なんだか気分がダウナーだったので、鬱過ぎて止まってた6話が書けるかな~と思ったらホントに書けました。気分て大事ですね。BGMなしって言うのも重要かも。
5話目とは変わって重くて痛くて暗いです(いつもと同じとも言う)。要注意。久々のロック視点。ロック好きな方は辛いと思います(これもいつもと同じですが)。
一応全員出ますが、セリフがあるのはほぼFとAです。あ、でもホントは多分一番辛いのはF。隊長スキーの方にはごめんなさい。いい男には苦しんで欲しい、という歪んだ愛情表現です。Fはカプ方面でも不幸っぽいし。
あと流れ的にほぼメットレスですが、あまり関係はないかも。
【再構築_06 pride of heel】
あいつらの死は俺の選択だ。
誰のせいでもない。
誰にせいにもさせない。
あいつらが俺を慕ってくれたからこそ、俺が責任を負わなきゃならない。
考えるだけで悲しいし苦しい。罪悪感で押し潰されそうだ。
でも、その苦しみこそが俺たちの間にあった絆の証だ。
あいつらを大事だと思えばこそ、その命を天秤にかけるのは俺でなきゃならない。
俺は可愛い部下どもと家族の命を天秤にかけるんだ。
軽かったほうの命の重さは、俺が持とう。
この命のある限り、忘れない。
あいつらの姿も、形式番号も、共に過ごした日々も、だんだんと生まれていったあいつらの個性も、喜びも苦しみも、何もかも。
それはきっと俺の義務で、そして、権利なんだ。
これは俺の選択だ。
誰のためでもない、俺のための選択だ。
――俺が、誰も恨まないでいられるように。
言いだしっぺはフラッシュだった。
メタルのコアの再生に入って二ヶ月が経った。ナンバーズのコアには特殊なレアメタルが使われているのだが、それが底を付きかけているのだ。ついでに、自分たちが生存していくためのレアメタルやパーツも足りない。それぞれがアルバイトをしてお金を稼いでいたけれど、パーツはともかくレアメタルには到底手が出ない。
フラッシュは言った。
ワイリー基地にはまだ部下のロボットたちの残骸が片付けられないまま残っている。彼らを分解すれば、流用して使えるパーツがある。流用できなくても、売ってしまえば金にはなる。
自分たちの修理をしている段階ですでにパーツが足りなかったのだ。手っ取り早く手に入れる方法は、誰もが思いついていた。ただ、口に出せなかっただけだ。
「ジョーのコアに使われてるレアメタルは、量は少ないが俺たちナンバーズのコアに使われているものと同じだ」
そう言うと、フラッシュは唇の端をぎゅっと吊り上げて笑みを作った。
兄弟の仲で、一番部下を大切にしていたのはフラッシュだ。
そしてジョーの大半はフラッシュの部下だ。
死人の金歯をほじるような真似だった。
そして、まだ助かるかもしれない者たちにトドメをさす行為だった。
最初の声を上げたのがフラッシュだったからこそ、皆形だけの反論などしなかった。
音の三倍の速さで飛ぶアイテム2号を操縦するには、戦闘用の身体でなければならない。
ロックマンに変身したロックは、幼い顔に焦燥を浮かべて呟いた。
「皆……早まってなきゃいいけど……」
ライト博士のお使いでロックはDWNの住む研究所に出かけた。戦いの後直接会うのは初めてだが、エアーマンやバブルマンなどとは画面越しに話している。おおむね落ち着いた応対をしてくれていたので、彼らも平和な生活に馴染んできたのだろうと思っていた。
しかし今日に限って街の研究所には誰も居なかったのだ。鍵がかかっていて入れなかった。トレーラーもなかった。彼らは生活費を稼ぐために仕事についているが、全員がいなくなってしまうことはないはずだ。
行き先の可能性として最もありうる場所は、彼らの夢の跡――ワイリー基地だった。
彼らの主であるワイリーはまだライト博士と一緒にいる。彼は改心したのだ。もう世界征服などしないと誓ってくれた。DWNだって、もう戦う必要はないのだ。平和に暮らせばいい。基地になんて帰る必要はない。
そう必死に言い聞かせ、ぐっと歯をくいしばる。
自分がずっと現実から目を逸らそうとしてきた事はわかっている。戦闘用ロボットとしての冷徹な判断は、弱い『ロック』をずっと責めているのだから。
近づくと、基地の裏手にトレーラーが停まっているのが見えた。やはり彼らはここに居るのだ。アイテム二号から降りて基地の中に入ると、壊れたロボットたちが所狭しに――しかし整然と並べられていた。ワイリー基地を守っていた者たちだけではなく、ナンバーズの八つの基地にいたロボットたちもいる。皆連れてきたのだろうか。
ほとんど全部、ロックが壊したロボットたちだ。光をなくしたカメラアイに責められているような気がして足を速める。僕が悪いんじゃない。君たちを悪いロボットに改造したワイリーが悪いんだ。そう言い訳したくなる。
