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愚者の跳躍

ロックマンの絵とか文とかのログ倉庫。2ボス、ワイリー陣営で腐ってます。マイナーCP上等。NLもあります。サイトは戦国BASARAメインです。

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Amazing Grace(吉三)

2010/10/27(Wed)19:49

ぴくしぶより。


大谷さんが恋に落ちる話。三成は大谷さんが失わなかった唯一のものだといいな、という妄想です。幼少を少し捏造。大谷さんは昔は健康だったという設定にしてます。




【Amazing Grace】




 ――われらは友だ。ただ、友だ。
 ――共にあり、同じものを見、同じ風を感じよう。
 ――互いに守りあえば、失うことはない。


 そんな戯れを聞かされた彼がふわりと笑うのを心底愛しいと思った。


   *


 世の中とはなんとも残酷なもので、出自は知れぬものの「武勇・知略・人脈」と兼ね備えた武将というのは自分の他にはそうそう居るまいと内心自負していた大谷吉継は、ある時自分が何もかも失っている事に気付かされた。
 原因は業の病である。ゆっくりと進行していったそれは、少しずつ吉継の周囲から人を遠ざけていった。もとより性格に難ありと自覚はしていたが、それでも付き合いのある連中は互いに利ありとして交流していたものたちである。病も軽ければ吉継との付き合いの方に利があれど、元より直る見込みのない病である。当然「武勇」は失われ、力を尊ぶ豊臣軍にて吉継の価値は一段下がる。さらに、病がここ数ヶ月のうちに坂を転がるように悪化すれば、誰もが命を惜しんで去っていくのも当然と言えた。
 登城もおぼつかず屋敷で寝込む彼を見舞う者もちらほらいないではなかったが、誰も彼も面会までは望まず、家人に「お大事にと誰某が申しておったとお伝え下さい」と伝言を頼む程度である。何かの拍子に吉継の病状が回復し、返り咲いたときの保険だというのが見え見えで、報を聞くたびに吉継は怒りと嘲笑がない交ぜになった泥が腹の底に溜まるのを感じた。
 「武勇・人脈」が消え失せれば残るは「知略」となるが、吉継は己の「知」とやらが早くも曇り始めているような気がしてならなかった。目が痛むため陽の光を厭い、溶け崩れた己が姿を見られることに耐えられずに家のものとすら障子越しにしか話さない。医者すら厭うて遠ざけるのは我ながらやりすぎと思うがどうにも嫌悪と拒絶が止められなかった。日がな一日痛みと痒みに呻き、誰にともなく憎悪と怨嗟を向けることでそれをやり過ごし、灯りを点けて自分の姿を見ることさえ耐えられず、闇の中手探りで薬を塗り、布を巻いた。
 ふと我に返ればなんとも阿呆の所業ではないか。
(われはとうに狂いよったか。暗がりで全てを呪いつつ、独り朽ち果てるのが我が定めか)
 自分の行いがただの現実逃避であり、無意味に症状を悪化させるだけと知りながら止められない。このまま腐肉の固まりとなり、見つけた家人が悲鳴を上げるのを亡霊となり笑ってやろう。そうだそれも悪くない。
 望んで閉じこもった闇の檻の中、吉継はそれでも出されたものを食し、薬を塗り、布を替え、そうやって自らを慰めながらひたすら生にしがみついた。
 何もかも失い、自分には何一つ残らぬのだと思いながら死ぬことがどうにも恐ろしかったのだ。
 生きてさえいれば何とかなるなど楽観した事はなかったし、本気でどうにかしたければ素直に医者に己を見せるべきである。この中途半端さがなんとも見苦しい。
 死にたくなかった――が、光の下に出る勇気がなかった。
 完全に狂った姿を見られることに耐えられなかった――だから他者を呪う事で自分を慰めた。
 生きているのか死んでいるのか、狂っているのか正気なのか、その境界すら曖昧になる中で、それでも吉継の日々はある意味平穏に過ぎて行った。


