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愚者の跳躍

ロックマンの絵とか文とかのログ倉庫。2ボス、ワイリー陣営で腐ってます。マイナーCP上等。NLもあります。サイトは戦国BASARAメインです。

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004:速度狂の停滞_04 (M+Q+α)

2008/11/24(Mon)17:29

続きです。
メタルと博士の会話だけで終わらせるつもりが、バブルが自分にも一言いわせろと言ってきたので長くなりました(笑)

メトレスしてるのでご注意ください。


【速度狂の停滞_04】


 クイックはヘルメットとマスクを外した長兄を初めて見た。
 装甲の色よりもさらに暗い赤毛は乾きかけた血のような不吉な色で、硬く鋭い印象を持つ顔に良くあっていた。
 表情は相変わらず平坦で、マスクをしていようがいまいが変わらないらしい。
≪クイックはいずれのシミュレーションにおいても安定して高い戦闘能力を示しています。高所戦闘や水中戦のような局地戦闘では流石にエアーやバブルにはかないませんが、どのタイプの戦場でも総じて能力を発揮できるでしょう≫
 報告書はデータで送っていたとバブルは言っていたが、どうやらワイリーは開発に夢中で読んでいなかったらしい。メタルは自分の話題とは別に、ここしばらくの訓練結果をまとめて報告しているようだった。
 案外まともな評価をされていることにクイックは驚いたが、満足そうに眼を細めて頷く父の笑顔に頬が緩んだ。彼の期待に応えられるのが嬉しい。
 だが、次のメタルの言葉にワイリーの顔が曇る。
≪ですが、戦闘後のダメージレポートが気になります。敵の攻撃で被弾してもさしたる被害は受けていないのですが、ミッション終了時、クイックはかなりのダメージを受けています≫
≪つまり……自身の性能で自らを傷つけておるんじゃな?≫
≪はい≫
 そうなのか――と思う。シミュレーションは高度なイメージトレーニングのようなもので、戦術の確認や戦闘時判断能力の訓練はできるが実際に損傷を受けるわけではない。ミッション終了と同時にそれらのデータはレポートにまとめられるが、クイックはそういうものに興味はなかった。
 今日のことは別だが、今までも似たような状態になっていたのかもしれない。
≪クイックの光学神経プロテクトは現在三段階ですが、これを五……いえ、七段階に増やせませんか? 今日の訓練でクイックは初めて二段階までプロテクトを外しましたが、一秒ほど行動した後、ほとんど全ての回路がオーバーヒートして行動不能になりました。計算上では一分間行動したとき、コアにまでダメージが及ぶ確率は72.31%です。三段階までプロテクトを外せば、一度の戦闘で自壊してしまうでしょうし、そこまでのスピードはもはや、戦闘目的にも適しません≫
 クイックもバブルも何も言わずにモニターを見つめている。
≪このままでは、寿命が短くなってしまう……博士が光速に近づくというコンセプトを持ってクイックを開発したことは存じ上げていますが、プロテクトの段階を増やしてもその目的とは対立しません。主観時間調律の段階を細かく設定するだけです≫
 ワイリーは軽く手を上げてメタルの言葉をさえぎると、にやりと笑った。
≪できないかと聞きながらも、もう大体の所は組んであるんじゃろうが≫
≪はい――段階を増やすための基礎コードはすでに組んであります。あとは博士がチェックをして変更すべき点をご指摘下されば……≫
≪このディスクがそうじゃな? わかった。明日にでもチェックしよう≫
≪ありがとうございます≫
 真摯に頭を下げる最初の息子に、ワイリーは意地悪な質問を投げた。
≪クイックとは仲が悪いと聞いたんじゃがの?≫
≪…………≫
 メタルは虚を突かれたように沈黙し、わずかに視線を落とした。
≪そう……なのでしょうね。クイックは強すぎます。一人で戦えると思っている。兄弟として造られたことの意味を考えてくれてと何度も言っているのですが……≫
≪エアーもバブルも素直な方じゃからな……クイックに手を焼いてるのは知っとったが、あやつを嫌っとるわけじゃないんじゃな?≫
≪まさか。クイックも俺の大切な弟です? 確かに俺たちは博士が世界を変えるための力として生まれた純粋な戦闘用ロボットですが、俺はあなたの作り上げた新しい世界で生きたいし、弟たちにもそうして欲しい。戦いのうちに破壊されることは戦闘用ロボットの宿命ですが、それでも……できる限り長く『家族』と共に生きたい≫
 湖面のように静かだったメタルの表情に揺らぎが生まれる。
