語るに落ちるとはこのことだ。
ロックマンの話ならすいすい書ける(笑)プロットはかなり出来ていたとはいえ……やっぱり語るに落ちるw
ついにMQ文です。告白します。
006は再構築シリーズなので、決戦前夜的なアレです。死にフラグってやつですね。ギャグなし。シリアスです。
【006-other:告白_01】
いつからだろう、と自問してみる。
答えを探してデータバンクを洗いざらい探った。
最初は――そう、あいつに認めて欲しかった。褒められたいとか、認めさせてやるとか、いつか勝つとか、言い方はいろいろあるが、要するにそういうことだ。だが、この傾向は全てのDWNが持っていると思う。自分より先にある存在たちに、自分を認めてもらう。心などという不安定なモノを持たされた自分たちには、人間と同じように他者に――特に上位者に――存在を認めてもらうことで自己を確立させる。それと同じだ。
だが、あいつは厳しかった。あまり褒めてくれなかった。弱いくせに、偉そうにしやがって。そう思って反発していた。実際、理性ではあいつが別に弱くもなければわざと偉そうにしているわけでもない事に気づいていた。
あいつに自分を認めさせる――それが目標になった。いろいろ無茶もして、その度に叱られて、呆れられて、それでも気づけば、戦闘においては兄弟の中で一番頼りにされていて――誇らしくなる自分に気づいて慌てて否定した。こんなの俺じゃない。別に褒められたかったわけじゃない。
馬鹿みたいだ。
その次は――あいつが他の奴に関わることがムカついた。年少のヒートやウッドはそれでなくても思考が幼くできている。褒めて伸ばそうと思っていたのか、あいつは下の二人を特によく褒めた。エアーやウッドは落ち着いているから頼りにされていた。兄弟としては真ん中の位置にあっても、ぼやっとしていて危なっかしいクラッシュには何かと目を掛けてやっていたし、情報戦ではフラッシュがエースだった。
それが気に食わなくて、注意を引こうとしてわざと怒られるようなことをした。
こうして記憶を反芻してみると、本当に馬鹿みたいだ。というか馬鹿だ。
素直に「かまってくれ」なんて言えなかった。今でもそれは言えない。いくらなんでも格好悪すぎる。この点については馬鹿でもいい。そんなことを口にするくらいなら死んだ方がましだ。
そう、そして――そのうちに、エラーもないのに苦しくなったり、処理が止まってしまったり、勝手に顔面温度が上昇したり、変なことばっかり起こった。
あいつが来るとそれが起こる。だから逃げた。でも、会えないと寂しくて、余計辛かった。声が聞きたかった。こっちを見て欲しかった。傍に居たかった。
そんな時、クラッシュに言われた。
――メタルが好きなの?
そのときは否定した。そんなわけがない。俺はあいつなんか嫌いだ。ずっと嫌いだった。そう喚いた。はっと気づけばメタルが傍に立っていて、じっとこっちを見ていた。
聞かれた、と思う。
メタルは相変わらず顔色一つ変えていなかった。いつもと同じように感情のない声で淡々と言った。
「ロックマンが来た」
弁解する勇気も出ないまま、戦いは始まった。
メタルマンは最近あまり休息を取っていない。
ロックマンが各基地にちょっかいをかけて来ているため、トラップの作動チェックや破壊された小型ロボットたちの修理で忙しい。エネルギー補給はE缶で済ませているが、スリープモードでデータを整理していないので処理が大分重くなっていた。人間であればこれを眠気というのだろう。
簡単な電脳しか積んでいないロボットならば、エネルギー補給がちゃんとしていれば眠らなくてもずっと活動できるのに、と少しだけ残念に思う。
余計なことを考えている。
やはり少し眠るべきだろうが、今日の不寝番はメタルの担当だ。ロックマンはウッドマンの基地を制圧した後、ヒートの基地を攻め始めたが、途中の消える足場に難儀しているらしい。気を変えて別の基地を訪れるかも知れず、監視を解くわけにも行かない。
モニター室の椅子に座って、混濁した意識がのろのろと思考する。
ウッドは博士の手で修理中だ。
ヒートは、ロックマンを倒せるだろうか。
腹の立つことに――元家庭用の癖に、ロックマンは強い。
負けたくないと思う。
戦うために生まれた自分たちが元家庭用ロボットに負けたら、存在理由が破壊されてしまう。ワイリー博士の名に傷がつく。彼は悔しがるだろう。息子たちを壊されて悲しむだろう。そんなのは許せない。末の弟を破壊したロックマンが許せない。博士の夢はもうアルバートだけの夢じゃない。自分たち全員の夢だ。その前に立ちはだかる奴は誰であろうと排除してやる家族を傷つけようとする奴はだれであろうと――
《おい》
インターホンで呼びかけられて、飛び上がるほど驚いた。
