キリバンの後半がこのシリーズ前提のネタになるので少し進めようかと思います。
「崩壊」の直後、ワイリー視点です。ロックもちょっとだけでてくるけどあんまり喋らないので登場キャラには含めてません。
私はワイリー爺さんに夢見すぎ。
【同日】カテゴリ追加しました。未選択になってたので;
※ややロボグロ描写あり。ご注意ください。
【再構築_01 weight of life】
「すまん! わしが悪かった、許してくれ!」
惨めに許しを請うことも、恥ずかしいとは思わない。
生きなければならない。生き延びなければならない。
その覚悟と意志は、一人であった時以上に強いのだから。
城の最深部から転送装置の並ぶ部屋に戻ると、ワイリーは使い慣れた端末を手に転送装置の一つに向かった。白衣は煤だらけで髪もところどころ焼けこげた惨めな格好だが、着替えている余裕もない。
せめてDWNたちのコアの保存だけでもさせて欲しいといえば、ロックマンはためらいがちに了承した。閉鎖されているとはいえ長時間放置しておけばコア内部まで破損が進んでしまうし、コアを破壊しなかった以上ロックマンには彼らを助ける気があったということだ。
ロックマンは甘い。人間だからという理由で自分を殺すことが出来ず、破壊活動を行った危険な戦闘用ロボットを完全破壊することが出来ないでいる。後の禍根を経つのなら、それはやらなければならないことだというのに。
だが、その甘さこそ自分の希望だ。
ワイリーは転送装置のスイッチに手をかけ、立ち尽くす仇敵を振り返った。
「なんじゃ、ついてこんのか? わしを見張らんで良いのか?」
「…………」
ロックマンは言葉を失ったまま、幼い顔に言いようのない苦しさを浮かべて転送装置を見つめている。
装置にナンバーなどは振られていないが、これを作ったワイリーと実際に中で戦闘したロックマンは知っている。ここはDWN.009メタルマンの部屋だ。
「おい、どうした? 何か言わんか」
「……ないと、お……から」
ロックマンがかすれた声で呟く。
「あん?」
「全員助けるまで、お前は逃げないと思う……だから、ここで待ってる」
「ふん。良くわかっとるじゃないか」
ワイリーはロックマンの顔に浮かんだわずかな表情を恐れと罪悪感と見て取った。
その理由は、転送先の部屋に入ってすぐにわかった。
壁といわず天井といわず切り裂き、突き立ったままのメタルブレードは激しい戦いを生々しく伝えてくる。撒き散らされた金属片と床に広がるオイルは、殺人現場を思わせた。
必死に息を整える。
正面の壁際に赤い鉄屑があった。折れた脊椎ユニットから伸びた無数のコード。砕けたマスクの下に見える顔は人工皮膚も人工筋肉も剥がれて鋼色の頭蓋ユニットをのぞかせている。
震える息を吐き出し、大きく吸って歩き出した。靴底が踏む鉄片とネジ。オイルの水溜り。ロボットは上半身だけでもかなりの重量があり、平らな床に寝かせるだけでも老いを感じ始めた腕には重労働だった。
装甲を開けて眉を潜める。胸部中央にあるコアには微細なひびが入っていた。端末に繋いで状況を見ると、内部にまでかなりの損傷があった。
ライトの作ったロボットには、大規模な損傷を受けた際は残るエネルギーでコアを閉鎖し、自分を守る機能がつけられていた。ワイリーは大切な息子たちにも同じ機能をつけたのだ。にもかかわらず、コアが損傷しているということは、閉鎖後に追撃を受けたとしか考えられない。
ロックマンの顔に浮かんでいた罪悪感――まさか、ロックマンが?
怒りに半ば感覚を失った指先でキーボードを叩く。
画面に現れる文字列。
【アルバート……すいません】
人工声帯の最新ログだ。さらにキーボードを操作する。処理のログをさかのぼれば、メタルマンのコアが壊れた理由はすぐに知れた。
彼は閉鎖モードに入ることを拒否し、そのためのエネルギーを全てロックマンへの攻撃に使った。その執念がロックマンを怯えさせたのか、バスターによる追撃を受けることになった。
その結果、コアが破損したのだ。
コアの閉鎖はロボットの意志とは無関係に行われる。メタルマンはロボット工学の知識を駆使し、できないはずの禁忌をやってのけたのだ。
最後の瞬間までワイリーを守るために。
「馬鹿者が……!」
ぼろぼろの部屋の中に叱責の声が虚しくこだまする。コアの損傷がそれ以上進まないように状況を固定し電力を落とす。自分にとっては大した事のない簡単なことだというのに、滲んだ視界でソケットが見えず、体の芯が震えるせいで何度も手が滑った。
「わしは、わしは……お前にそんな戦い方を教えた覚えはない……この親不孝者めが!」
涙交じりの罵倒はむしろ自分を奮い立たせるためだった。
敵に泣き顔など見せられない。処置を終えたワイリーは、涙を拭って部屋を出る。
診てやらなければならない息子は、まだあと七人いるのだから。
――貴方に、それが言えますか?
