メモ程度の小話。
「刑部、何だこの箱は」
「大友が送ってきたのよ。“みぞの鏡”というておったがな」
「鏡が入っているのか」
「おそらく、そうであろ」
「中身を見ていないのか?」
「開けてもおらぬわ。何でも、のぞくものの心からの望みがうつる霊鏡だというておったがな、興味がないゆえ」
「そうか」
「ぬしはどうだ? 徳川の首でも見れるかもしれんぞ」
「事が成る前になったような気になってどうする。くだらん」
「では何が見えると思う?」
「見てみなければわからんだろう」
(くだらぬと言いつつ結局見るのか……)
「……」
「……」
「……」
「……どうだ三成よ。何が見えた?」
「……秀吉様がおられる。在りし日のように、笑っておいでだ」
(そうであろな……ぬしならば、そうであろ)
「半兵衛様もいらっしゃる。随分と顔色が良い。とてもお元気そうだ」
「なるほど」
「刑部……貴様もいる」
「……どうだ? われも壮健であるか?」
「貴様は……今と変わらん」
「……」
「貴様だけは、今と同じ姿をしている……」
「ヤレ……友の快癒を願ってくれぬとは、ヒドイ男よな」
「……すまない、刑部」
「まァ、よいわ。所詮幻よ、マボロシ。どれほど望んだとて、現にはならぬ。まことくだらぬオモチャよ」
「刑部」
「なんだ、三成?」
「貴様が壮健であったなら」
「貴様は此処に……私の隣にいなかったかもしれん」
「三成……」
「許せ、刑部。私は確かに、酷い男だ」
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大谷さんが鏡を見ないのは純粋に怖いからです。でも怖がってることも認めたくない。
[8回]
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