扉が開いて、明るい赤の装甲に身を包んだ弟が入って来る。V字センサーのついたヘルメットを脇に抱えている。
「クイック……?」
三人目の弟は、怒ったような顔をしていた。
メタルはずっと、この弟に嫌われているのではないかと思っていた。実際、恐れてすらいた。本人の口からはっきり聞かされたのは、ほんの数日前のことだ。表には出さないが、メタルは弟たち全員を深く深く愛している。嫌いと言われてショックでなかったと言えば完全に嘘だ。
別におかしなことではないだろう。自分は彼に厳しく接してきたし、他の兄弟と比べて滅多に褒めようとしなかった。ある種の特別扱いだったのだという言い訳は虚しかろう。実際は誰よりも期待し、目を掛けて来たなどと今更言っても信じてはもらえまい。
せめて、傷ついた様子などは見せまい。メタルは感情表現を抑制するのは得意だ。
先日のことなどこれっぽっちも気にしていない声で言った。
「何の用だ?」
つっけんどんに聞き返される。
「お前、どんだけ寝てないんだよ」
「…………」
とっさに数字が出てこない。数日だったか、そろそろ一週間になるか。まったくいわんこっちゃないという顔をして、クイックが言う。
「代わるから、寝ろよ」
「…………?」
何を言われたのか分からなかった。足音荒く近づいてきたクイックの顔が、処理落ちして解像度の下がりまくった視覚センサーに映る。
「監視代わるから寝ろって言ってんだよ。お前いま居眠りこいてただろうが」
「ああ……だが、――」
「当番だから部屋戻れないってんなら、ここにいりゃいいだろ。床の上でも何でもいいから寝ろよ。そんなぼけっとした頭で戦うつもりか?」
「ああ……」
のろのろと立ち上がる。一瞬とはいえスリープモードに入りかけたことで処理能力の低下に歯止めがかからなくなった。思うように動かない足を動かして部屋の隅に向かう。いつの間にかクイックに手を貸されている。すぐ間近にある、怒ったような顔。物言いたげな緑の瞳。
床に腰を下ろして壁に背中を預けた。肩のブレードが壁に当たるが、これは仕方がない。各種機能の拡張パーツであるヘルメットを外すと、少しだけ処理能力が回復してくる。ようやく回るようになった口で礼を言った。
「ありがとう、……クイック」
「別にお前の……――ああ、もう!」
お前のためじゃない、と言いかけたのだと思う。だがクイックは途中で言葉を切り、髪をぐしゃぐしゃとかき回した。
メタルは弟の様子を伺いながら、何とか起きていようと努力していた。
クイックは何か言いたいことがあるのだと思う。
それを聞かなければならないと思った。そのくらいの余力はある。
クイックが膝を突いてしゃがみこんだ。相変わらずぎゅっと眉を寄せて、唇を引き結んでいる。翡翠の瞳に浮かぶ真剣な色を、勇気をかき集めたような表情を、メタルは好ましく思う。
この弟がたまに見せる表情だ。プライドが高く意地っ張りな彼が、それらを押さえ込んでも本心を語ろうとする時に見せる目だ。
愛しいほど真っ直ぐな――澄んだ緑。
「……?」
ようやく気づいた。
顔が妙に近い。そう思う間も近づき続けている――
唇に柔らかい感触が触れた。
一度押し付け、離れる。
表情を変えぬまま、クイックは言った。
「勘違いするなよ? あれは……クラッシュに言ったことは、嘘だ。俺は、お前のことが好きだ。それだけ言っておきたかった。今は答えなくていい。ロックマンを倒してから、心置きなくお前の答えを聞く」
それは家族愛とか、兄弟愛とか、隣人愛とか同志愛とか、そういうものではないのだとわかっていた。そういう方向へ逃げることは、クイックの表情が許さなかった。
嫌だとか、困ったとかは全く思わなかった。
メタルは微笑んだ。
それを目にしたクイックが真っ赤になる。
可愛いな、と思った。
「続きは――……」
ロックマンを倒してからにしよう。
唇の動きだけでそう伝えて、ついに限界が来た。残存エネルギーがレッドゾーンに突入し、メタルマンは強制的にスリープモードに落ちていく。
クイックが額と額をこつんとぶつけたらしいことが睡眠時のログに残っていた。
そのすぐ後にアラートが鳴って、クイックは自分の基地を守るために出撃していった。
+++
死にフラグでした。
実際死ぬわけではないので負けフラグですが。
ちなみに、ロックマンはすぐに下に落ちます(笑)ほら、ロック視点ではエアーを倒すとアイテム2号が手に入るなんてわからないじゃないですか。
BGMはジミーサムPの曲エンドレス。「9th」が一番好きです。
読んでくださった方、ありがとうございました!!
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