ぴくしぶより。
「我が歩みを止めることなど万に一つもない!」というセリフを聞いてから浮かんだままネタ放置していた話です。ナリ様の日輪信仰の訳とナリ様が見続けている夢もちょっと妄想。
元就+半兵衛(豊臣時代)、元就+三成(3、同盟時)の話です。腐のつもりはありませんが、ほんのちょっとだけ面倒見の良いナリ様です。
注意)
・ナリ様に夢見すぎの捨て駒が書いた文章です。
・ 半兵衛が寝込んで弱ってます。死を暗示する描写あり。
・ 毛利は豊臣とやや従属型の同盟中な感じ。
・ 最初の方、人によってはややグロく感じるかもしれません。
・ 回想に杉殿(元就の育ての母)が出てきます。大河ベースに妄想捏造。
・ 金吾は史実ネタを引いて秀吉の養子→小早川の養子になってます。
・ 智将二人の金吾への評価が本気で酷いです。
・ 大谷さんは「三成と共に見出された半兵衛の弟子」という設定です。
【1 赤河の夢:半兵衛】
そこは、地獄といっていい場所だった。空は漆黒。大地は見渡す限り、赤黒く腐った沼地で覆われている。踏み出した足を支えるのは、倒れ折り重なった屍だ。死肉でできた道が、どこまでも地平の果てへと続いている。そして、その道さえも磐石ではない。時に底なし沼に引きずられ、あるいは倒れた者に足を掴まれ道連れにされる。無限の道程に心が折れれば、その場で膝を突くだろう。そして、倒れた者は後から来る者の道となるのだ。
その地獄の中を、無数の人々が歩いていた。彼らが目指すのは、闇の世界の遥か彼方。地平の果てに眩い夜明けの光が差し、誰もがそこを目指している。
元就は、人々に混じって黙々と歩いていた。
いつもの夢だ。いつの頃からか繰り返し見ている夢だった。
始めは悪夢だと思っていた。地面である屍たちは、腐敗して足の裏でおぞましく潰れた。赤い泥沼に足を取られ、沈む絶望に駆られた事もある。咽ぶような血臭には息が詰まり、吐き気がした。
だが、ふと周囲の様子を見回して気がついた。元就と同じく歩む人々は、時に他者を打ち倒して己が道とし、あるいは手をつなぎ、互いに肩を貸しあいながら歩いていた。
そうか――ここは地獄などではない。自分たちが生きる現実の、本当の姿なのだ。
昇陽のごときあの光は未来であり、死者の魂が安らぐ彼岸でもあった。
*
――よいか、松寿丸殿。力尽きるまで己が命を歩き続けた者の魂だけが、あの輝きの元で永遠を得るのじゃ。
元就の育ての母は、晴天に輝く光を指差しながら、幼い元就に繰り返しそう説いた。
――わたくしの愛した大殿は、日輪の輝きの中にいらっしゃる。松寿丸殿の母御も、あの光の下で松寿丸殿を見守っておいでですぞ。寂しく思うことはありませぬ。日輪を拝みなされ。松寿丸殿を愛した方々は、皆あそこにおられるのです。
――松寿丸は父上と母上にお会いしたい。杉様、あの輝きの元へはどうすれば行けるのだ?
――生きるのです、松寿丸殿。倦まず、弛まず、怖れず、強かに、己の命を生ききるのです。志半ばで倒れるのが人というもの。例え松寿丸殿が夢を果たせずともかまいませぬ。それは、人であれば当然のこと。それでも諦めず、歩み続けるのです。
普段の彼女は、ただ明るく華やかで情深く、どちらかというと頭は悪い。そんな、どこにでもいる女性だった。いや、どこにでもいるというのは誤りだ。元就は今だに、彼女よりも美しい女性を見たことがない。だが、それだけだ。彼女は一人の、か弱い女に過ぎなかった。
そんな彼女が何故ああも強く輝くのか。松寿丸は初めてその源を知った。
その美しさは生きようとする意志。その意志を支える信仰を、少年もまた受け継いだ。
時は過ぎ、元就が愛した人々は次々とこの世を去った。生者の中で、元就と心を通じ合わせるものは皆無となった。
それでも、天を仰げば彼らを感じた。
それが元就の信仰であり、心を支えるものだった。
*
元就は知っている。この夢は元就の世界観だ。光に向かい、屍の道を歩き続ける。自分もいつか倒れ、後から来る者の道となるのだろう。だが、その時が来るまで歩みを止めるつもりはなかった。
かつて自分は孤独と重責に耐え切れず、歩みを止めた時があった。光を見失い、ただがむしゃらに進もうと血を求めた。あれこそが真の絶望だ。もう道を見失うことはない。
物思いから返り、再び歩みを進めようとしたとき、横手でどさりと音がした。誰かが道行きに絶望し、膝をついたのだろう。
興味はなかったが視線を向けてみると、見知った顔がいた。
柔らかな白い髪、白い軍装――それと同じくらい白い顔。豊臣軍の軍師、竹中半兵衛だった。
元就は、彼が病を得ていることを知っている。化粧をするのも、仮面を着けるのも、青ざめた顔色を悟られぬためだ。彼は親友に天下を取らせるために病身をおして働き続けているが、長くは持たない。元就はそう睨んでいる。
だが、この光景はなんだ。
膝を突いた半兵衛の隣、秀吉の巨体が歩いていく。並んで歩いていたはずが、見る間に友を引き離していく。
元就は激しい苛立ちを感じ、思わず声を放っていた。
「竹中、何をしている。立て」
鋭い声にも反応することなく、半兵衛は寂しそうな、幸せそうな、相反した微笑を浮かべながら、少しずつ遠ざかる友の背を見続けている。
その姿は、元就には我慢しがたいものだった。
起きている間は完璧に制御できる感情は、逆に眠りの間は元就の手を離れてしまう。
「竹中ッ! 我に呆けた面を見せるでない! 立て!」
途方もない腹立たしさと共に、元就は目を醒ました。
[1回]
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