決戦の前、メタルがワイリーの元を訪ねてきた。ワイリーマシンの最終調整を行っていたワイリーは、いつになく真剣な息子の様子に手にしていた工具を置いた。
「なんじゃメタル……あらたまりよって」
「博士……貴方の覚悟を見せて欲しいのです」
メタルは言った。
自分たちは博士のためなら喜んで死ぬ。
貴方は我々の命を背負ってくれるか?
「自分のために死んでくれと――貴方に、それが言えますか?」
メタルは厳しかった。昔からそうだった。自分がそのように創ったのだ。
自分が迷い、くじけて夢を諦めかけたとき、その支えとなってくれるよう創り上げた友――熱くも冷たくもなる金属の名を冠したAI、metalheart。
創造主にすら覚悟を強いるのは、それこそ彼の優しさなのかもしれなかった。
演説など柄ではなかったが、ワイリーは八人の息子たちを集めて短い話をした。あがっていたので何を話したかは憶えていないが、最後に自分が言ったことは覚えている。
わしにお前たちの命をくれ――そういったときの彼らの反応を、一生忘れることは出来ない。
仕掛け人であるメタルは弟たちを見た。エアーもバブルもクイックもクラッシュもフラッシュもヒートもウッドも、一人ずつ頷いて微笑んだ。メタルは彼らに頷き返し、兄弟の総意を述べた。
「喜んで、我らが父よ」
ワイリーは思う。
これから何体ロボットを作っても、この子達と築いた以上の絆は結べない気がする。
彼らは自分が最初に創り上げたナンバーズであり、最初に自分が背負った『命』だから。
DWNは自分の息子だと、心の底から思っている。
戦えば傷つき、いつか失われると知っていた。
自分たちの命を背負えるか、と彼らは聞いた。
他の者たちはメタルほど酷い状態ではなかった。それでも彼らが力の限り戦ったことはわかる。彼らが壊れ、光の消えた目で虚空を見上げている姿を見るのは辛い。心だけでなく、身体中が悲鳴を上げるほど苦しかった。
この苦しみが彼らの命の重みなのだろう。
それでも今更夢は曲げられない。自分に残された命が後どれくらいなのかは知らないが、理想のためにその全てを使うと決めたのだ。
これから同じようなことはいくらでもあるだろう。
その度に自分は同じような気持ちを味わうのだろう。
それでも、諦めはしない。
改めて覚悟を決めよう。
息子達も共に抱いてくれた夢を叶えるために、自分は『悪』になったのだから。
そう――諦めの悪さだけは、誰にも負けはしない。
Dr.ワイリーによる二度目の世界征服計画は、またもロックマンの活躍により阻止された。
ロックマンの製作者であるライト博士は改心した友を受け入れ、世界最高の頭脳を持って平和のためのロボット開発を始めた。
世界に、しばしの平和が訪れた。
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適当な英語副題をつけてみた。もうちょっとカッコいい御代にしたかったんですが、無理でした。深く突っ込まないでください;
ワイリー爺さん、あんなにロボットが好きなのだから、壊されたら辛いと思うのです。絶対に直す自身があったとしてもですよ、彼らは自分のために傷ついたわけですから。
スパアドロックマンは動画だけ見ていろいろ爆笑したのですが、甦ったナンバーズを前にした博士の嬉しそうな様子だけすごく心に残ってます。
少なくとも彼らの「自分のために死んでくれ」「貴方のために死ぬ」という言葉は逆意をも含んでいます。必ず生き残るようにという願いと意志です。本当に死ねば博士の負担になりますから、エアー以下は生き残ることを選びました(半ば強制ではありますが)。
メタルは本当に死ねる手段を持っていました。本当に博士のために死ねるのだということを証明するために、その手段を使いました。実際本当に死んでしまったわけではないんですが、死ぬ覚悟が口先だけじゃないということを証明するのは、自分しかいないと思っていたからです。
長ったらしく書いてしまいましたね。夢見すぎですいません;
でもワイリー博士の土下座は誇り高い土下座だと思うのです。見た目は情けないですけどね(笑)
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