――戦うと決めたのは僕なのに。
うつむきそうになったとき、聴覚センサーが音を捉えた。奥だ。以前戦いに来たときは知らなかったが、基地の奥には彼らの生活スペースとワイリーのラボがあったらしい。ロボットたちの横を通って足を進める。動く色が見えた。橙色――クラッシュマンだ。
小柄な少年の姿をしたロボットは、以前のようなドリルの腕ではなく五指のあるハンドパーツをつけていた。バイザーつきのヘルメットに覆われていた頭部はオレンジ色の髪に包まれ、堅牢だった装甲すらほとんどついていない。修復が不完全であるという話は本当らしい。
彼は両手で壊れたロボットを抱えて持ち上げ、どこかに運ぼうとしていた。
「クラッシュマン!」
彼が目を上げ、ロックを見て動きを止めた。人形のような無表情な顔にわずかな表情めいたものが浮かぶ。小さな唇の端に力が入って、眉がわずかに寄った。警戒か、怒りか、とにかく友好的な表情ではない。それくらいはわかる。思い当たる節もある。
ロックに倒されたクラッシュマンは、最後の瞬間までロックに対する怒りを露わにしていた。その後会うのはこれが初めてだ。
「あの……」
声をかけようとして、躊躇った。何を言えばいいというのだろう。彼は敗者であり、自分は勝者だ。戦い終わって手を差し伸べれば、互いの誤解も解けて仲良くなれる――そんな家庭用ロボットの『ロック』の考えを、戦闘用の思考は幼い、甘いと切り捨てる。
自分は彼らの信じるものを打ち砕いたのだ。
彼らがそれを大事に思っていたならば、自分を許すはずがないではないか。
言葉を失うロックに対し、クラッシュマンは「付き合いきれない」というより「顔も見たくない」という仕草でぷいと顔をそらして歩き出した。見失うわけにも行かず、ロックは慌てて後を追う。
「ねぇ! このロボットたち、修理するの?」
そう言った瞬間、くるりと顔だけ振り向いたクラッシュにものすごい目で睨まれた。顔の他の部分はまったく動いていなかったが、目だけは違った。ただの無機物で作られているロボットのカメラアイだというのに、クラッシュの無言の怒りがひしひしと伝わってくる。
「…………」
「…………」
「…………あの、……」
「…………」
「……ご、ごめん」
「…………」
クラッシュは何も言わず前を向くと、やや足早に歩き始めた。
「ね……ねえ、他のナンバーズもここにいるの?」
「…………」
返答はない。積極的無言というか無視されていることがありありとわかる。
ロックは仕方なく彼の後に着いて行った。しばらくすると、大柄な青い機体が姿を現す。
「クラッシュ。次の奴を――……ロックマン」
「エアーマン……」
彼なら画面越しに何度か話した。つまり、こちらの言葉が通じる相手だ。
安堵のため息をつき、ロックはエアーに向かって言った。
「ここで、何してるの? 修理……するの?」
エアーはクラッシュと無言で視線を交わす。レーザー通信なにかでやり取りがあったのか、一瞬のタイムラグの後にクラッシュがエアーに抱えていたロボットを渡し、回れ右する。橙の機体は無言でロックの脇を通り抜け、姿を消した。
エアー自身はロックの方を見やり、
「いや、修理をするつもりは無い」
「じゃあどうして――」
「お前の質問は一つ答えた。今度は俺の番だ――何故ここに来た?」
「街の……研究所に誰もいなかったから。ライト博士に言われて、君たちの所に行ったんだけど。行き先を、確かめなくちゃって……」
「確かに、どこかへ行くとは言っていなかったからな。俺たちが再び反乱を起こすのではないかと疑ったか?」
エアーの静かな口調に、ロックは真っ直ぐ視線を返すことが出来ずにうつむく。
「――…………ごめん」
「謝る必要はない。そう取られて当然だからな」
彼はそう言うと、ロックに背を向けて歩き出した。
「待ってよ! ここで君たちが何をしてるのかまだ聞いてない!」
ロックはエアーの後を追って走り出した。背後に追いつくと、淡々とした答えが返ってくる。
「知って愉快なことではないぞ」
「それでも……このまま帰れないよ」
「……そうだろうな」
それきり無言になったエアーの後に続いて半壊した扉を潜り抜ける。
そこは、かつてラボだったらしい場所だった。壁際に並んでいたはずの機材は剥がされ、あるいは壊れて光を失っている。作業台の上には腹の中身を晒したロボットが並べられており、フラッシュマンとバブルマンが何か作業をしていた。クイックマンとヒートマンが二人の傍にいたが、二人はロックを見ても何も言わなかった。四人ともやはりヘルメットや装甲がなく、不完全な姿だ。
