忘れました。
「次は~かなぁ」って今日の記事に書いたのに、仕事中に降ってきたネタが短そうだったのでちょっと書いてみました。メタルとワイリーの会話。キリバンのメタクイ話の前夜的な話です。
メタクイ前提なので、苦手な方はご注意下さい。時系列は2の後で、メタルが復活してからです。メタルがワイリーをファーストネームで読んでます。
ぼやっとした頭で書いたのでいろいろ酷いかもしれません。
タイトルはお題配布サイトからいただきました。
【きみ、誓いの言葉を覚えているかい】
久々にDr.ライト研究所から自身の研究室へ戻ってきたワイリーは、んっと背伸びをして懐かしげに機材を見回した。主不在の間もDWNたちによって管理されてきたため、やや型は古いが整備は完璧だ。
満足げにうなずいた彼は、傍らに立つ一人のロボット――メタルマンに笑いかけた。
「いやぁ……久々にライトの奴と組んで懐かしいし新鮮じゃったが、やはり助手にするならお前が一番じゃな」
「ありがとうございます。俺も、再びアルバートのお役に立てることを嬉しく思います」
「それじゃ」
礼儀正しく応える最初の息子に、ワイリーはびしっと指を突きつけた。
「お前にはまた、わしの助手としていろいろ手伝ってもらうつもりなんじゃが……そろそろ仕事以外のことも考えろ」
主の顔に浮かぶ表情を『心配』だと判断したメタルは、怪訝そうに首を傾げる。
「仕事以外のこと……ですか?」
「お前には趣味のようなものが何もないじゃろう? 今まではワイリー軍団の一切を切り盛りしてもらっていたわけじゃが、わしもしばらく……そう、しばらくの間は大人しくしとるつもりじゃしの。お前も自分のために生きて良い頃合じゃ。やりたいことを見つけるといい」
「俺の、やりたいこと……ですか?」
メタルは軽く目を伏せて考えこんだ。
確かに、自分には趣味らしい趣味はない。ロックマンに敗れるまでは、世界征服を果たすためにひたすらやるべきことをやってきたのだが、それを苦にしたことはなかった。
ワイリーのために働くことも、弟たちのために働くことも、メタルにとっては幸せなのだ。反面、何もすることがない時間というのがかなり苦痛だった。読書は嫌いではないが、データ収集のために読んでいるだけで趣味とはいえない。
メタルを理解しているワイリーには、相手が考え込むのは予想がついていた。
苦笑しながら、「別に今答えを見つけろと言っているわけではない」と言おうとしたとき、メタルがいきなり顔を上げた。
「アルバート」
真剣な顔だ。
「な……なんじゃ?」
「クイックが……」
メタルは言葉を選ぶように一瞬沈黙を挟んだが、結局直球に告げた。
「俺を好きだと言いました」
ワイリーはぽかんと口を開け、間抜けな表情のまま聞いた。
「……いつ?」
「あいつがロックマンとぶつかる直前のことでした」
メタルは呆然とするワイリーを見て、やはり困らせたな、と反省した。しかし今更「何でもありません」とは言えない。
ショックを受けはしても、自分たちの親である彼なら理解してくれるはずだ。
そう信じて言葉を続ける。
「俺は兄弟全員を愛していますが、クイックへの感情は……上手く言えませんが、特別なものです。クイックの方も、同じだと判断しています」
目を伏せ、もう一度己の心に問う。
それほど難解な問いではない。
回路は光の速さで解を出す。
「俺は、あいつの気持ちに応えたいと思っています」
「そ、そうか……」
ワイリーは多少なりとも冷静さを取り戻しているように見えた。そう判断したメタルは安心して続ける。
「貴方が俺に好きに使える時間を下さるというなら、それはあいつのために使いたいと思います。構わないでしょうか?」
「それは……クイックと付き合っても良いかということか?」
「そうです」
即答されたワイリーは、眉間に指を当てて黙り込んだ。メタルは直立不動で返事を待つ。
ややあって、手の影からじろりと睨む視線が来た。
「…………念のため聞くが、ダメだと言ったらどうするつもりじゃ?」
「忘れます」
メタルの返答は淀みなかった。
「感情抑制プログラムの一部を改造して、特定の感情を削除するプログラムをつくり、ピコセカンド単位でルーチンさせればクイックに対して再び同じ感情を抱いたとしても、それを自覚する前に消去できます。俺がクイックに特別な感情を抱くことは――少なくとも、それが固定化されることはありません」
