ネタだけがネタ帳に溜まっていくという状況をなんとかしたいと思って最新のネタを書き始めてみました。
まだQまでしかできていない頃の話。
昔はMとQは仲悪かった、というかQが一方的にMを嫌ってたんですが、その辺の話を書いてみようかと。Mがマジギレする話も書いてみたかったですし。
そういうギスギスした話が苦手な方は注意してくださいね。
4話くらいで終わる予定です。
【速度狂の停滞_01 】
現状はこうだ。
DWN.012クイックマンは現在、廃墟と化した街で戦闘中。敵は人型軍用ロボットが三十体。一体一体はクイックの敵ではないが、高度な集団戦闘プログラムを仕込まれており、隙のない連携攻撃を行ってくる。それでも電撃的という表現でも足りないほど超高速のヒットアンドアウェイ戦法により、その数は十四まで減っていた。クイック自身は装甲に軽微な損傷を負った程度だ。
味方はいるにはいるのだが、ジョー程度ではクイックの速度には追いつけず、廃墟のどこかをうろうろしているうちに何体か撃破されていた。何度も命令を求める通信が入っていたがクイックは無視を続けている。足手まといと一緒に戦うつもりは皆無だ。弱いのだから戦いはこっちに任せて隠れていれば良いものを。
こうるさく鳴り響く部下からの呼び出しをねじ伏せ、完全に通信を遮断する。集中の邪魔だ。
(こっちの被害がでかくなるのも面白くないな。あと半分……面倒だからさっさと片付けたいんだが)
完全に姿を隠している敵を見つけ出すのはあまり得意ではない。敵を求めて広い廃墟を走り回るのも飽きてきた。狙撃でちょっかいをかけてくれれば、絶対に逃がしたりしないのだが。
そう思う間に索敵系にヒットがあった。目前の広場に二体、バスターの銃口がクイックの方を向いてエネルギー充填を開始していた。だが、遅すぎる。クイックは鼻で笑いながら地面を蹴って速度を上げた。
追尾能力のある小型のブーメランを射出することも、手にした巨大なブーメランを投擲することもなかった。速度が落ちるからだ。
『速さ』こそがこの自分の、『クイックマン』の武器だ。
わずかに身を揺らすだけで二条の光弾を避けると、広場に飛び込む。二体のちょうど真ん中に躍り出たクイックは回転しながら手にしたブーメランを一閃。上下真っ二つにされたロボットががしゃりとひび割れたコンクリートに落ちて砂塵を舞い上げる。
「……と」
一歩下がって回転を止めたクイックは、その広場が半壊したビルに周囲を囲まれていることと、壁や窓の剥がれ落ちたビルの中から自分に狙いを定める十二体の軍用ロボットと十二条の光弾を吐き出すバスターの輝きを目にした。
完全に姿を隠している敵を見つけ出すのは、クイックはあまり得意ではない。
(こいつら囮ッ――)
瞬時に射線を計算した電脳が吐き出したのは、どう動いても最低三発は直撃するという嫌な結果だった。予想されるダメージ率は50%を超える。動きが鈍ればさらなる追い討ちが待っているだろう。
今までの戦闘中に判明したクイックの速度と跳躍力の限界を考慮に入れた底意地の悪い弾道は『個にして全』の完璧な連携を売りにする集団戦闘プログラムが放つ必勝の手だった。
(このままじゃマズい――)
自分の光学神経には三段階のプロテクトがかけられているという。一つ目はすでに外しているが、二つ目以降はまだ外したことがない。それだけの敵にあったことがなかったからだ。今までの敵はどいつもこいつもクイックからすればカタツムリ並のトロさで、今日の敵もさほど速い方ではない。だからこそ彼らはこちらの能力を慎重に測り、仲間を囮にすることでクイックの足を止めて王手をかけてきたのだ。
――これで詰みか?
――いや、違う。もっと速くなれば良いだけだ。
――この攻撃は現在の自分の速度が最大であった場合のみ有効な攻撃だ。
三つのプロテクトは単純に25%の能力上昇を意味するものではないらしかった。最後のプロテクトが本当に限界の最高速度を表すというのは知っているが、二段階目のプロテクトはその手前までの速度までを開放する。
正直、今そこまでのスピードは要らない。今よりほんの少し速くなれるだけで、この状況は突破できる。だが、今の速度でいることはできない――結局、それが全てだ。
百分の一秒にも満たない思考の後、クイックはためらいなく二つ目のプロテクトを外した。
弾かれたように体が加速した。
赤い流星と化した現在のクイックは、残像すら他者の目には映るまい。走っているという自覚さえ希薄になり、回路が速度に負けて焼け付いていく――その苦痛さえ爽快だった。
もはやクイックにとって自分以外の全ての存在は停止しているも同然だった。一瞬前までは自分に致命的なダメージを与えるはずだった光弾の群れでさえ、今のクイックにとってはただ潜り抜け、追い越し、飛び越え、置き去りにすべき障害物にすぎなかった。光弾と光弾の間隙を縫うように潜り抜けて跳躍し、壁に空いた穴に滑り込んで旋回――射手の傍らを掠めるような軌道でブーメランの刃を当てる。切断の衝撃さえもクイックの足をわずかでも止めることはできない。
そのまま床を蹴って跳躍し、向かいのビルへ、さらに次のビルへ――
一呼吸の後、クイックがいた場所に無数のエネルギー弾が命中し、爆発を起こした。
同時にクイックは四つ目のビルで十二体目の敵を屠り終わっていた。二十四のパーツに分かれた敵が、別々の場所で同時に重力に引かれて崩れ落ちる音が響く。
≪作戦終了(クリア)……――ッ!?≫
電波で呟いた瞬間、膨大な量のエラーが脳裏を埋め尽くした。指先が制御を失い、巨大なブーメランが重い音を立ててひび割れた床に落ちる。信号の通わなくなった膝関節が体重を支えきれずがくりと崩れた。視覚センサーにも異常が起こっているのか、いつもクリアな視界が霧にまかれたように霞んでいる。
倒れるのは無様で嫌だったので、必死に腕をついて体を支えた。焼きついてエラーを起こした回路をバイパスしようとしても、生き残った回路がほとんど見つからない。
(そんな、馬鹿な……)
ぎぎぎと軋みを上げる身体は一向にクイックのいうことを聞こうとしない。立ち上がろうともがいた拍子にバランスを崩して埃だらけの床に倒れた。あまりの情けなさに泣きたくなる。
聴覚センサーが背後で駆動音を捉えた。上半身だけになった十二体目がバスターにエネルギーを充填している。クイックでなくても避けることは簡単そうな最後の悪あがき――それを避けるだけの余裕が、今の彼にはない。
閃光と衝撃――視界が真っ赤に染まり、何かが外れる嫌な感覚が襲う。
頭の中で乱舞する強制終了の文字――そして、闇。
ABORT : END OF SIMULATION---
[DWN.012-solo] CODE-20470216.sce//MISSION FAILED.
AUTO RESTART………….DONE.
わずかな間を空けてDWN.012クイックマンは再起動した。
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