台の横に並べられたキャリアーには種類ごとに分けられたパーツが山盛りになっており、
「エアー、そこ置いといて」
顔も上げずにバブルが言った。
ドライバーを握った彼の手は器用に動き、淡々と目の前のロボットを分解していく。外したパーツは分別してキャリアーの箱の中に入れられた。ロボットは小型ではあったが、それでも驚くほどのスピードで台の上から消えてしまう。
「次」
無言のクイックが、羽部分が損傷したバットンをバブルの前に置いた。
ドライバーが閃き、次々にネジが外された。
外装が外され、クイックの手でカートに積まれた。
中身を晒したバットンが瞬く間に小さくなっていく。
駆動系、動力系、冷却系、チューブ、集積回路、アクチュエーター、光を失ったコア、小型の人工頭脳、そして――何も無くなった。
「次」
クイックが無言で次のロボットを台に乗せる。
分解が始まる。
ロックはぞっとした。部屋の中に立ち込める重苦しい雰囲気を振り払いたかったが、声を上げられる雰囲気ではない。説明をしてくれそうなエアーは、バブルの作業を眺めている間に部屋から出て行ってしまっていた。
立ち込めているのは『死』だ。
それも、葬儀や墓などの叙情的なものではなく、バクテリアに分解されて土に戻るような――モノとしての死の側面だ。
ヒトの身体は土に帰る。
ロボットの身体は、部品に戻る。
それは、かつて廃棄される予定だった自分の弟たちが辿る筈だった運命でもある。
台の上で分解されて『何も無い』になっていくロボットたち。
やがて、ヒートがパーツを満載したキャリアーを押して出て行った。エアーとクラッシュがやってきて、新たなロボットを置いて出て行った。小型のロボットがまた数体、分解されていなくなった。今度はウッドマンがやってきて、カートを押して出て行った。
「……っ」
息を漏らすような音がして、ロックは我に返った。
どれくらい硬直していたのか確認することは避け、音の方に視線を動かす。
フラッシュが足元に並べられたジョーの一体を抱え上げ、台に載せたところだった。
彼はまず頭部の人工頭脳をチェックし、小さなチップをつまみ出した。それはパーツ分けの箱の中には入れられず、硬化プラスチックのカバーで保護された後、彼の手元に置かれたケースに収納される。
「…………」
フラッシュはすぐに作業には入らず、指先でこつこつと台を叩いた。
唇が音の無いままに動く。
す ま な い。
ご め ん な。
そこから先は――バブルほどの速度は無かったものの、ほぼ同じだった。
ジョーが分解されていく。丁寧に、丁寧に。次々とパーツが奪われ、最後には『無』が残る。
「いつまで居るつもりなんだよ……」
自分に対しての言葉だと気づかず、反応が遅れた。
「……あ」
次のジョーを抱えたフラッシュがこちらを睨んでいる。
「いつまで見てんだよ、ロックマン?」
「な……何の、ために……こんな……」
「見てわかんねぇのかよ――……『リサイクル』だよ、『リサイクル』!」
「…………!」
息を呑みながらも、やっぱり――と納得していた。
DWNたちの修理が不完全なのは、パーツが足りないからだ。ワイリーとライト博士が話しているのを漏れ聞いたところでは、メタルマンの復帰が遅れているのもそのせいらしい。材料がないのだ。
彼らはパーツを求めて、かつての部下たちを分解しているのだろう。
もう、彼らを修理してやることは出来ないのだと諦めて。
「…………何でテメェが泣いてんだよ」
フラッシュマンの声で、視界がぼやけている事に気づいた。ロックは溢れていた涙を拭い、混乱する気持ちを纏めようと足掻きながら言った。
「た、たぶん……君たちが、泣いてないからだと……思う」
「……泣くかよ」
「…………ッ」
「やるべきことがあるんだ。泣いて手を止めるわけにはいかねぇだろ。泣いてたって……」
――メタルが直るわけじゃねぇんだ。
不機嫌に呟きながらも、言葉どおり手は止めない。
「…………っ」
彼らに平和は来ていない。
まだ眠っている兄を取り戻すまで、彼らの元に平和は来ない。
わかっていたのだ、そんなことは。
そもそも、心を持つほどのロボットのコアが壊れたこと自体が世界で初めての例なのだ。
どうしたら直せるのか、そもそも直るものなのか、誰も知らない。
だが、ロックはライト博士ならば治せるのではないかと思っている。ライト博士の研究所なら、設備も材料もある。そしてロックは、彼の息子として、ライト博士こそ世界一のロボット工学者だと信じている。
その思いにすがるように、言うべきではないことを言っていた。
「ライト博士、……ライト博士なら、直せるよ……っ……だから、だからもう――……ッ!?」
戦闘用に変身している身体が反応した。弛緩していた全身に力が漲り、身構える。