この想いが消える瞬間は――そのプログラムを走らせる前には苦しみを感じるだろう。だが、それだけだ。その後には、何もない。
育む事が許されないなら、消してしまえばいい。
災いの種は、芽吹く前に取り除かれるべきだ。
目を伏せて表情を消したメタルの顔を眺め、ワイリーは深いため息をついた。
「忘れようと努力するんじゃなく、感情を削除し続けるか……お前は本当に手段を選ばん奴じゃな」
ワイリーの声にはやや皮肉げな響きがあった。彼はメタルがロックマンとの戦いで命を捨てようとしたことをいまだに怒っているのだ。家族皆に酷く心配をかけた身としては恐れ入るしかないが、それが自分だとも思う。
「それが必要なことであれば」
残酷なまでに冷徹な判断が下せるのは自分だけだ――メタルはそう判断している。
「俺だけでなくクイックにも同じプログラムを流せば、全ては丸く――」
「もういい!」
ワイリーは慌ててメタルの言葉を遮った。
「わかった。お前に命令する。それはやるな。絶対にじゃ。どんなことがあっても、絶対にやってはならん! お前たちの心を殺すようなことはわしが許さん」
ロボットを愛していると公言してはばからない老人の目には、うっすらと涙が浮かんでいた。
メタルは思う。
自分は、彼が反対してくれると予想していたのではないか。
愛情を消すという自分の判断はワイリーのためだ。ワイリーの元で十全に戦うための、不安要素をなくすための判断。
彼はそれを理解し、メタルの気持ちを汲み取った上で反対してくれる――自分はそこまで予想して、口にしたのではないか。
彼を悲しませる言葉を、わざと――許されないことだ。
「了解しました」
幸福なことだ。
「もう二度と申しません。どうかお許し下さい」
言葉以上の思いを込めて頭を下げるメタルをどう思ったか、ワイリーはふうと息を吐いて手近な椅子に腰掛けた。コンソールに肘をつき、感情の薄いメタルの顔を不思議そうに見上げる。
「そもそも、何故わざわざ許可を求めたりする? わしに黙って付き合えばいいじゃろうが」
元はといえばワイリーがやりたいことを見つけろと言ったせいなのだが、メタルは理由を考え、わかりにくい答えを見つけた。
「クイックは、貴方の息子ですから」
「つまり……アレか? 『娘さんを僕に下さい』的なアレっちゅうことか?」
「…………言葉の意味はわかりませんが、言いたいことは理解しました。そういうことだと思います」
それは確か、人間の言葉で結婚の同意を求める言葉ではなかったか。
兄弟機であるロボットに結婚も何もないだろうが、永遠を望むならば同じことだ。
「俺はクイックを愛しています」
迷いなく思いを口にする最初の息子を眺め、ワイリーは思った。
たとえクイックを愛しても、メタルが感情に流されることはないのだろう。
クイックの命が必要とあらば、躊躇わずに死ねと命じることができるだろう。
内心の苦悶を押し殺して、凛然と、その後の地獄を受け入れた上で、愛するクイックを死地に送ってのけるだろう。
そしてクイックもまた、そんな兄の心理を理解した上で笑って死ぬだろう。あるいは、想い人に苦しみを味わせまいと、必死に生き残る道を探すかもしれない。
そういう連中なのだ、自分の息子たちは。
苛烈で、高潔で、不屈の闘志を持った戦士なのだ。
だからこそ、幸せになって欲しいのだ。
メタルは黙ってこちらを見ている。静かに、答えを待っている。
従順な息子に、ワイリーは笑ってやった。
「別に反対する理由はないわい……お前たちがより幸せになれるなら、その方が良いんじゃ。なにより、お前はずっとわしの手足となって働いてくれた。言い方は悪いが、褒美としてわしの大事な息子の一人をくれてやる」
メタルは深々と頭を下げた。
「ありがとうございます」
今まで何度も同じセリフを聞いてきたが、これほど心のこもった礼は初めてのように思う。
現金な奴め、そう思いながらも笑みは深まる。
「……幸せにしてやるんじゃぞ?」
「はい」
「忘れるなよ? お前はこれからもわしの助手としていろいろこき使ってやる予定なんじゃからな。覚悟しておけ」
「喜んで」
メタルは顔を上げ、嬉しそうに笑った。
+++++
お父さんの許可をもらった時点でメタル兄さんの頭の中ではクイックと付き合ってる状況になっていたのでした、とかいうオチをつけてみた。
[2回]
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