これで最後です。エピローグなので短め。
【速度狂の停滞_05 】
数日後、クイックは少々大掛かりなメンテナンスをするからと整備室に呼ばれた。ワイリー博士にプログラムがどうの、回路を調整するためのマイクロマシンがどうのと説明されてもまったく意味不明だったが、父と兄の会話を覗き見していたクイックには、これがどんな意味を持つメンテナンスなのかは良くわかっていた。
メタルはあの日あの時演習室を出て行った後、一人ラボに篭ってクイックの戦闘シミュレーションの結果を解析し、プロテクトを増やすための基礎プログラムを組んだのだろう。
「……――というわけじゃ。わかったか、クイックマン?」
「まあ、大体は……」
まったく聞いていなかったクイックは慌てて付け加える。
「えっと、つまり――これからは必要以上に体に負担をかけなくて済むってことですか?」
「ま、大体当っとるわい。おいおい慣れていけばいいじゃろ」
「はい……ありがとうございます」
珍しく礼を言った四男にワイリーは眉を上げたが、クイックの何かを訴える視線に気づいて笑い、軽く肩を竦めた。
「礼はメタルに言え。基礎コードを組んだのはメタルじゃし、報告がなければわしも気づかなかったかもしれん。お前を実戦に出す前で良かったわい」
クイックは視線で父に感謝を伝えると、意を決してメタルを見た。
いつも通りヘルメットを被った姿の長兄は、ずっと無言でメンテナンスの準備をしていたが、末弟の視線に気づいてこちらを向いた。
ごめんというのは嫌だったが、せめて礼は言いたかった。ワイリーが意を汲んでくれたのがありがたかった。やっぱり彼は自分たちの父だと思う。
兄の赤い瞳を見つめ、クイックは勇気を振りしぼった。
「メタル、その……ありがとう」
「…………」
メタルは驚いたように軽く目を見張ると、ふわりと目元を緩ませた。
マスクで口元は見えないが、微笑んだのはわかった。
「気にするな……」
彼はそういうと二人に背を向けて準備を再開する。
視線を戻すと父がニコニコしながら頷いていた。彼も愛息子たちの確執には心を痛めていたのだろう。幸せそうなその顔にクイックは猛烈な恥ずかしさを感じ、台に横たわって目を閉じた。
どうせメンテは長時間になる。今からスリープモードに入ってもかまうまい。
走って逃げることはできないのだ。
回路の闇に浮かぶのは、並んで歩く自分と、まだ見ぬ弟たちを含めた彼の『家族』たちだった。
沈み行く陽に向かってゆっくりと、長い道のりを共に歩み続けていた。
急いで走らなくても、自分たちはいつかきっとあの輝きの元に辿り着ける。
そう信じて歩き続けていた。
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ここまで読んでくださった方、ありがとうございました!!
「夜警」のメタルとクイックが意外と仲が良くて自分でもびっくりしてたんですが、それまでにあった(Qの一方的な)確執とかを書けて良かったです。四男は突っ張ってるけど自覚の無いところで寂しがり屋な子になりました。
でも後半三男が喋りだしたのには本気でびっくりしました。だってそんなセリフ、プロット時にはなかったから;
うちの長男も「飽き性は病気レベル」なんですが、あくまで趣味に対してです。趣味は仕事と言い切ってもおかしくないくらい自分の楽しみには興味がないので、何でもすぐに飽きちゃいます。でも家事とか整備とかプログラムとか、そういうことをしてる方が充実してると思うようですね。
まあ、こんな話を書いてもロックマンXを考えると暗い気分になるわけですが……2後の話もネタ帳にあるので、そのうち書こうと思います。
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