 そして、それは一人の男の帰還によって唐突に破られた。


 もはや親しい間柄となった痛みに包まれてうとうとしていた吉継は、荒々しい足音によって目を醒ました。家人ではない。彼らは主を気遣って極力音を殺して歩くし、そもそも食事や物の差し入れをする時や緊急時以外には部屋には近づかぬよう命じてある。何時うつるかわからぬ病持ちの主に彼らが仕えるのは、他家より高い給金で日々の糧を得るためだ。彼ら吉継も無用に接触しないでいる方が、互いに心安らかにいられる。
(家人でないなら……誰だ?)
 ため息をつきながら身を起こした吉継は、家人の止める声も聞かず廊下に続く戸が勢いよく開かれる音に眉をひそめた。寝室まで外の光が届かぬよう、吉継の閉じこもる寝室と外の間にはもう一つ部屋があったが、足音の主はなんの断りもなく、その部屋にずかずかと踏み入って来る。
 障子越しに差し込むに微光に目がくらんだ吉継は、きつく瞼を閉じたまま唸るように尋ねた。
「……誰ぞ?」
「い、石田様ですっ!」
 問う声の苛立ちを含んだ響きに恐縮しきった家人の応えを、低い男の声が遮った。
「もういい、貴様は下がれ」
「で、ですが……」
「私は刑部に会いに来たのだ! 邪魔をするつもりなら残滅するぞ!」
「これ三成」
 不機嫌絶頂な唸り声を上げる男が家人を切り殺す前にと、吉継は声をかけた。
「誰も通すなと命じたのはわれよ。これ、そなたも下がれ。去る前に戸を閉めてゆけ」
「は、ははっ!」
 転がるように逃げていく家人(それでもちゃんと廊下の戸は閉めたようだで瞼の裏を刺す痛みが和らいだ)の足音に、チッという舌打ちが混ざった。ぱちりと刀を納める音が続いたので、少なくとも「残滅する」という言葉はかなり本気だったようだ。
 吉継は驚き半分呆れ半分で障子越しに声をかける。
「何をしに来た、三成?」
「数ヶ月ぶりだというのに随分な物言いではないか」
 自分も他人のことは言えない答えを返しながら、三成が腰を下ろす音がする。衣擦れに混じる重々しい音からして、どうやら軍装のままやってきたらしい。
「はて、ぬしが戻ったとは知らなんだ」
「当たり前だ。戻ったのは今日だからな。先ほど城で半兵衛様にご報告申し上げたばかりだ」
 豊臣秀吉の左腕と称されるこの男――石田三成は、数ヶ月前から敵方の抑えとして遠方の地に派遣されていた。任を解かれて大阪に帰還した彼はすぐさま上司に報告し、その足で吉継の元へやって来たらしい。腹立ちが収まらないのか、三成は苛々と言葉を続ける。
「そうしたら貴様の家人に『大谷様は誰にもお会いになりませぬ』などと止められた。面会できぬほど悪いのかと思えば医者がいる様子も無いし、屋敷の雰囲気も至って平穏ではないか。貴様も寝込んではいるがきちんと食事もするというし、会ってはならん理由が思いつかなかった」
 だから押し入ったと言いたいらしい。もう一つ言えば、自分たちを隔てる障子を開けたくて仕方が無いという気配がしたが、そこは一応我慢しているらしい。
 この男は一体何をしに来たのだろうか――心の底から首をひねった吉継は、恐る恐る問いかけた。
「もう一度尋ねるが、三成よ……主は何をしに参ったのだ?」
「貴様の見舞いに決まっているだろう」
 何を当然の事を貴様は聞いているのだと言わんばかりの答えだった。
「……見舞い」
 はて、見舞いとは何だったか。
 誰とも会わぬことが常態となっていた吉継は、一瞬言葉の意味がわからなかった。
「貴様、手紙の返事を書かなかっただろう」
「……手紙?」
「陣中から何通も送ったのだぞ」
「…………」
 そういえばいくつか手紙が届いていると言われた記憶があった気がする。病状を尋ねる半兵衛からの文には「まだしばらく出仕できぬ」とのみ書かせて返したが、それ以外の者からの文は一切目にしていない。字を読むには明りがいるが、吉継は光を厭うていたし、単に外界とのつながりが厭わしかったこともある。
「それはすまなんだ……目が明りに弱くなってな。城からの手紙を読み上げさせる以外はひとつも目を通しておらぬのよ」
「そうか……」
 三成はそれきり拗ねたように口を閉じた。
 吉継も吉継で、わけがわからぬまま黙り込んでいた。石田三成は吉継の幼馴染ではあるが、性格はまるで違う。子供の頃は随分親しかった記憶もあるが、元服の後は苛烈で気難しい三成の扱いが上手いせいで何かと組まされていたが、慣れている吉継にとっては大した苦でもない。秀吉にひたすら傾倒する三成の側にいれば「利」があると思い付き合っていただけだ。
