ぴくしぶより。最後です。最後だけ超短い。
なりなりコンビは「お父さんと息子」のような気がしている。
【3 赤河の夢:三成】
時は流れた。
日の本を制する寸前で、覇王は倒れた。軍師の最後の足掻きも虚しく、二人の夢は露と消えた。
残された豊臣軍を率いるのは、石田三成――同盟相手とはいえ、主を喪って狂った忠犬に元就は興味が無いという姿勢を貫いている。
だが、それはあくまで『中国の太守、毛利元就』としての顔だ。元就個人としては別の感想がある。
三成は元就の夢の中に度々現れた。夢の中、彼は一歩も歩こうとしなかった。必死に彼の腕を取り、背中を押して歩かせようとする友の存在にも気づかぬように、ただ蹲っていた。
嘆きに捕らわれ、歩みを止める三成を見ると苛立ちが納まらない。現実では何の関心も持たずにいられるのに、夢の中では自分を止めることができない。
三成の背後には、倒れた半兵衛と秀吉がいる。
彼は、その屍の上を歩いて来たはずなのだ。
「立て!」
夢の中、元就は叫んでいた。同じ事を何度繰り返したかわからない。
「立て石田! 立って歩け!」
歩き続けなければ二人には会えない。嘆きに意味は無いというのに。
「竹中と豊臣の無念が聞こえぬのか! 歩き続けろと願う声が届かぬか! 貴様の傍らに在る友に気づかぬか!」
夢は夢だ。元就の声が届くはずも無い。元就の夢の中、三成はいつまでも立ち尽くし、子供のように嘆き狂う。その姿に感じるのは口惜しさだった。そして、竹中と豊臣、大谷への憐れみだった。
現実で同じ事を語りかけるつもりはない。元就の目的は、中国の政権を磐石なものにすること。
だが、未来にはあらゆる可能性が広がっている。
その網の目の先に、自分がこの男を悪夢から叩き起こす可能性も存在しているのだ。
もしもその時が来たら、思い切り殴ってやろう。二度と悪夢になど捕らわれないように――元就はそう心に決めた。
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