たまたま、ラボに七体のロボットがそろったタイミングだったらしい。
皆、言葉を失ったようにこちらを見ている。その中で一人、フラッシュマンだけが――
「…………」
呆然とした視線の代わりに、両目から照準用のレーザーを放っていた。
彼のバスターはまだ修理されていない。だから意味はない。
ただ、攻撃の意志にまで高まった敵意の表現というだけだ。
「フラッシュマン……」
「……ライト博士に頼んのは、俺たちがワイリー博士を信用してないって言ってるようなものだろうが」
レーザー光は揺るぎなく、ロックの目と目の間を狙っている。
「世界中の誰もがライト博士の方が優れてるって評価しようともな……俺たちだけはそれをしちゃいけねぇんだよ」
そこまで言うとフラッシュは顔を歪め、照準をやめた。背を向け、ドライバーを手に取り、
「それに兄貴は……メタルは、誰よりワイリー博士を信じてんだ。ワイリー博士に創られた事を誇りに思ってるんだよ! ライト博士に修理されたなんて聞いたら、屈辱のあまり自分で自分のコアを引き裂いちまうだろうさ」
反論しようとしたロックは、そのまま言葉を飲み込んだ。そんな考えは自分には理解できない。
「皆、作業を続行しよう」
フラッシュが動いたことで硬直していた場の空気も緩み、バブルの一声で各々が動きを再開した。
ロックは傍に来ていたエアーに軽く肩を叩かれ、促されるまま部屋を出る。
「あそこまで戦ったのは兄者の意地だ。それは、兄者が命より優先したものだ。それを、弟である俺たちが踏みにじるわけにはいかん」
基地の外にロックを送りながら、エアーは言った。
「わかれとは言わん。もともと家庭用だったお前と、生まれた時から戦闘用だった我々の考え方は、根本的に違うのだろうからな」
「でも……僕らは、きっと……」
分かり合えるはずだと続けようとした足掻きの言葉は、そのあまりの空しさに飲み込まざるを得なかった。ロックは何でもいいから何か言おうと口を開き、記憶に残っていた事を言った。
「フラッシュは……ジョーのチップを……」
「ああ」
エアーは頷く。
「あいつは特に部下と親しかった。レアメタルの使われているコアは分解するが、記憶データを収めたチップだけは保管するつもりらしい」
遺品のようなものかも知れんな、と続けた彼は、基地の前に置かれていたアイテム2号に目を留め、軽くロックの背を押した。
「お前が俺たちを思いやってくれた事くらいは、皆わかっている」
「……ごめん」
遠まわしなフォローに、謝罪の言葉が漏れた。
青いロボットはそれには応えず、背を向ける。
「お前は優しい。だが、優しさが他者を傷つけ、踏みにじることもある……覚えておいてくれ」
戒めのような言葉は、最後に重く影を落とした。
アイテム2号に手を掛け、帰るべき道である空を見上げる。
明るく晴れた空は、平和にしか見えない。
DWNたちにそれを拒絶させるのは、『意地』なのだろうか。
そんなものは捨ててしまえと思うのは、勝者の傲慢なのだろうか。
ロックは錯綜する思考を振り切るように、アイテム2号の手すりを掴んだ。
スラスターが熱と光を吐き出し、轟音と共に青空に飛び込んでいく。
>>
【再構築_07】へ+++++++++++++
正義の味方って、当人の優しさが真であればあるほど、実はすごく辛くて嫌な立場だと思ってます。相手を悪として切り捨ててしまえるほど残酷なら、それはホントの正義の味方じゃなく、ただ己の正義に酔ってるだけかと。ロックにはそんな子になって欲しくないんですよ。
え? 中二病?
上等ですよ。
中二病続きでごめんよ、フラッシュ。部下たちと繋がりがあればあるほど隊長って辛い立場です。
私の設定では、コアと人工頭脳は別物なんですが、コアが違えば同じボディ、同じ記憶でも別人になります(コピーロボットなんかがいい例ですね)。後代のジョー(帰ってきたやつとか)にデータチップを移したとしても、それはフラッシュが大事にしてきた「彼ら」とは別物です。
そうやって記憶はあるけど違う彼らと新しい思い出を作るのもアリですが、かつての部下たちのチップをお守り代わりに持ち歩いてるフラッシュもらしいかな、と思ったりします。
もともとのプロットにあったのはフラッシュとロックの会話だけだったので(エアーが久々にヘタレ脱出して次男ぽかった)ちょっと捩れがある感じで恐縮ですが、一番嫌な話を乗り越えたので、あと3話+αの再構築シリーズ、頑張れるかなと。
次も鬱い展開ですけどね。
ともかくも、読んでくださった方々、ありがとうございました。
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