 表面上、互いに対する態度に昔と変わりはなかったが、吉継の三成に対する感情といえばその程度だった。むしろ三成がこのように見舞いに押しかけてくるというのが理解できない。
 病など恐れる男ではないというのは承知していたが、そこまで気にかけてもらう謂れが思いつかないのだ。
「刑部……私は怒っているのだぞ」
 随分と長い沈黙の後、三成がポツリと言った。
「返事が来ぬゆえ、何か貴様を怒らせるような事をしたのだろうかと思い、半兵衛様に文を書いたのだ。そうしたら、病の重さで出仕も出来ぬと答えが返った……驚いたぞ。私が出発する前は、普通に城へ上がっていたではないか」
「ぬしが行ってからすぐ、な……」
 今まではまだ人並みではあった容貌も、すぐに二目と見られぬものになった。長いこと己の顔など見ていないが、どうなっているか、恐ろしくて今更確認する気にもなれない。
「私への返事も書けぬほど悪くなったのかと思って、気が気ではなかった……ようやく大阪に戻る事を許されたので、こうして見舞いに来たのだ。それを……何をしに来たなどと」
「……それは、すまなんだ。見舞い客など、久々でな」
 吉継は謝ったが、どうも三成の求めているのはそういうことではないらしかった。気の短い彼はとうとう耐えられなくなったのか、ぱっと腰を上げた。
「刑部、開けるぞ」
「ならぬ!」
「何故だ」
「見られとうない」
「こんなに暗くては何も見えん。医者さえも遠ざけるのはそのためか。見られたくないからか?」
 三成の口調に詰問の響きが混じった。自分の愚かさを指摘されているようで、吉継は恨めしげに答えた。
「そのとおりよ……ぬしに何がわかる」
「わかりはせん。ただ、貴様が無意味に死んでいくのを黙って見ていることはできん。開けるぞ」
「やめよ三成!」
 外へと続く戸はぴったりと閉じられている。しかし、互いを隔てる障子が開かれたことで、吉継は己の潜む闇が――病で満たされた空気が三成の方へ流れ出ていくのを恐ろしいと感じた。
 薬の香気と腐臭が入り混じった闇を、三成が手探りで進んでくる。
「どこだ、刑部」
「来るな、三成……」
「そちらか」
 吉継は怯えて後退ったが、声と衣擦れの音が三成に位置を知らせた。ほどなく気配が近づき、手が触れる。
「やめ……よ」
 それきり、吉継は動けなくなった。袖を捕らえていた三成の手が手繰るようにして吉継の手を探し当てたのだ。
「見つけたぞ、刑部」
「ッ!」
 手袋を外しているのか、ひやりとした――それでも確かな温もりが吉継の手をそっと包み込んだ。
「痛むのか?」
 吉継の呻きを痛みのせいだと判じながらも、三成は手を離そうとしない。
 ふりほどくべきだ――頭ではそう思ったが、やはり吉継は動けなかった。
「……離せ、ぬしにもうつるぞ」
「うつりはせん」
 三成は斬り捨てるようにそう言うと、両手で吉継の手を包んだままじっとしている。
「何をしておる……」
「昔、貴様がやったとおりに」
「なに?」
「私が素振りのしすぎで豆を潰し、痛がっているときにこうしただろう。痛みを消すまじないだとな」
「……ああ」
 そういえば純真な子供だった彼をからかうために、そんな事をした気はする。
 ひどく真剣な顔で手を掴まれていた三成が「本当だ!痛くなくなった!」とニッコリ笑うのを、吉継は内心面白がっていた。あまりに純粋なその笑顔が見たくて、何度もそうしてやったのだ。
 そんなこともあった。
 大人になって忘れていたが、自分は彼の事を好いていた。彼も自分によく懐いていた。
 半分くらいはいずれ利用するつもりではあったが、石田三成という男は何より打算というものと縁がない。ひたすら愚直に、あの頃の感情を抱き続けてきたのだろうか。
「何ゆえだ?」
 問いの答えを、自分はすでに持っている――そんな予感と共に呆然と問いかける。
「ぬしは何ゆえそこまでする? われが、われの病が恐ろしくないのか? 死が怖くないか」
「私が病など恐れるか」
 三成の答えは、この男にどこまでもふさわしく、きっぱりと迷いなかった。
「私は貴様の友だ。他に何の理由が要る」
「……友か?」
「そうだ。約束しただろう。私は片時も忘れたことなどないぞ」
 三成は、まさかお前は忘れたのかと言いたげだった。
「約束……」