≪それに、俺はあいつを買ってるんです。クイックはいずれ、俺たちの切り札になる。それだけの力を持っていますから≫
 常に無表情で沈着冷静でゆるぎなく、『心』を持っているなどとはとても思えない――クイックは長兄のことをそう思っていた。
 だが、画面の中でメタルは微笑んでいた。その柔らかい表情も、わずかに声の調子を変えるだけで表現された深い情感も、現在稼動する四体のDWNの中で彼こそ最も複雑で微妙な感情表現を行うことができるのだと示していた。
 ワイリーがディスクを受け取る。プログラムについての専門的な内容に話題が移ったところで、バブルが接続を切った。モニターがシミュレーションエンジンの画面に切り替わる。
「どう? メタルがクイックのことをどう思ってるかわかった?」
「…………」
 クイックは小さく頷き、椅子の背もたれに乗せていた腕に顔を伏せた。さっきまで軋みを上げていた得体の知れない回路はいまや苦しいほどの熱を持って胸部を圧迫していたが、不思議と不快ではなかった。
 すぐ下の弟を優しく見つめながら、バブルはゆっくりと話し始めた。
「メタルは、説教してるときはあんまり怒ってないよ。本気で怒ると黙り込んじゃうから」
 バブルが長兄の激怒を見たのは今日を含めてわずか三回だ。態度が極めて事務的なのでわかりにくいが、バブルとエアーはメタルの行動が全て彼の『家族』のためのものであると知っていた。
「僕もあんまり見たことないからはっきりは言えないけど、メタルが僕たちに対して怒るのは、僕らが自分を粗末にしたときだよ。さっきのクイックの言葉はただのきっかけ」
「俺は別に――」
「あのね、クイック……一人ぼっちじゃ、『世界』には勝てないんだよ」
 メタルの言いたいことと、自分の言いたいことは同じだ。だから、同じことを違う方向から説明しようと思う。弟が少しでもわかってくれるように。
「どうして僕らに心があるか知ってる? 僕はこう思うんだ――ワイリー博士は確かに天才だけど、僕らがただの戦闘機械だったら、博士は結局一人ぼっちでしょ? だから、博士は僕らに『心』をくれたんだと思う。確かに心なんかなくても最適な判断は下せるし、余計な揺らぎなんかいらないのかもしれないけど……博士が以前ライトナンバーズを誘拐したときは、プログラムで誤魔化して無理やり暴走させてたんだって。彼らにも『心』はあったけど、ワイリー博士はライバルの作ったロボットたちのことなんか信用してなかったから一人ぼっちだったし、結局ロックマンに負けちゃった」
 でも――と言葉を切る。クイックは戸惑っているようだが、バブルは自分の中で生まれる熱が回路の異常でもなんでもないことを知っていた。これこそが、父たるワイリー博士が自分に与えてくれたものだ。
 バブルは『心』の熱を声に乗せた。
「でも、今度は違うじゃない。博士は僕らのことが大好きだし、僕らも博士が好きでしょ? メタルがさっき言ってたけど、僕も皆と一緒に博士の作った世界に住みたいよ――僕らは同じ方向へ向かって歩いてる。一人ぼっちじゃない。だからさ……えっと……」
 なんと言ったものか。言葉を選んで迷っていると、クイックが顔を上げた。
「……兄貴って、もっと無口な奴かと思ってた」
 自分らしくないことを言っている自覚はあった。羞恥心を刺激され、作り物の天使のような白い頬に朱が差す。
「じ、自分ひとりで思いついたことじゃないよ。いろいろ見たり調べたりして辿りついた結果」
 マイペースな兄を照れさせたことに気づいていないのか、クイックはだらっとした仕草で顔を伏せた。
「なぁ、バブル……ちょっと一人にしてくれよ」
 そろそろ自室に戻るつもりだったバブルに異論はなかったが、それでも呆れてため息をついた。
「しばらくしたらメタルがヘルメットを取りに戻って来るよ。泣いてるとこ見られたくないんでしょ?」
「……泣かねーし」
「はいはい。いいから『おやすみなさい』しなよ」
 憮然とした表情の弟にV字センサーのついたヘルメットを渡すと、案外素直に受け取った。


 その夜、クイックは確かに泣かなかったが、別の意味で眠れなかった。
 ――信用されていないと思っていた。
 見捨てて、置き去りにするつもりで走っていたのに、置いていかれることを恐れていたのは自分の方だった。
 彼らは、自分の『家族』は、自分がどれほどの速度で走ろうとも、常に自分の傍にいるのだ。
(カッコ悪いよなぁ……俺……)
 軋みは消え、熱だけがあった。
 それはクイックの『心』に初めて宿り、二度と消えない熱になった。





>>【速度狂の停滞_05】


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