 嫌いな奴の名前を聞いて、クイックは舌打ちする。
「あいつはどうしたんだよ」
「さっき博士に今日の報告持って行ったよ。ここのところ博士は五人目にかかりっきりだから、報告書はデータで送っちゃえばって言ったんだけど」
 なんか話したいことがあったみたいだよ、と締めくくってバブルは潜水服に似たヘルメットに手をかける。
 ぷしゅっと音がして空気が抜け、柔らかいグレーの髪がこぼれた。
 メットをかぶっている間はマヌケな感じがするが、バブルの素顔は天使の様な美少年だ。その美少年は傍らにヘルメットを置き、実におっさんくさい仕草で肩を回す。
「クイックは何? 眠れなかったの?」
「……まあな」
 今日の一部始終を知るバブルは目を細め、空いている椅子をクイックの方へ押しやった。クイックは軽く頭を下げると、自分もヘルメットを外した。拡張センサーや増設デバイスが詰まったそれを外すと途端に世界が曇って狭くなるが、処理すべき情報量が減るのでシステムへの負担は減る。どちらがよりすっきりするかと言われると返答に困った。
 栗色の髪を手櫛で流しながらヘルメットの置き場所を探して視線をさまよわせているうちに、バブルのヘルメットの奥に見慣れた形状の赤いヘルメットがあることに気づいて顔をしかめた。
 額に円鋸型のブレード、両耳に強化聴覚センサーのついた特徴的な形はメタルのものだ。
「あいつメット外してんのか、珍しい」
「なんか処理が重くなっちゃったからって置いてったんだよ。ずっとラボでなんか弄ってたみたいだし」
「ふん」
 鼻を鳴らしたクイックは前後逆向きに椅子に座り、背もたれの上で腕を組んだ。
 メタルはなぜかロボット工学に異様に詳しい。ワイリーの助手として、クイックを含めた三人の弟たち全ての開発に関わったという。
 彼に自分の回路の隅々まで知られているのかと思うとますます腹が立つ。
「直接博士に御注進って……どーせ俺の文句だろ」
 自分の声が拗ねた響きを持っていたことに気づいてますます苛立つ。弟の様子に、バブルは小さく微笑んだ。
「ほんとにそう思ってる?」
「わかんないぜ? あいつが博士と一番親しいじゃん……博士だって、あいつの事を一番信頼してるだろうし、俺たちのことを悪く言うのも簡単だろ? あいつは……」
 メタルの声で再生される心の囁き――お前は仲間として信頼し、命を預けるに値しない。
 なんの異常もないはずの回路が軋んだ。
「あいつは俺のこと、信用できないと思ってるさ」
「どうかな……確めてみる?」
 バブルが悪戯っぽい笑みを浮かべて端末を操作した。メタルは今、ワイリー博士と共に研究室にいる。
「確めるって……どうやってだよ」
「研究室にも端末があるから、そこのカメラとマイクを乗っ取るんだよ。いつもなら作動音で気づかれちゃうけど、メタルは今メット外してるし――」
 言葉が終わらないうちにモニターが切り替わった。端末の椅子には誰も座っていないが、背後で白衣を着た老人と赤い装甲のロボットが話している。
 向こうのマイクが音を拾った。
≪……は、……――です。明日は……≫
≪――――じゃな、……は……≫
「良く聞こえねーし、見えねーよ」
「マイクから離れてるからかな。カメラ動かすと流石に気づかれちゃうだろうから角度は変えられないけど……ズームして、ノイズ除去すれば――っと」
 画面の中で二人の姿が大きくなった。ワイリー博士の傍らの作業台には骨組みだけのロボットが横たわっている。今度のDWNはやや小柄だ。バブルのような少年型にするつもりなのかもしれない。
(弟か……)
 一体どんな態度を取ればいいのだろう。クイックの知る『兄的な態度』というのが気に障るものばかりなので、正直同じような態度を弟に対して取りたくない。三人の兄たちも、それぞれ初めての弟ができた時同じ思いをしたのだろうか。
 視線を横移動させると、赤い装甲に包まれた姿が目に入った。





>>【速度狂の停滞_04】



+++


この話、最初はBが出てこないはずだったんですが、端末を乗っ取るネタがやりたくて出しました。エアーごめんね;
元ネタは「EGコンバット」なんですが、誰かご存知の方いらっしゃらないですかね;
夕日に走るクイックは……青春ですね(笑)でもクイックくらい早く走れるなら、永遠に沈み続ける夕日を見ることもできるんじゃないかなあと思います。

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