 ――われらは友だ。ただ、友だ。
 ――共にあり、同じものを見、同じ風を感じよう。
 ――互いに守りあえば、失うことはない。


 そんな戯れを聞かされた彼がふわりと笑うのを心底愛しいと思った。
「そうよな……約したな。われの元服の折だったか?」
「そ、そうだ……生涯友であると、その……契りを、結んで……」
 毅然としていた三成の言葉が羞恥でしどろもどろになるのを聞いて、吉継はひっそりと笑った。
 元服の儀の前の晩――何を思ってか、自分は当時佐吉と名乗っていた三成を抱いた。少々偏った衆道の知識と子供らしい戯れを吹き込んだ。手懐けておけばいずれ役に立つかと思ったのだ――いや、傷一つない美しい珠のような魂を自分の手で少々歪めてみたかった――いや、それも嘘でただひたすら彼が愛しくて、自分と彼だけの絆を求めた。
(野心に目がくらみ、その思いすらも忘れ去っていたか。くらんだ目で手に入れたものなど、それは幻に決まっておるわなァ)
 大人になってから手に入れたものはすべて消えた。いまだ自分が屋敷に住んでいられるのは温情にすぎない。役に立たぬ存在と見られれば、いつ取り上げられてもおかしくはない。
 残ったものは、子供の頃に手に入れていた三成だけだった。
「別に変な意味ではないが……貴様は、私にとって大事な存在なのだ。秀吉様と半兵衛様の次にだがな」
 付け加えた言葉には照れ隠しの響きがあり、吉継はさらに笑みを深めた。その気配に気付いたか、三成が「むぅ」と拗ねた響きの声を上げる。
 見えなくてもわずかな気配で相手の仕草が目に浮かぶようだった。
 自分たちはこれほど近しかったのだ。ただ、吉継が気付いていなかっただけで。
 三成は不器用に手探りで巻かれた包帯を指でなぞりながら、憮然として言った。
「……痛むか?」
「……いや」
 吉継はゆるく首を振る。
 こここ数ヶ月、常に彼を苛んでいた痛みが消えていた。三成の手の温もりが、死にかけていた全身に広がって、命を吹き込んでいくかのようだった。
「痛うなくなったわ……ぬしのまじないが効いたな」
「そうか」
 三成は安堵したように呟くと、恐れ気もなく自分の頬に吉継の掌を押し当てる。
「温かいな……」
 刑部が生きていて良かった。
 今にも泣き出しそうな声音に吉継の頭がくらくらした。
 例えば――三成が秀吉と半兵衛にこれと同じ事をするだろうか。
 否だ。
 間違いなく三成のこの行為は自分だけのものだ。
(ああ……われはぬしに救われた)
 自分には何もないのだと思いながら、独り寂しく死ぬことが怖かった。
 だが、三成は吉継が孤独ではなかった事を教えてくれた。
 いつかこの男のために死のう――喜びに満ちた酩酊の中で、何の打算もなくそう思った。
 この先、自分はさらに狂うだろう。病が止められるわけではない。何度でも絶望し、世界を呪うだろう。
 だが、今この瞬間、三成が自分を救ってくれた事実が消えることはない。
 たとえ狂っても、この温もりを忘れてしまったとしても、何もかもを憎んだとしても、
(われのいのちは、ぬしのものだ――)
 そういう定めと、今決まった。

 大谷吉継はこの瞬間恋に落ちたのだった。

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