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愚者の跳躍

ロックマンの絵とか文とかのログ倉庫。2ボス、ワイリー陣営で腐ってます。マイナーCP上等。NLもあります。サイトは戦国BASARAメインです。

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独りで踊れるならここに居る必要も無い(M←Q)

2009/03/10(Tue)22:46

「ただ、きみの強さを呪う」のQサイドです。続編なのでそちらを読んでから出ないと多分意味不明。
時系列的には再構築の途中で、Mの修理中の話なのでM出てきません。
やっぱりとりとめない感じ;



タイトルはお題配布サイトからいただきました。







【独りで踊れるならここに居る必要も無い】




 黒い装甲のライトナンバーズが去ったのをクイックに教えたのは、まだ生き残っていた聴覚センサーだった。ふらつきながら研究所の中に入り、じっと立ったまま索敵系の回復を待つ。シャットアウトしないままでいた痛覚が全身を駆け巡っていたが、その痛みをクイックは黙って味わっていた。
 クイックが研究所の警備役を買って出たのは、武装がなくても戦えるのはDWNで彼だけだからだが、少しでも役に立っていると思いたかったからだ。
 もとより忍耐強いわけでもない自分が現在の状況に長く耐えられないのはわかっていた。
 ロックマンに敗れてからすでに三ヶ月が経つ。ワイリー博士はいまだこちらに顔を出すことができず、大破したメタルの修理は遅々として進まない。
 クイックは自分に戦闘以外能がなく、作業の邪魔にしかならないことを早々と悟った。長兄への愛情を自覚したのはロックマンと戦う直前だったが、大切な人を取り戻す力は自分にはない。電脳系に強いバブルやフラッシュは寝る間も惜しんで破損したコアの修復作業にあたり、他の兄弟も――不器用なクラッシュですら――その手伝いをしている。だが、手伝いといっても大したことができるわけでもない。求められるままに部品を取ったりコードを繋いだり外したり、買い物に行ったり、その程度でしかない。無力感は耐え難く、クイックは自分だけにできる役目を請け負うために、戦闘が可能なレベルまで自分を修理してもらった。
 ワイリー博士が逮捕されたとはいえ、自分たちに恨みを持つ者や博士の技術を狙うものは少なくない。すでに何度か研究所は襲撃を受け、クイックはそれら全てを一人で退けていた。
 家族を守る――その使命感だけがクイックを繋ぎ止めている。
 滅菌カプセルの中に横たわるメタルのことを思う度に絶望が襲ってくる。決して諦めないと何度自分に言い聞かせても、愛した人が永遠に失われてしまうのではないかという恐れは拭えなかった。
 涙は流れず、叫ぶこともできず、顔が歪む事すらない。メタルの大破を知ったあの日から、クイックの感情表現プログラムにはバグが生じている。苦しみはただ胸の内を灼き、しかし見苦しく喚かずに済むのならそれでも良いと思う。
(メタルが戻ってくるまで、俺が皆を守る……)
 だが、あのライトナンバーズに自分を撃たせた理由は、本当に使命感によるものだっただろうか。DRNは話が通じない相手ではない。説得して追い返すことはできただろう。自分は何故あんなことを言ったのだろうか。
「クイック、大丈夫ッ!?」
 転げるような足音が階段を下りてきた。最後の五段をジャンプしてエントランスホールに飛び込んで来たのはヒートだった。
「すごい音したから心配したんだよっ! クイック何でそんな怪我してるの! 敵はやっつけたの!? ねぇ!?」
 弟はクイックに飛びつこうとして直前で止めた。実際立っているのもやっとだったクイックは、ヒートの身体を覆う箱型装甲の隙間に手を入れて小さな頭を撫でてやった。
「研究所の機械、壊れなかったか……?」
「うん……ちょっと停電しちゃったけど、一応大丈夫みたい。今皆で調べてるけど……ほんとに大丈夫? 一人で歩ける?」
「ああ……」
 ロックマンに負けた後、ヒートは以前よりも泣き虫になり、兄弟にべったりになっていた。大粒の涙を零しながら、ふらつくクイックに手を貸してエレベーターに乗せ、過剰なほどに「大丈夫?」と繰り返す。
「ねぇクイック大丈夫? 痛かった? 敵はやっつけたの?」
「敵は……逃げたよ。それに……」
 痛みはまだ残っている。痛覚を閉じてしまえばいいのに、それをしない理由は一つだ。
「……メタルはもっと、痛かったはずだ」
 言ってはいけない一言だった。
「クイックぅ……」
 ヒートの目からさらに涙がぼろぼろ落ちた。さすがに罪悪感を感じたクイックが謝ろうと口を開いたところでエレベーターが止まり、青い巨体が視界を塞いだ。
「エアー……」
「敵はライトナンバーズだったか……お前が無事でよかった」
「何言ってるんだよエアー、ゼンゼン無事じゃないよクイックこんなに怪我してるじゃない!」
「ヒート、いいから先行っててくれ」
 クイックは食って掛かる小さな弟の頭をもう一度撫でて宥めた。ヒートは兄たちを何度も振り返りながら廊下を走っていく。
 見送ったクイックが踏み出した足はもつれ、青い装甲に受け止められた。
「クイック、いい加減痛覚を切れ」
「……でも」
「辛いのはわかるが、自分を傷つけるような真似はやめてくれ。俺たちはもう、誰も失いたくないんだ」
 兄の言葉に、クイックは小さく頷いて感覚をシャットダウンした。痛みはエラーに変わって回路を埋め尽くす。ほとんど見えていない目を閉じ、少しだけ力を抜いて身体を預けた。
 自分を撃たせたのは、敵を追い返すための方便などではない。
 ただ、無性に傷つきたかった。
 壊れてしまいたかった。
 取り戻せないなら、せめて同じような痛みを味わってみたかった。
 少しだけ、あのDRNには悪いことをしたなと思う。彼は自分と対峙したかったのだろうが、生憎こちらにはそんな余裕はなかったのだ。
 エアーがわずかに身体を動かし、クイックも同じ方向――廊下の先に目を向けた。ブレて壊れておまけに解像度の下がりまくった視界で二つ下の弟が喚きながら近づいてくる。
「馬鹿かお前! ただでさえ困窮してパーツも手に入らねぇってのに、無意味に壊れてんじゃねぇよ! 修理するのは誰だと思ってんだ!」
 心底苛立たしげな言葉なのに、それは心配の裏返しなのだとわかった。その証拠に、フラッシュはぶつぶつ文句を言いながらもエアーと二人がかりでクイックの身体を運び始めた。
「お前がぶっ壊れたら誰が俺たちを守るってんだ。こちとら充電する間も惜しんで働いてるってのに、仕事増やしてんじゃねぇぞクソ兄貴が」
 廊下の先にいくつもの影がある。ちゃんと見えなくてもわかる。皆自分を案じて出てきたのだろう。
「ごめん……悪かった」
 素直に謝ると、フラッシュはぴたりと口を噤んだ。彼はじっとクイックを見下ろし、ぽつりと言う。
「あんま心配させんじゃねえ」
 エアーが小さく身を揺らして笑い、クイックは家族が駆け寄ってくるのを見ながら目を閉じる。
 独りではないことが、ありがたかった。





+++


何でクイックがあんなことを言ったのか考えてできたネタです。別にQは強いわけじゃなかったみたいです。Fがとてもツンデレハゲ。
とても不親切なつくりですが、DWNはバスター等の武装を使えない状態です。クイックは肉弾戦メインなのでクイックブーメランはなくてもいいやという話。というか、仲間を守るために戦うQが好きなだけです。あとQはカミングアウト済み。



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